ファミリー3代で紡いできたワイルドターキー蒸溜所を訪れ、古きよきバーボンの未来に出合う

  • 写真:長谷川 潤
  • 文:佐野慎悟
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ブランド誕生以来受け継がれる、ワイルドターキーを象徴する“101プルーフ”の「ワイルドターキー 8年」。バーボンとしては異例となる8年の長期熟成による、重厚でインパクトのあるフルボディのテイストが魅力。700mL ¥4,378

1869年にアメリカ・ケンタッキー州ローレンスバーグに蒸溜所が開設されて以来、この地で変わらずに製造されているワイルドターキー。バーボンの代表格として世界中で愛され続けている秘訣を知るため、自然豊かなケンタッキー州ローレンズバーグを訪れ、未来に向けて成長を続けるワイルドターキーの魅力に触れてきた。

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ケンタッキー州の空の窓口、ルイビル国際空港からクルマで1時間ほどの距離にあるワイルドターキー蒸溜所。現在第2蒸溜所を建設中で、それが完成すれば、総生産能力は1400万プルーフ・ガロンへと増加する予定だ。

殿堂入りを果たした祖父と父の背中を追う、若き3代目ブレンダー

世界で唯一、親子3代でウイスキーづくりを行うワイルドターキーは、古きよき「ケンタッキー ストレート バーボン・ウイスキー」の伝統を体現し続けるウイスキーメイカーだ。そのレガシーを築き上げてきたのが、ワイルドターキー蒸溜所で70年間バーボンづくりに携わり、今年で90歳になるジミー・ラッセル。人々から「マスター・ディスティラーの中のマスター・ディスティラー」と呼ばれる彼は、在職歴世界最長のマスター・ディスティラーとして、息子のエディーとともに“ケンタッキー・バーボンの殿堂”に名を連ねている。そして祖父と父の後を追う孫のブルースもまた、十数年の経験を経てウイスキーづくりの中核を担うアソシエイトブレンダーとして活躍している。

そんなラッセル・ファミリー3世代による献身的な努力によって、近年ますます世界的な存在感を高めているワイルドターキーは、現在稼働中の蒸溜所の隣に第2蒸溜所を新設するための工事を行っている。数年後にこの新蒸溜所が完成した暁には、ワイルドターキーの生産能力は約50%増加する予定だ。

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ワイルドターキー蒸溜所はケンタッキー川を望む高台に位置しており、ビジターセンターのテラスから自然豊かな眺望が愉しめる。

バーボン誕生の地であるケンタッキー州には、現在も大小90軒以上の蒸溜所が稼働している。海外から来ると、日本の空港は醤油の匂いがするという話を聞いたことがあるが、ケンタッキー最大の都市であるルイビルの空港に降り立った際の感想を問われたとしたら、やはり「バーボンの匂いがした」と答えたくなるだろう。空港内はもちろん、市街地を歩いていても、常に“Bourbon”の文字は視界のどこかに捉えられた。(反対に少し意外だったのは、“フライドチキン”の誘惑はさほど感じられなかったことだ……。)

ケンタッキーには、数多ある蒸溜所を巡るために環境を整備した「ケンタッキー・バーボン・トレイル」という観光プログラムがあり、毎年世界中から50万人以上のバーボンファンが参加している。そんなバーボントレイルのハイライトとなるのが、ケンタッキー川を見下ろす丘の上に建つワイルドターキー蒸溜所だ。彼らはビジターセンターを改装し、5月に新しく「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」をオープンした。見学に訪れると、ワイルドターキーのアソシエイトブレンダーであり、ブランドアンバサダーも兼任する3代目のブルース・ラッセルが我々を迎え、ゆっくりと蒸溜所の中を案内してくれた。

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稼働中のクッカー(糖化槽)の前で、バーボンづくりの工程を説明するブルース・ラッセル。主要な原材料となるコーンは、蒸溜所から車で1時間ほど離れた場所にある契約農園をメインに、一部近郊のインディアナ州などから仕入れたもの。モルトはモンタナ州やワイオミング州で採れた大麦をミルウォーキー州でモルト(大麦麦芽=大麦を発芽させた状態)にした上で仕入れている。ライ麦はアメリカではあまり食料用に生産されていないため、ドイツから良質なものを取り寄せて使用している。

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世代を超えて受け継がれていく、伝統の技。 

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ファーメンター(発酵槽)の中に手をかざして温度を確かめ、もろみの発酵具合をチェックするブルース。初期段階ではCO2が活発に発生し、発酵が進むと温度が上がりアルコールが発生する。

 1世紀以上にわたり、ケンタッキー・バーボンの正統な製法を守り続けてきたワイルドターキーでは、世代から世代へ、バーボンづくりにおけるありとあらゆるノウハウや知見が大切に受け継がれてきた。現在その流れの最上流にいるのがジミーであり、孫であるブルースも「We just do whatever Jimmy says (僕たちは、ジミーに言われたことをただやっているだけ)」と笑いながら、製造工程を細やかに説明していく。

「良質なバーボンは、良質なグレーン(穀物)がなければできません。ワイルドターキーで使っているグレーンは、アメリカのウイスキーでは最高水準のものだと思います。とにかく変化を嫌うジミーのおかげで、この部分はいくらコストがかかったとしても、これからも変わらないところです。このようにワイルドターキーでは、求めるクオリティのために、他よりも非効率的なバーボンづくりを続けています。我々は、遺伝子組み換え穀物を一度も使用したことのない、数少ない蒸溜所のひとつでもあります」

ワイルドターキーでつくるバーボンのレシピは、コーン75%、ライ麦13%、モルト12%。現代ではモルトから抽出したアミラーゼを添加することで、モルト自体の使用量を5%ほどに減らしている蒸溜所も多いが、ワイルドターキーではあくまで伝統的な製法を尊重している。その理由ももちろん、「ジミーが嫌がるから」だとブルースは言う。

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円筒形のコラム・スチル(連続式蒸留機)が稼働する蒸溜室。コラム・スチルで蒸溜された後、ダブラーと呼ばれるポットスチル型の蒸溜器で再度蒸溜される。コラム・スチルとダブラーはそれぞれ銅製で、蒸溜液から硫黄分を取り除く効果を持つ。

 ケンタッキー川に面した岩盤の上にあるワイルドターキー蒸溜所では、石灰岩(ライムストーン)による天然のろ過層をくぐりぬけ、鉄分などの不純物がろ過された良質な硬水を、地下の水源から直接くみ上げて使っている。この水とミルで粉砕した穀物を煮出したものが「マッシュ」と呼ばれる糖化液となり、さらにそれを発酵槽の中で約80時間発酵させたものが、「ビアー」と呼ばれるアルコール度数約12%のもろみとなる。このビアーを蒸留したホワイトドッグ(原酒)を樽詰めして熟成させると、数年後に琥珀色のバーボンが出来上がる。

「我々が使うコラム・スチル(連続式蒸留機)は、他の蒸溜所のものと比べるとかなり細長くて、珍しい形をしています。もうお気づきだと思いますが、これもやはりジミーのこだわりで、一般的にスチルを大きくしたい場合には幅を大きくしていくと思うのですが、ジミーは5フィート(約1.5m)幅で高さ26フィート(約8m)のスチルでしか仕事をしたことがなかったから、幅はそのままで高さが2倍のスチルを作ってもらうことにしたんです(笑)」

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ワイルドターキー蒸溜所には32棟の貯蔵庫があり、それぞれ1万4000樽から広いところでは2万樽を貯蔵している。高層階では極端な温度の高低差が発生し、低層階では年間を通じて比較的一定の状態が保たれる。高層に貯蔵された原酒は、よりウッディで、甘く、樽の影響を強く感じるトラディッショナルなフレーバーが現れる。低層に貯蔵された原酒は、よりフローラルでフルーティなフレーバーに仕上がる。
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樽の栓を開けて、熟成の度合いを確認するブルース。バーボンづくりには内側を焼き焦がしたオークの新樽が使われるが、ワイルドターキーでは4段階のうち最も強く焦がした樽を採用している。この焦がしの処理はワニの皮膚のように凹凸がある仕上がりから「アリゲーターチャー」と呼ばれ、バニラやカラメルのようなフレーバーが強く現れる。

バーボンの規格では、アルコール度数80%以下で蒸留され、62.5%以下で樽詰めされ、40%以上で瓶詰めされなければならない。ワイルドターキーのフラッグシップボトルでは、古くから“101プルーフ(50.5%)”を謳っているが、そこには奥深く力強い味わいを追い求めるワイルドターキーならではのこだわりが隠されている。

「ワイルドターキーでは、規定よりも低い64%から65%の間で蒸留したホワイトドッグを57.5%から60%で樽詰めし、規定の下限よりも高い50.5%で瓶詰めししています。それはアルコールを希釈するために行われる加水の量をできるだけ少なくすることで、原材料由来のフレーバーや、熟成で得られた樽由来のフレーバーを、薄めることなく瓶詰めするためです」

よい原材料を仕入れ、人と自然の力で魔法をかけ、出来上がった酒をそのままボトルに詰める。彼らが守り続けてきた製法は、とてもシンプルに見えた。しかし、それは非常に繊細な条件の上でのみ成り立っており、その目的を果たすための唯一の方程式が、ジミーの智恵ということなのだろう。「Whatever Jimmy says」。この言葉に込められた本当の意味が、ようやく理解できたような気がした。

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新たにオープンした「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」。右奥の屋外パビリオン&バーでは、試飲会や各種イベントが開催される。

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リニューアルされた、蒸溜所巡りの必訪スポット。 

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新たにオープンした「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」。右奥の屋外パビリオン&バーでは、試飲会や各種イベントが開催される。

ワイルドターキーは今年5月に、蒸溜所の敷地内にあるビジターセンターを大々的に改装し、新たに伝説的なマスターディスティラーの名を冠した「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」をオープンした。

1100㎡を超える施設内にはバーボンの進化をたどるビデオホールや、歴代のワイルドターキーボトルを展示したふたつのテイスティングルーム、屋内外に3つのバー、ウイスキーやグッズが購入できるギフトショップなどがあり、ケンタッキー・バーボン・トレイルの新たな名所になりそうだ。 

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ワイルドターキーの歴史が展示された施設内の廊下には、ブランドを象徴するポートフォリオが並ぶ。
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ケンタッキー川を望む「ジェネレーションズラウンジ」では、クラシックなものからモダンなものまで、バーボンを使ったさまざまなカクテルが提供される。もちろんストレートやロックでも愉しめる。

ブルースに促されて「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」のエントランスを入ると、ジミーとエディーも加わり、ラッセル・ファミリー3代で暖かく迎えてくれた。“生きる伝説”というイメージとは裏腹に、ジミーは振り回すとターキー(七面鳥)の鳴き声のような音が出るオモチャで我々を驚かせるという、お茶目な一面を見せた。

バーボン界のレジェンドであり、「マスターディスティラー中のマスターディスティラー」として知られるジミー・ラッセル。1954年9月10日に初めてワイルドターキー蒸溜所に足を踏み入れ以来、ウイスキーづくりに携わって今年で70周年を迎えるジミーは、世界で最も長く在籍しているスピリッツのマスターディスティラーのひとりだ。

「ジミーはコロナ禍で蒸溜所の営業がストップしていた時期も、毎日一人で車を運転して蒸溜所に来ていたようです。なにをしに来ていのたかはわかりませんが、70年間続けている日課は、そう簡単に変えらるものではないのかもしれませんね」

そう言って笑うブルースに被せるように、ジミーが口を開く。

「ウイスキーづくりを70年間続けてきましたが、これを仕事と思ったことはありません。そう思った時が、私のリタイアの時です」

エディーはそんな父の言葉に続けて、「これまでにも、ジミーの“リタイア”は何度かありました(笑)。そのたびにまわりは大騒ぎになりますが、ジミーはまたすぐに、なにもなかったような顔をして戻ってくるんです。生涯現役でいることは間違いなさそうですね(笑)」

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「ジミー・ラッセル・ワイルドターキー・エクスペリエンス」に集合したラッセル・ファミリー。右がエディー、中央がジミー、左がブルース。40年以上父のもとでウイスキーづくりを行ってきたエディーのことを、ジミーはいまだに「New Guy(新人)」と呼ぶ。

エディーはさらに、父とともに歩んできた40年のウイスキーづくりを振り返り、ワイルドターキーの未来についてもコメントした。

「私が子どものころ、バーボンにはごく一部の年配の男性が飲むお酒というイメージがありました。だから私がこの業界に入ってからやってきたことは、バーボンを誰にでも気軽に楽しんでもらえるお酒にすることでした。しかし、近年では世界的にバーボンの人気が高まり、若手のバーテンダーがバーボンを使った新しい表現に挑戦している姿もよく見かけるようになりました。ジミーのバーボンは、力強くスパイシーで、非常に長い余韻が特徴。それはワイルドターキーのゆるぎない根幹となるスタイルです。それに比べて、私が目指すのはもっとクリーミーで、甘くフルーティなもの。余韻も短く、エレガントなテイストが好みです。ブルースはジミーと同じく力強いトラディッショナルなテイストが好みですが、彼はジミーが決して飲まないライ・ウイスキーをこよなく愛しています。バーボン業界全体が活況ないま、ワイルドターキーらしさはしっかりと残しつつ、私やブルースの個性を活かした、新しい表現にも挑戦していきたいと思っています」

ブルースも続けて、未来へのチャレンジを次のように締めくくる。

「それについては、既にチームとともに試行錯誤を続けています。以前みんなで集まり、『新しいチャレンジをするならどんなことをやりたいか』という議題で話し合ったら、『1980年代の味わいを完全再現する!』という案が出てきたんです(笑)。新しいチャレンジとして40年前のことをやるっていうぐらい、私たちの世代は祖父や父が築き上げてきたヘリテージに大きな影響を受けていて、また、それを改めて新しい刺激として受け取っています。古きよきケンタッキー・バーボンを、現代的に再解釈していく試みも面白いかもしれませんね」

歴史とともに紡がれたゆるぎない価値観と、時の移ろいに合わせて刷新されていく表現方法。その両軸を併せ持つワイルドターキーの懐の広さは、これからもウイスキーファンの舌と心を楽しませてくれるだろう。

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左:心地よい甘みとコクが豊かな余韻をもたらす、ワイルドターキーのフラッグシップとなる「ワイルドターキー8年」。700mL ¥4,378 右:さらに熟成を重ねることで、バニラやキャラメル、ドライフルーツのような凝集した風味に、ほのかなスパイシーさが際立つ「ワイルドターキー12年」。700mL ¥9,570

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カンパリ ジャパン カスタマーサービス

TEL:0120-337500
www.wildturkeybourbon.com

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