アーティスト・ヤノベケンジのシップス・キャットが、タカラスタンダードとのコラボレーションで鏡となって登場。製品化への背景と、そこに込められた思いを訊いた。
2021年にオープンした大阪中之島美術館の入り口にそびえ立つ猫の彫刻『シップス・キャット(ミューズ)』。今回、この作品をモチーフにした「シップス・キャット・ミラー」が発売された。
しかしこのプロダクト、鏡というには鏡の面積が少ない。この生みの親であるアーティスト、ヤノベケンジはこう語る。
「これはプロダクトでありながらアートでもある。そして魔除けやお守りのように、日常で心を寄せる存在であってほしい、そんな想いが込められています」
そもそも、シップス・キャットは大航海時代にネズミから貨物を守り疫病を防ぐために船に乗っていた猫がモチーフ。確かにお守りとして効果を発揮しそうな力強いインパクトがある。
このアイテムは、キッチンやバスルームなどの住宅機器で有名なタカラスタンダードとのコラボレーションによって生まれた。1912年に創業したタカラスタンダードは、日本のホーロー工業のパイオニア的存在。世界で初めて「ホーローキッチン」の開発に成功し、長年にわたり技術力を磨いてきた。そんなタカラスタンダードの高い技術は、今回のプロダクトにもふんだんに発揮されている。
ヤノベはいままで鉄やステンレスなどさまざまな素材を扱ってきたが、ホーローを扱うのは初めて。以前から素材そのものに興味があったという。
「多くの人の手に渡るプロダクトをつくる上での安全面への考慮など、メーカーとしての視点はこれまでの作品づくりにはなかったもの。そのタカラさんのまじめな姿勢と、高い技術力が合わさって完成した製品でもあります」
「シップス・キャット・ミラー」の周囲にはヤノベの作品に使われているリベット留めが施されるこだわりも。今回の取り組みを活かし新たな展開も検討中だという。
「実はお話をいただいた時、最初に思いついたのがお風呂でした。立体的な作品の実現には時間がかかりそうですが、今回のような平面での形状や、ホーローインクジェットプリントを活かせば可能性はあります。たとえばシップス・キャット柄のバスユニットなども面白いかもしれません」
シップス・キャットは、博多にあるホステル「ウィーベース」のパブリック・アートとして誕生したのがはじまりだ。銀座シックスの吹き抜け空間や、7月からは岡本太郎記念館での展示も予定されるなど、さまざまな場所へと展開している。ヤノベは「船乗り猫が世界中を旅していたように、作品自らが旅をしている」という。
インテリアでありながらアートのようにインスピレーションを与えてくれるシップス・キャット。今後もさまざまな場所、モノへと展開していきそうだ。
●タカラスタンダード
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