各界で活躍する方々に、それぞれのオンとオフ、よい時間の過ごし方などについて聞く連載「My Relax Time」。第59回は、早稲田大学在籍時からソマリアやイエメンなどの紛争地でテロ組織の投降兵や逮捕者の社会復帰支援や、紛争解決に取り組む永井陽右さんです。
写真:殿村誠士 構成:舩越由実
紛争地帯の最前線で、武装勢力を相手に仕事をしています。武器を置いたところ、つまり交渉や対話が専門です。最近では、中東でとある組織のリーダー級と交渉しましたが、始まる前から胃が痛いですよ。失敗できないですからね。でも交渉の場では、いかにリラックスした空間をつくり人間関係を築けるのかが鍵になります。実際、かしこまった雰囲気では物事はあまり決まりません。コーヒータイムや、その後の食事のときに関係性が深まっていく。「アイスでも食べようか」なんて雑談をしながら盛り上がって、次第に話がまとまっていく……なんてことがありますから。僕はミッション達成のため必要なことはなんでもやる姿勢でいますが、こうして“緩める”場面も常につくっています。
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好物は酢豚と麻辣担々麺で、日本に帰国したら必ず食べます(笑)。紛争地の最前線ではカロリー重視の味気ないレーション(戦地、被災地などで作戦行動中に取るために配給される食糧)や軍のケータリング食が多いので、帰国後の楽しみといえば食事なんです。ポテトチップスも大好きで、いちばんのお気に入りはサワークリーム味。ポテトチップスはソマリアやイエメンでも買えるのですが、特にソマリアは危険で街を自由に出歩くことはできないので、基地のなかで鬼気迫る感じで「軍にポテチを頼め!」なんて言うと、周りはクスッなる。「この色のパッケージだ。間違えるなよ」って(笑)。自分のペースを保つために、冗談は意識的に言うようにしています。現地では命を狙われる可能性もあるし、極度の緊張で我を忘れることもある。だからこそ自分を見失わないように、ペースを保つことを心がけています。
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お酒が好きで、ひとりでも毎日飲むんですよ。でもお酒を飲む文化のないイスラム圏では、たばこがコミュニケーションツールです。現地では多くの人がたばこを吸いますから。まだ向こうにない珍しいたばこはくれくれと欲しがられるので、以前は日本からカートンを持参していたほどです。一方的に渡すだけではなく、相手からもたばこをもらったりもしています。いわゆるテロリストと呼ばれるような方々には、宗教をはじめとする譲れないものがある。交渉の場合では、その譲れないものを棚上げにすることがテクニックとして大事です。その意味でたばこは、タブーに触れない万国共通の言語として非常に重要なツールですね。
『紛争地で「働く」私の生き方』永井陽右 著 小学館 ¥1,870
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