連載「腕時計のDNA」Vol.9
各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。
ベル&ロスのブランド名は、ブルーノ・ベラミッシュとカルロス・ロシロというふたりの創始者の愛称に由来する。高校時代からの友人であり、1994年に協同でブランドを立ち上げた。デザイナーであるブルーノとファイナンスを専門とするカルロスはいずれも時計師ではない。だが時計への情熱は熱く、だからこそ独自の時計が生まれたといっていいだろう。
ヴィンテージ、ミリタリー、航空機を着想源に、既成概念にとらわれないコレクションを発表。その象徴が2005年に誕生した「BR 01」だ。航空機のコックピット計器をそのまま取り出したような四角と丸を組み合わせた大胆なデザインは一躍その名を世界に広めた。だがそれは斬新さを求めたのではなく、すべてのディテールに意味と機能を併せ持つ「機能美」を求めた結果に他ならない。紹介する3本の時計もそんな研ぎ澄まされた美しさが際立つ。
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新作「BR 05 ブラック セラミック」
「ラグスポ」の世界に新機軸
ラグジュアリースポーツのスタイルが人気を集めるなか、「BR 05」は都市生活者のツールを標榜し、2019年に誕生した。四角に丸というブランドのアイコンスタイルを継承しつつ、一体型ブレスレットを採用し、それに連なるようケースとベゼルのラインは四隅をなめらかなカーブに仕上げる。ラグジュアリースポーツと呼ばれるジャンルが1970年代に登場し、現行の多くがそのリバイバルであるのに対し、まったく新しい次世代のデザインを打ち出したのである。
発表以降クロノグラフやGMTの機能に加え、バイカラーなどさまざまなラインアップを充実し、コレクションを確立している。最新作はブラックセラミックを採用し、従来の3針からケースサイズは1mmアップし、スポーティなモード感をアピールする。セラミックは航空宇宙産業においていまや不可欠な素材であり、洗練されたスタイルに違和感なく馴染むばかりでなく、機能においても軽量性と耐傷性を兼ね備え、心地よい装着感と美しい光沢をいつまでも保つ。それは多様化する都市の日常に応え、躍動感のある時を刻むのである。
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定番「BR 03 ブラック スティール」
航空機をモチーフに進化を続ける名作
時計づくりにおいてベル&ロスは、防水性、高精度、機能性、視認性の4原則を掲げる。そしてこれらを機能美という理念に統合、具現化する。これを航空機の世界に求めたのが「BR 01」だ。コクピットに4つのビスで据え付けられた計器を、腕に再現したのである。「BR 01」が46mm径だったのに対し、翌2006年に発表された「BR 03」は42mmにダウンサイジングしたことでデイリーユースにも応え、さらに支持を広めた。以降、数多くのバリエーションを発表し、現在の基幹コレクションに位置づける。
そして誕生から17年を迎え、昨年ケース径を1mmダウンサイジングした。このわずか1mmの変更にも関わらず、四隅は丸みを帯びるとともに面取りの幅を広げ、より質感を高めて引き締まった印象に。時針はシャープに絞り、ラグも4.5mmから4mmにして面を細く強調した。さらにムーブメントも刷新し、駆動時間も従来の40時間から52時間に伸ばした。一見ではわからなくても、細部の見直しやムーブメントの刷新はフルリニューアルと呼ぶにふさわしい。これも一過性ではなく、時代の技術や感性で腕時計を磨き、熟成させるデザイン哲学によるものにほかならない。
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通好み「BR 03 ダイバー フルラム」
深海でも視認できる夜光塗料モデル
「BR 03」のコレクションは、2017年にダイバーズウォッチを加えたことで新たなフィールドを広げた。前述の通り、コクピット計器をモチーフに生まれただけに海の世界には違和感を覚えるかも知れない。だがその30年前、ベル&ロスが発表した「ハイドロマックス」は水深1万1100mの防水性能を誇り、当時の世界記録を樹立したのだ。以降ダイバーズの技術開発は継続し、その象徴でもある回転式ベゼルは違和感なく馴染む。研ぎ澄まされたツールウォッチの機能美は、空と海を問わず通じるのだろう。
そして誕生から7年目になる今年、初のモデルチェンジを敢行。ベゼルのインサートは耐久性に優れたセラミックを採用し、矢印型の時針で視認性を向上するとともに、ベゼルの目盛りやインデックスも微調整する。またムーブメントの刷新で駆動時間を52時間に伸ばし、ダイバーズ機能においてはより厳しい国際規格ISO 6425に準拠した。新たな個性のフルラムは、夜光塗料のスーパールミノバを施し、文字盤はブルー、針やインデックスはグリーンに発光する。ブラックセラミックと組み合わせたスタイリッシュなデザインは、都会のナイトシーンでも存在感を増すだろう。
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すべてに貫かれる機能美
ベル&ロスのウォッチメイキングに通底するのは、機能美に根ざしたより深いデザインの探求だ。それは単なるフォルムではなく、商品企画からコンセプト、プロモーションまですべてに貫かれ、唯一無二のオリジナリティを生み出している。この数年は新しいムーブメントの搭載も含め、各コレクションのモデルチェンジが続く。それでも基本を崩すことなくブラッシュアップを重ね、デザインの完成度を極める姿勢は賞賛に値する。
柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。
ベル&ロス 銀座ブティック
TEL:03-6264-3989
www.bellross.com/jp
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