デザイン・機能・価格の三拍子が揃う、チューダーを知るための3本【腕時計のDNA Vol.8】

  • 文:柴田充
  • イラスト:コサカダイキ
Share:
チューダー_フォーマット.jpg
右上:本格ダイバーズに第二時間帯を表示するGMTの機能を合体し、ヴィンテージスタイルで仕上げた「ブラックベイ 58 GMT」  右下:「レンジャー」は視認性に優れた3針で、現代に貫かれるブランド哲学の礎がモチーフ。 左下:「ペラゴス FXD クロノ“サイクリング”」は高機能素材カーボンコンポジットを採用。軽量性と独自機能でロードレーサーの世界観を表現する。

連載「腕時計のDNA」Vol.8

各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。

1946年に始まるチューダーの歴史を語る上で、ロレックスを外すことはできない。なぜならばその最高峰の時計技術に裏付けられた品質と先駆性を備えた、より幅広い層にアピールする新しいファミリーブランドとしてチューダーは誕生したからだ。チューダーの名はイギリス王家のチューダー家にちなみ、特にイギリスで高い人気を博し、独自に進化を遂げる。日本では1970年代まで輸入されていたが取り扱いは一旦解消され、国内では高い注目度にも関わらず、長らく正規流通していなかった。そしていよいよ2018年に待望の再上陸をはたす。それが現在のチューダーだ。

ブランドの特徴に挙がるのは、ロレックスとのつながりで培ってきた技術やデザインに加えて、1969年に初登場したスノーフレーク針など歴代のアイコンをアピールするネオヴィンテージスタイルだ。そしてクロノグラフとダイビングウォッチの両機能を併せ持つスポーツモデルや、本格ミリタリーテイストなど、よりエッジィでコンテンポラリーな魅力を備える。ムーブメント開発にも積極的に取り組み、ブライトリングやタグ・ホイヤー、ノルケインなどにもムーブメントを供給するケニッシ社を傘下に持ち、METASの「マスター クロノメーター」認定でも注目を集めている。

---fadeinPager---

新作「ブラックベイ 58 GMT」

M7939G1A0NRU-0001_black_73560_DET_RVB_black.jpg
ブラックベイ 58 GMT/50年代のスタイルを再現し、小振りなケースにドーム状の風防、リューズにはチューダーローズをレリーフであしらう。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径39mm、パワーリザーブ約65時間、100m防水。¥643,500

ブラックベイ58初のGMTモデル

「ブラックベイ」コレクションは、チューダーのヘリテージダイバーズの復刻として2012年に誕生した。初代の41㎜径ケースに続き、「ブラックベイ 58」はよりヴィンテージ感のある39㎜径のケースで登場。その名も1958年に発表され、ビッグクラウンと呼ばれたブランド初の200m防水ダイバーズに由来する。ちなみにシリーズには37㎜径の「ブラックベイ 54」もあり、これはチューダーの初代サブマリーナー発表年にトリビュートする。

最新作は「ブラックベイ 58」初のGMTだ。両方向回転式ベゼルにはブラックとレッドで昼夜を色分けした24時間表示の目盛りを備え、スノーフレーク型のGMT針で第二時間帯を差す。ベゼルを任意の位置に合わせれば、第三の時間帯も読み取ることができる。ベゼルのカラーリングは、マニアの間では“コーク”と呼ばれ、あえてレトロなアルミリングを採用することで経年変化し、ヴィンテージ感も楽しめるのだ。ムーブメントは、高精度や高耐磁性の証しである「マスター クロノメーター」認定の第3弾を搭載し、これまでのモデルが41㎜径だったのに対し、より小振りなケースでGMT機能も付加する。通も納得するヴィンテージテイストに本格的な防水性能とGMT機能を組み合わせ、さらに最新鋭のムーブメントを内蔵した、チューダーならではの話題作だ。

---fadeinPager---

定番「レンジャー」

M79950-0001_black_95510_DET_RVB-black.jpg
レンジャー/ムーブメントは非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを備え、組み上げられた状態で日差-2秒〜+4秒という、COSCのクロノメーター認定以上の精度を誇る。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径39mm、パワーリザーブ約70時間、100m防水。¥464,200

チューダーの実力を知らしめた歴史的モデル

創業からイギリスでのプロモーション活動を始めるに当たり、チューダーが注目したのが1952年に行なわれた英国海軍による北グリーンランド遠征探検だった。氷床研究を目的とした2年間の科学任務では、メンバーである科学者や海軍隊員がブランド初の自動巻き機構と防水性を備えた「オイスター プリンス」を実際に着け、極寒の環境で長期テストが行われたのだ。はたして結果は、精度と実用性を実証し、チューダーのツールウォッチとしての実力と信頼性をイギリスのみならず、世界に知らしめたのである。

こうしたヘリテージの下、現行のレンジャーは北グリーンランド遠征探検70周年を迎えた2022年に登場した。かつて探検隊が携行したモデルとは異なり、1965年に登場した「オイスター プリンス レンジャー」をモチーフに、ブラック文字盤に3、6、9、12のアラビック数字と矢印型の針を備えたシンプルなデザインだ。自社ムーブメントはCOSC・クロノメーター取得の精度と70時間の持続時間を両立。独自の“T-fit”クイックアジャストクラスプは8㎜を5段階で調整でき、終日つけてもストレスを感じさせない。ちなみにレンジャーの名はチューダーのブランド商標登録からわずか3年後に登録され、堅牢性と普遍性を理念にするブランドの未来をすでに示唆していたといえるだろう。

---fadeinPager---

通好み「ペラゴス FXD クロノ “サイクリング”」

 M25827KN-0001_black_fabric_black_DET_sRGB_black.jpg
ペラゴス FXD クロノ “サイクリング”/ヴィンテージテイストのブラックベイに対し、ペラゴスはモダンダイバーズに位置づける。自動巻き、カーボンケース、ケース径43mm、パワーリザーブ約70時間、ファブリックストラップ、100m防水。¥740,300

プロサイクリングの世界へ飛び込む

チューダーはヘリテージを強く打ち出すと同時に、その視座は未来へと向けられている。昨年、第37回アメリカズカップに参戦するアリンギ・レッドブル・レーシングとのパートナーシップによるレガッタモデルを発表したのに続き、新作では自社のチューダー・プロサイクリングチームのライダー向けにクロノグラフを開発した。チューダーは2022年から同チームを運営し、昨年からグランツールであるジロ・デ・イタリアのオフィシャルタイムキーパーを務めるとともに、満を持して今年参戦を果たした。

こうした新たなスピード計測の世界を目指し、よりフィジカルが求められるスポーツ競技はブランドにとっても大きな挑戦といえるだろう。ケースにはロードバイクがカーボンファイバーでつくられることからカーボンコンポジットを採用し、裏部やプッシャー、インナーケースにチタンを用い、軽量性と堅牢性を併せ持つ。シンプルな2カウンタークロノグラフは、ブラックに視認性の高いホワイトを合わせ、レッドのアクセントカラーで文字盤の外縁にら旋状に記したタキメーターは、ロードバイクの速度域に合わせてスピードが測定できる。新開発のストラップは、2010年から採用するフランスの老舗ブランドのファブリックにより、装着感も心地よい。ムーブメントは、ケニッシを介してブライトリングから供給された「キャリバー01」をベースにしているのもマニア心をくすぐる。

---fadeinPager---

アイコニックなデザインを再編集して現代に

チューダーにはさまざまなアイコニックなスタイルがちりばめられ、スノーフレーク針や大型リューズなどが受け継がれることで、現代につながっている。ヘリテージこそ唯一無二のオリジナリティであり、音楽のDTMトラックのように緻密に編集することで、ヴィンテージを超えた新たな創造性を生み出すのだ。こうした先進性はケニッシを核とするマニュファクチュール体制をはじめ、サプライヤーや他ブランドとの幅広いネットワークにも注がれている。「マスター クロノメーター」取得への取り組みもそのひとつであり、常に未来を見据えていることがわかる。時代の感性に応えるデザイン、ツールウォッチとしての高い機能、そしてプライスという三拍子が揃い、マニアからビギナー、世代を超えて幅広く支持されているのだ。

 

Image_006.jpg

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。

 

日本ロレックス / チューダー

TEL:0120-929-570
www.tudorwatch.com

---fadeinPager---