Penが選んだ、2024年下半期「必見の展覧会」5選

  • 文:はろるど
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話題の展覧会が全国各地で続く2024年。下半期においても、鴻池朋子と塩田千春の個展がそれぞれ青森や大阪で開かれるほか、長期休館を終え、再開館する三菱一号館美術館でのロートレックとソフィ・カルのコラボなど、見逃せない展示が少なくない。会期順に紹介する。

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塩田千春《The Eye of the Storm》 2022年 画像提供:バンコクアートビエンナーレ ©JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota

1.『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』@青森県立美術館とその周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館【7/13〜9/29】

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制作中の風景 ©Tomoko Konoike 

東日本大震災以降、地球の振動を新たな画材と感じ、旅をしながら野外の技法を習得した鴻池朋子は、時に土木工事や縫いものをメディアに「絵」を描いてきた。そして昨年より東北でスタートした《メディシン・インフラ(薬の道)》とは、秋田県出身の鴻池が各地を巡り、縁のあった場所に自作を展示保管してもらう長期的なプロジェクトで、活動は福島、岩手、北海道へと広がっている。そして今回、鴻池から「地図帳やランドマーク」の役目を託されたのが、隣接する三内丸山遺跡に象徴される縄文のエネルギーを糧に、多様性に富んだ芸術の魅力を発信する青森県立美術館だ。

青森県立美術館とその周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館にて開かれる『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』では、パブリックアートやアートプロジェクトの展開をもとにつくられた圧倒的なスケールの作品や、味わい深い指人形といった新作などを紹介。単に個展の枠や美術館という壁を飛び越え、場所と呼応し、人間社会はもとより動物や自然界との交流の中でなされる鴻池のつくる営みそのものが明らかにされる。鴻池の生の軌跡が、鑑賞者の身体に豊かに染み渡らせるメディシン(薬草)のように機能するという、まだ誰も体験したことのない、アートの新たな可能性を切り開くエポックメイキングが青森にて起こる。

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制作中の風景 ©Tomoko Konoike

『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』

開催期間:2024年7月13日(土) 〜9月29日(日)
開催場所:青森県立美術館とその周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館
https://www.aomori-museum.jp/

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2.『開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』@彫刻の森美術館【7/26~11/4】

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《樹の水の音》 2019年 楠に彩色、大理石 93×46.5×31cm
⻄村画廊蔵 Photo: 今井智己  © Katsura Funakoshi Courtesy of Nishimura Gallery ※この写真は所蔵者の許可を得て撮影しています。実際の展示風景と異なります。

遠くを見つめるまなざしを持った、静かな佇まいの人物像で知られる彫刻家、舟越桂(1951〜2024年)。聖母子像や性別を感じさせない人物像は、のちに山のようなイメージをもった人物像へと移り、祈りや行為に人間の姿を与えたという幻想的な「水に映る月蝕」、そして東日本大震災をきっかけとする「海にとどく手」などを制作していく。さらに近年は両性具有の身体と長い耳を持った「スフィンクス」を生み出し、一貫して人間の存在をテーマにしながら、多様に変容を遂げる、自らが「心象人物」と名付ける作品を作り続けてきた。

彫刻の森美術館にて開かれる『開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』では、1970年代より近年の作品を通して、「人間とは何か」を問い続けた舟越の作風の変遷を紹介しつつ、創作の源となる視線について考察。「僕が気に入っている」や「心象人物」などと題した4つの展示室にて、代表的な彫刻のみならず、デッサンやメモ、制作に使っていた手製の作業台、さらに一冊の本『おもちゃのいいわけ』にも掲載され、家族のために作ったたくさんのおもちゃなどが公開される。舟越は本年3月29日、惜しまれながら72歳にて世を去ったが、最期までこの展覧会の実現を望み、準備に励んだ作家本人の強い意思と、遺族の意向を尊重して開催される。

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《遠い手のスフィンクス》 2006年 楠に彩色、大理石、革、鉄 110×90×40.5 cm 高橋龍太郎コレクション蔵 Photo: 内田芳孝  © Katsura Funakoshi Courtesy of Nishimura Gallery

『開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』

開催期間:2024年7月26日(金)〜11月4日(月・休)
開催場所:彫刻の森美術館 本館ギャラリー
https://www.hakone-oam.or.jp/

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3.『塩田千春 つながる私(アイ)』@大阪中之島美術館【9/14〜12/1】

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塩田千春 《家から家》 2022年 写真:Sunhi Mang ©JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota

「生と死」という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」や「存在とは何か」を問い続ける塩田千春(1972年〜)は、ベルリンを拠点としながら、世界各地の個展やグループ展などに参加して活躍する国際的なアーティストだ。 とりわけ場所や物に刻まれた人々の痕跡を「記憶」としてとらえ、それらを糸で編みこむことで「不在の中の存在」というテーマに向き合う無数の糸を張り巡らせたインスタレーションで知られている。その塩田が生まれ故郷の大阪にて16年ぶりに大規模な個展を開く。

大阪中之島美術館での『塩田千春 つながる私(アイ)』では、約1,700m²、天井高6mという広い空間を活かし、糸を使った大規模なインスタレーションを6点ほど公開(点数は予定)。さらに絵画、ドローイングや立体作品、映像など多様な手法を用いた作品によって、パンデミックを踏まえて否応無しに気づかされた他者との「つながり」に、3つの【アイ】−「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」を通じてアプローチしていく。帰る場所としての“Home”をあらわした家型の《家から家》をはじめ、「つながり」をテーマに人々から寄せられたテキストを糸によって編み込んだ新作の《The Eye of the Storm》にも期待が高まる。

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塩田千春《巡る記憶》 2022年 写真:Sunhi Mang ©JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota

『塩田千春 つながる私(アイ)』

開催期間:2024年9月14日(土)〜12月1日(日)
開催場所:大阪中之島美術館 5階展示室
https://nakka-art.jp/exhibition-post/chiharu-shiota-2024/

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4.『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』@東京都美術館【9/19~12/1】

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《アダンの海辺》 昭和44年(1969)  絹本着色 個人蔵 ©︎2024 Hiroshi Niiyama

栃木県にて生まれ、東京美術学校(現・東京藝術大学)の日本画科を2ヶ月で退学した後、千葉で農業をしながら制作に従事した田中一村(1908〜1977年)。日展、院展へと作品が相次いで落選すると、わずかな支援者を頼りながら制作を続けるも、50歳にて単身で奄美大島へ移住し、紬織の染色工として働きながら、奄美の自然や風土を題材にした日本画を制作していく。そして我が道を歩んで描き続けてきた作品は、生前ほとんど表立って公開されてこなかったものの、没後の1984年、NHKの「日曜美術館」で特集されたのを契機に注目を浴び、作品展が巡回するなどして人気を集めた。

東京都美術館にて開かれる『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』では、絵画を中心にスケッチ、工芸品、資料を含めた250件を超える作品にて、今や伝説化した一村とは何だったのかに迫っていく。またいずれも奄美で描いた代表作《不喰芋と蘇鐵》と《アダンの海辺》をはじめ、未完の大作や近年発見された初公開作品も多く出品し、これまで知られてこなかった画業の軌跡もたどる。独自の絵を模索した一村は、「最後は東京で個展を開いて、絵の決着をつけたい」と述べたが、没後約45年を経て、回顧展として最大規模の集大成となる展覧会が上野の地にて開かれる。

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《ずしの花》 昭和30年(1955)  絹本着色 田中一村記念美術館蔵 ©︎2024 Hiroshi Niiyama

『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』

開催期間:2024年9月19日(木)〜12月1日(日)
開催場所:東京都美術館 企画展示室
https://isson2024.exhn.jp/

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5.「再開館記念『不在』―ソフィ・カルとトゥールーズ=ロートレック」@三菱一号館美術館【11/23~2025/1/26】

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アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《メイ・ミルトン》 1895年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵

設備入替および建物メンテナンスのため長らく休館していた三菱一号館美術館が今秋、11月23日に待ち焦がれた再開館を果たす。それを期して開かれるのが、「再開館記念『不在』―ソフィ・カルとトゥールーズ=ロートレック」だ。本展では19世紀末のパリで活躍したアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901年)の版画やポスターの表現に着目。同館が誇るロートレックのポスターが13年ぶりに一挙展示されるほか、フランス国立図書館と同館が所蔵する《ロイ・フラー嬢》10点により、1点1点違う色の刷りを鑑賞できる貴重な機会となる。

フランスを代表する現代アーティストのソフィ・カルでは、代表的なシリーズ《なぜなら》や《あなたは何が見えますか?》と同館の所蔵するオディロン・ルドンの傑作《グラン・ブーケ(大きな花束)》に着想を得て新たに制作された《グラン・ブーケ》が世界で初めて公開される。新たに館長に就任した池田祐子によれば、テーマの『不在』には、「新型コロナウィルスの感染拡大や長期休館を経て、都市空間に立地し活動する美術館という存在をあらためて来館者とともに考えていきたい」とする意図が込められているという。2020年のコロナ禍でソフィ・カルの来日が叶わずに中止となったコラボレーションが、4年の年月を経てついに実現。同館では初めて現存作家による展覧会となる。

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Sophie Calle Photographie d’Yves Géant

再開館記念「『不在』―ソフィ・カルとトゥールーズ=ロートレック」

開催期間:2024年11月23日(土・祝)~2025年1月26日(日)
開催場所:三菱一号館美術館
https://mimt.jp/