デジタル技術で(ほぼ)完全武装したバッテリー駆動のSUV「アウディQ6 e-tron(イートロン)」に、2024年6月、スペイン・バスク地方で試乗した。新世代のフロントマスクを備え、かなりスタイリッシュなのも特徴的だ。
Q6 e-tronは、日本市場にも導入されている「Q8 e-tron」と「Q4 e-tron」の間に入るモデル。24年3月に発表された最新モデルだけあって、4輪をモーターで駆動しての走りもさることながら、デジタル技術をフルに使っての快適性能や、デザインなど注目すべき点が実に多い。
実車を見て私が感心したのは、まずボディデザイン。プロファイル(側面)を見ると、テールゲートが微妙な角度で寝かされていて、いままでのアウディ車と一線を画した、適度なスポーティさがうまく盛り込まれているのがわかる。
もうひとつが、フロントマスクだ。(依然として)シングルフレームグリルと呼ばれるフロントグリルは健在。しかし大きくモダナイズされている。特徴はボディパネルと同色、かつ小ぶりになっていること。その下に開口部をもつ黒い部分が大きく設けられている。
上下幅の薄いヘッドランプユニットとともに、要素が上にまとめられている。ボディパネルがグリルを抱え込むようなデザインで、いままでなかったスポーティさが印象的だ。なにより、コンセプトカーのような斬新さがある。
これまで「技術による先進」をかかげきたアウディ。ピュアEVだけをとっても、「e-tron(現G8 e-tron)」(2018年)や、スポーティなドライブが楽しめる「e-tron GT」(2021年)と先駆けている。
Q6 e-tronのあたらしさは、さらに、自動車の土台ともいえるプラットフォームにある。アウディが属しているフォルクスワーゲングループ内で開発された「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」を使う最初のアウディ車だ。
PPEはプレミアムセグメント(いってみれば高級車)に属するピュアEVのためのプラットフォーム。Q6 e-tronに先駆けて、24年1月に、ポルシェが電動化した新型「マカン」で使ったのがニュースになったのも記憶に新しい。
Q6 e-tronでは、100kWhと大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電での走行距離は最大625km。かつ、最大充電出力270kWのバッテリーによって、充電状態を10パーセントから80パーセントにするのに21分しかかからないという。
もっとも効率がよいのはモーターをリアのみに搭載した後輪駆動モデルだが、バスク地方ビルバオからサンセバスチャン近郊までをドライブしたモデルは、モーターを2基搭載した全輪駆動仕様。285kWの最高出力と、フロント275Nm、リア580Nmの最大トルクを誇る。
先に触れたPPEともに、今回、「電子アーキテクチャーE3 1.2」なるコンピューター技術が導入された。3つのEは「end-to-end
electronic(architecture)」に因っていて、アウディによると、インフォテイメント、運転機能、さらに将来の部分的自動運転まで含めて、5台の高性能コンピューターで制御する技術だそう。
オーナーの視点に立ってみると、インテリアにおけるデジタル化も、特筆すべきものがあった。「MMI(マルチメディアインターフェイス)パノラマディスプレイ」と「MMIパッセンジャーディスプレイ」が採用されたのだ。
「MMIパノラマディスプレイ」は、有機LEDを使い、11.9インチの計器盤と、14.5インチのインフォテイメントシステム用タッチディスプレイからなる。これらを収めたナセルは、ドライバーが手を伸ばしやすいようにカーブしている。機能的だし、これまでのアウディ車とは一線を画したデザインだ。
ドライバーのために、大型ヘッドアップディスプレイも用意されている。ARナビとよばれる、矢印がウインドスクリーン内にふわふわと登場して、曲がるべき角などを明確に指し示してくれるのだ。ドライバーが見やすいように、200m離れたところに浮かんでいるような視覚的効果を与えられている。
助手席乗員のためのMMIパッセンジャーディスプレイは10.9インチのインフォテイメントシステム用。助手席乗員は独自に地図検索が出来るし、ビデオなどを鑑賞していられる。
システムはアンドロイド・オートモーティブOSをベースに構築されているので「機能拡張性が高いのもメリット」と、アウディ本社のインターフェイス開発担当者は指摘する。
ユニークなのは、ドライバーズシートにいて、ゲームが楽しめること。ひとつはヘッドアップディスプレイを使ったもので、もうひとつは、ドライバー用センターディスプレイを使ったもの。
ヘッドアップディスプレイでは、みずからが宇宙船の操縦士として、映画「スターウォーズ」でデススターの迷路のような内部を高速でくぐり抜けていくようなゲームを、アクセル(加速)とパドルシフト(舵取り)で行う。
センターディスプレイでは、指を使って操舵するドライビングゲームが楽しめる。これらを搭載した理由は「充電時の退屈しのぎ」(技術者)だそうで、アンドロイドOSの利点を活かして、「世界各地のマーケットでローカライズしたゲームやその他のコンテンツを搭載できます」(同)と説明された。
Q6 e-tronの走りは、「カップルやファミリーが大きなターゲット」(開発担当のクリスチャン・シュタインホルスト氏)というだけあって、静かで、路面からの突き上げはほぼなく、スムーズ。ステアリングが正確なので、ビルバオ郊外の狭い山道でも、車両を持て余すことがなかったのも、好印象だった。
PPEはパッケージングにも貢献しているそうで、室内は前後席ともに空間的余裕があり、たしかに家族4人での高速ツーリングなども快適そう。静かすぎて、意図しないほどの高速が出ているのに気づいて焦った場面すらあった。
ドライブを積極的に楽しみたいひとのために、同時にSQ6 e-tronが用意される。パワーは360kWに上がり(前後のトルクはQ6 e-tronと同一)、足まわりがよりしっかりして、ハンドルの操舵力も重めになる。
こちらのほうが、山道も高速もより安定感が高く感じられるのだけれど、Q6 e-tronが劣っているわけではない。キャラクターが明確に分けられている。快適志向が強いひとは、Q6 e-tronでよいだろう。
この先、RSQ6 e-tronも予定されているという。これはすごそう。アウディでは、ファミリーもスポーツ志向のドライバーも、広い層を相手にしているだけあって、「なかなか大変な仕事です(笑)」と開発者は言うものの、バリエーションのつくり分けがうまい。
市場導入は、欧州で24年後半といい、日本への導入は「未定」とアウディジャパンでは話す。価格は標準グレードでも1000万円を切ることはないかもしれない。それでも、アウディファンの期待を裏切らないモデルになっている。それは確信した。
Audi Q6 e-tron
全長×全幅×全長=4,771×1,939×1,648mm
エンジン形式:電気モーター前後1基ずつ、全輪駆動
ホイールベース:2,893mm
車重:2325kg〜(2350kg〜)
最高出力:285kW(360kW)
最大トルク:前輪275Nm、後輪580Nm
車両価格:未定
問い合わせ先/アウディコミュニケーションセンター
TEL:0120-598106
http://www.audi-press.jp/