世界でもっともぜいたくなSUVともいえる「ロールスロイス・カリナン」。2024年5月に「シリーズⅡ」へと発展。さっそく6月初旬に、イビサ島でジャーナリスト向けのテストドライブの機会が提供された。
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まあ、すごいクルマである。なにしろ、全長5355mmもあるボディに、12気筒エンジンと、全輪駆動システムが組み合わされている。もっとロールスロイスらしいのは、エフォートレスという製品ポリシー。ほぼすべての操作に力が必要ない。電気仕掛けがあらゆるところに施されている。
滑るように走り、ドライブしている私は、ハンドルを軽く握っているだけで、市街地、ハイウェイ、山岳路、あらゆる道を、まことに快適に走ることが出来た。イビサ島は幅員の狭い道が多いのだけれど、そこでも運転しやすさが分かったのは収穫といえる。
デザイン面でも、これまでロールスロイスは、ボディスタイルを大型ヨットと関連づけて語ってきていた。水と風を切って軽快に水面を進んでいくヨット。クーペならそれもわかるけれど。SUVのカリナンでも徹底的にそのデザインポリシーが貫かれているのだ。
「フロントが垂直に立ったようなイメージは、建築物とかヨットを意識していますし、ボディサイドを前後に走るハル(hull=船体)ラインや、車体を水平に走りリアできゅっとすぼまったコーチライン(ボディ側面にひかれた線)も船体をイメージしています」
イビサでのプレゼンテーションにおけるエクステリアデザイン担当のヘンリー・クローク氏の言葉だ。
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今回のシリーズⅡでも「(フロントマスクにおける)バンパーラインがV字型を描き、現代のスポーツヨットの船首にみられる鋭いラインを彷彿とさせます」(プレスリリース)と説明されている。
シリーズⅡの特徴は、「変わっていくラグジュアリーの世界観に対応し、クライアントの使い方を反映」したものという。
興味ぶかいのは、カリナンの登場で、ロールスロイスは顧客の平均年齢をうんと若返らせたこと。しかも、ラインナップ中もっとも売れているモデルでもあるのだ。さらにいうなら、顧客の「98パーセント」が自分でハンドルを握っていると広報担当者。ようするに大成功なのだ。
「走りについては現状で満足していただいているので、シリーズⅡでとくに力を入れたのは、ラグジュアリーの要素を強化することでした」。プロダクトスペシャリストとしてカリナン・シリーズⅡにかかわっているケンザ・サーディ氏は言う。
大きな変化は、デザインだ。
「現代の超富裕層が重視する要求を満たすべく、よりエネルギッシュで、提供価値をしっかりとらえ、表現力を一段と高めたモデル」とするのは、ロールス・ロイスでデザインを統括するディレクターのアンダース・ウォーミング氏だ。
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「カリナンの独創的なフォルムに存在感とはなやかさを加え」たと、シリーズⅡのデザインを語る。
私の印象では、従来のカリナンは、ロールス・ロイス車のアイコンであるパンテオングリルと、2灯式のヘッドランプユニットで、やや保守的な印象だった。
今回は逆L字型のLEDによるデイタイムランニングライトが大きく目を惹く。さらに、バンパー下には左右に拡がるようにして力強さを感じさせるエアインテークも設けられた。これで一気に、雰囲気が変わった。
もうひとつ、従来のカリナンのオーナーならとくに気になりそうなのが、1インチ大きくなって23インチと大径化したロードホイールの採用だ。タイヤの存在感が大きくなり、やはり力強さが増したかんじだと。私は感じた。
車体色のカラーパレットもアップデートされたようで、たとえばイビサでは縞模様のブラウンマーブルからインスピレーションを得たという「エンペラドール・トラッフル」(トリュフ)というグレーブラウンの車体色が新鮮だった。
もちろん、白だろうが赤だろうが、ピンクだろうが、ほとんどあらゆる色を注文できるし、じっさいにそこでも自分らしさを表現しようという顧客が多いのも、ロールス・ロイス車の特徴だ。
車内でも、シリーズⅡには、しっかり新しさがある。大きく目を惹くのは、ダッシュボードのデザイン変更。クラフツマンシップを強調するウッドと金属によるパネルと、デジタル技術の組合せが、カリナン・シリーズⅡの特徴だ。
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ナビゲーションをはじめとするインフォテイメントシステムを「デジタルインターフェイス」とロールス・ロイスでは呼ぶ。今回、2023年に登場したピュアEV「ロールス・ロイス・スペクター」と共通の、同社にとって最新のシステムが導入されている。
同社のオーナー専用アプリ「ウィスパーズ」は、WiFiを介してドライバーとサービスセンターを接続して行うもので、じっさいの顧客満足度は高いそうだ。
ダッシュボードには、もうひとつの特徴がある。「スピリット・オブ・エクスタシー・クロックキャビネット」といい、ダッシュボード中央に、パンテオングリルの上に立つシンボル、スピリット・オブ・エクスタシーの像とアナログ時計が収まっている。
さらにユニークなのは、この車内のスピリット・オブ・エクスタシー像のライティング。まず、「公演の照明を彷彿させる」という光が下方から出て、そののちやわらかな照明へと変化する。これを「ステージ」とロールス・ロイスは表現。開発に4年かけたそうだ。一見の価値ある演出といえる。
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シート地のバリエーションも、カリナン・シリーズⅡの真骨頂といってよい。驚くほど多様な素材と色との組合せが用意されている。さらに今回は「デュアリティツイル」なるファブリック素材を乗員のからだが触れる部分に選ぶことも出来るようになった。
竹から作られたといい、なぜ竹かというと、かつて創業者のひとり、フレデリック・ヘンリー・ロイス(1863年−1933年)が冬を過ごしたコードダズールの「ル・ジャルダン・デ・メディタラネ」の広大な竹林からのインスピレーションなのだそう。
加えてパターンもユニーク。ロールスとロイス、ふたつのRを鍵のように組み合わせたモノグラムを格子パターンと組み合わせている。かなりはなやかなイメージで、色の組合せも大胆。黒地に黒のパターンを選ぶことも出来るそうだが、それはそれで、若い感覚のオーナーにはウケそうだ。
イビサで私が乗ったのは、420kWの最高出力と850Nmの最大トルクをもつ標準モデルと、さらにパワフルな441kWと900Nmの「ブラックバッジ・カリナン・シリーズⅡ」。
2車のキャラクターをごく簡単に説明すると、やさしい感覚が好きなら標準モデル、ワインディングロードでもぐいぐい走りたいなら、足まわりもすこし硬めのブラックバッジ、という印象だった。
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共通するのは、エフォートレスというロールス・ロイスのコンセプト。以前よりだいぶ握りが太めになったハンドルに手を添え(理想的には指先だけでつまむように)、軽く足を載せただけで、巨人の手がそっとやさしく押し出してくれるようなトルク感を味わうのが、とても気持ちがよい。
すべての操作類は軽く、しかし確実に動かせる。そして静か。車体はフラットで、凪の水面を進むヨットというイメージだろうか。アクセルペダルを軽く踏み込むだけで、12気筒エンジンは、2トンを超える車体を加速させていくのだが、加速感がほとんどない。これにも、あらためて驚いた。
ロールス・ロイスは12気筒エンジンにこだわりつづけ、やがて、ピュアEVへと移行するのだそう。ピュアEVのスペクターも感心させられる出来だが、カリナン・シリーズⅡの12気筒フィール、すばらしい。いまのうちに味わっておきたいと。強く思わせるのだ。
Rolls-Royce Cullinan SeriesⅡ(Black Badge Cullinan SeriesⅡ)
全長×全幅×全長=5355×2000×1835mm
ホイールベース:3295mm
車重:2725kg
6750ccV型12気筒 全輪駆動
最高出力:420kW(441kW)、最大トルク:850Nm(900Nm)
問合せ先:ロールス・ロイス・モーター・カーズ
TEL:0120-980-242
www.rolls-roycemotorcars.com