ル・クレジオが初めて記した、まばゆく残酷な幼少期の記憶

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『ブルターニュの歌』

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ル・クレジオ 著 中地義和 訳 作品社 ¥2,970

ノーベル文学賞作家が初めて幼少期を記した2編はあまりに対照的だ。毎年家族と夏のバカンスを過ごしたブルターニュの幸福な思い出。そして戦争と5年の歳月を過ごしたニースの忘れがたい記憶。「戦時中に生まれた者は、真に子どもでいることができない」。自然と溶け合う官能的瞬間と、疎外された者に対する強烈なシンパシー。「どこにいても自分の場所という感じがしなかった」。詩的な文体で異邦人を描き続けた作家の小説の源流を遡ることができる本書は、旅先で読むのにもうってつけだ。

※この記事はPen 2024年7月号より再編集した記事です。