動く彫刻「モビール」の生みの親、カルダーの国内最大規模の個展が開催中!

  • 文&写真:はろるど
Share:

1.jpeg
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 展示風景

動く彫刻ことモビールを発明した、アメリカのモダンアートを代表するアレクサンダー・カルダー(1898〜1976年)。初期のモビールにはモーターで動く作品があったものの、次第に機械で作品を駆動させることをやめ、気流や光、湿度や人間の相互作用に反応する作品を多く制作していく。そしてモビールの重要な要素として動きを用いたカルダーは、キネティック・アートの先駆者になっただけでなく、芸術家仲間だったジャン・アルプがスタビルと名付けた静止した抽象的な作品も手掛けていった。1950年以降は海外からの制作依頼に関心を寄せ、ボルトで固定した鉄板を使った大きなスケールの屋外彫刻を作り上げる。近代彫刻の概念を一変させた、20世紀を代表するアーティストのひとりと呼んでも過言ではない。

2.jpeg
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 展示風景。左から『Seven Black, Red and Blue』(1947年)、『My Shop』(1955年)

麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中の『カルダー:そよぐ、感じる、日本』では、ニューヨークのカルダー財団理事長であるアレクサンダー・S.C.ロウワーのキュレーションと、国際的なアートギャラリーであるペースギャラリーの協力のもと、カルダー財団が所蔵する1920年代から1970年代までの約100点の作品を公開。代表作であるモビール、スタビル、スタンディング・モビールだけでなく、油彩画やドローイングなどの幅広い作品を見ることができる。またカルダー自身は生前、日本を訪れたことはなかったものの、アレクサンダー・S.C.ロウワーが「日本の伝統と共鳴する繊細さと優美さがあり、崇高で儚いものに対する深い敬意があります。」とメッセージを寄せているように、日本の伝統や美意識との共鳴をテーマとしているのも特徴だ。

---fadeinPager---

3.jpeg
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 展示風景。右正面は『Un effet du japonais』(1941年)

 

4.jpeg
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 展示風景。一番左は『Sword Plant』(1947年)

カルダーの作品から感じる日本のイメージとは? まず学生の時に動物園で描いた動物たちのスケッチに注目したい。いずれも紙に勢いのある線の動きで動物を捉えているが、それは墨絵の流麗な筆致に倣ったものとされている。次いで『Un effet du japonais』、つまり「日本的な感性」と解釈できる作品では、支柱部分から下がる2つのモビールに、能舞台における印象的な扇の使い方を連想することができる。また植物の竜舌蘭に見立てて名付けた『Sword Plant』においては、2本の刀を振りかざす江戸時代の剣術家、宮本武蔵の二刀流の姿を思わせるよう。さらに三角の形状を積み重ねた『Pagoda』に至っては、日本の仏塔のようなかたちに見えるから面白い。このほか、1956年に日本橋高島屋での展覧会で初公開された大型の油彩画『Seven Black, Red and Blue』も、日本にゆかりのある作品といえる。

---fadeinPager---

 

5.jpeg
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 展示風景。左が『Pagoda』(1963年)

長年にわたるカルダー財団の協力者であり、ニューヨークを拠点とする建築家、後藤ステファニーによる会場デザインも見どころだ。ホワイトキューブの空間へ、木、紙、漆喰など日本の伝統的な素材を取り込み、壁の色を変えながら、2つのパビリオンを中心に茶室や能舞台を思わせる展示室を作り上げている。また照明にも工夫が施され、空間全体を曇り空のような優しい光が包み込んでいるのも魅力のひとつ。さまざまなエレメントが組み合わさってモビールが作られているように、それぞれの作品が互いに関係性をもって響き合うようなデザインとなっている。カルダーの作品は国内18ヶ所の美術館に20点以上が収蔵されるなど、日本でも人気を集めているが、これほどまとめて楽しめることは極めて稀といえる。東京では約35年ぶり、国内でも最大規模の個展にて、知られざるカルダーと日本の美意識との関係を探りたい。

All works by Alexander Calder © 2024 Calder Foundation, New York / Artists Rights Society (ARS). New York

『カルダー:そよぐ、感じる、日本』 

開催場所:麻布台ヒルズ ギャラリー(麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)
開催期間:開催中〜2024年9月6日(金)
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/calder-ex/