ここ1〜2年、生成的人工知能、別名「生成AI」「ジェネレーティブAI」は目覚ましい進歩を遂げている。プロンプトを受けてAIが“創作”する画像や動画、音楽などに、不自然な点が目立たなくなってきた。
人間のアーティストたちによる作品が無断で機械学習に使われるといった著作権の問題や、ステレオタイプが反映されてしまう生成結果など、課題は多い。それでも、技術の発展はアートに新たな可能性をもたらしている。
そんな中、権威ある写真コンテストのAI部門に、ある写真家が実際に撮影した写真を応募。見事入賞した。
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頭のないフラミンゴ?
写真家のマイルス・アストレー氏(38)は、「1839アウォーズ」のAI部門に、自身の作品『Flamingone』を出品した。
「1839アウォーズ」にはアマチュアからプロの写真家まで幅広く応募でき、「建築」「ポートレート」「野生生物」など様々な部門に分かれている。賞金総額は4000ドル(約64万円)超、世界的なオークションハウスなどへの出品にもつながる大規模なコンテストだ。
アストレー氏の『Flamingone』は、白い砂浜に1羽のフラミンゴがぽつりと立っている。頭を後ろにもたげているのだが、まるで首から上がこつ然と消えてしまったよう。AIによる生成画像は、人の指が多かったり変に曲がっていたりと不自然な点が表出することがあり、その不自然さを逆手にとって表現したAI作品……かのように見える。
この画像は、アストレー氏がカリブ海のアルバで撮影した“本物の写真”だ。作品は「AI部門」第3位に選出され、投票数で結果が決まるピープルズ・ボート・アウォーズの同部門では優勝を果たした。
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「まず疑問を抱くのが重要」
「もちろん、信じられないほどシュールで、AIが作ったと容易に考えられるような写真を意図的に選びました」と、アストレー氏は英ガーディアン紙に語る。
AIによる生成画像が、従来の写真コンテストで相次いで入賞しているのを見たアストレー氏は、「本物の写真をAIのコンテストに応募すれば、人間だけができる方法で、この流れをひっくり返せるのでは」と思いついたという。
「AIはすでに、信じられないほどリアルなコンテンツを作成でき(中略)見るひとを簡単に欺けます」
「これまでは、写真や動画、音声の信憑性を疑う理由はそこまでありませんでした。それが一夜にして変わってしまった。まず疑問を抱く、というのが重要です」
生成AIを使用していないことから、『Flamingone』は後に失格となった。
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「創造性と感情は単なる数字の羅列ではない」
アストレー氏は応募を振り返り、Instagramの投稿で次のように書いている。
「人間が作ったコンテンツがその妥当性を失っていないこと、母なる自然と、それを解釈する人間がまだ機械に勝ること、そして創造性と感情は単なる数字の羅列ではないことを証明しました」
「もちろん、倫理的な懸念もありました。AIへの“ジャブ”である今回の応募の倫理的意義が、オーディエンスを欺くこと自体の倫理的意義を上回ると、審査員やオーディエンスが判断してくれるよう望んでいました」
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マイルス・アストレー氏がコンテスト「1839アウォーズ」に提出した『Flamingone』
AI部門優勝作品『Untitled』:Robyn Finlayson。もちろんAIで製作されている。