ドイツと国境を接するスイス北部に位置し、中世の趣を残す古い街並みとライン川の滝が見どころの小さな都市。このシャフハウゼンに拠点を構えるIWCが、刻一刻と変わる街の空の色をイメージした新作を発表した。
シャフハウゼンの美しい自然にインスパイアされた、IWCの2024年の新作
Silver Moon
夜が明けても空にうっすらと浮かぶ白い月。そんな有明の月にインスパイアされた「シルバームーン」は、繊細な刻の流れを上品な色彩で表現した。澄んだ空気の中で、朝日がシャフハウゼンの旧市街の石畳を照らす様子もロマンティックだ。
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ポルトギーゼ・ オートマティック 42 /自社製の「キャリバー52011」を搭載。デザイン自体はきわめてシンプルながら、7日間ものロングパワーリザーブを実現した。ローマ数字のアプライドインデックスの立体感を高めつつ、3時位置のインジケーターも含めて配色数を抑え、これまで以上に端正なデザインとなっている。大きなケースや細いベゼル、リーフ針などの要素は変わらないが、ケースバックの構造を変更したことでケース厚は12.9mmへと薄型化し、さらに防水性も向上。自動巻き、SSケース、ケース径42.4mm、パワーリザーブ約168時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、5気圧防水。¥1,963,500
Horizon Blue
観光名所となっている滝に加え、ドイツとスイスの自然国境をなすライン川はシャフハウゼンの街に欠かせない要素だ。「ホライゾンブルー」は、晴れ渡った午後に、ライン川と空の水平線が溶け合うように一体化していくさまを想起させる。
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右:
ポルトギーゼ・クロノグラフ
/1995年のデビュー以来、変わらないスタイルで人気を集めるクロノグラフ。今回の刷新では、これまでにないダイヤルカラーも採用された。サンレイ仕上げによって光の当たり具合でブルーの濃淡が変化する様子は、青空とまばゆい陽光、そして川の水面の煌めきをも連想させる。インダイヤルとのわずかなコントラストや、ストラップに施したブルーのグラデーション仕上げなど、自然が作り出す色の世界を時計全体で楽しめる。自動巻き、18KWGケース、ケース径41mm、パワーリザーブ約46時間、シースルーバック、サントーニ製アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥2,959,000
左:
ポルトギーゼ・ オートマティック 40
/真鍮製のダイヤルにサンレイ仕上げを行った後に、ガルバニック加工でブルーを着色し、15層もの透明ラッカーを施して磨き上げることで、優美なダイヤルを完成させた。1939年に誕生した初代モデルを継承した余白の大きなダイヤルは、この美しい色を楽しむのに最適だ。レイルウェイミニッツトラックに沿ったシルバーのインデックスやリーフ針は端正かつ、ケース素材にホワイトゴールドを用いて高級感も漂わせる。自動巻き、18KWGケース、ケース径40.4mm、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、サントーニ製アリゲーターストラップ、5気圧防水。¥2,887,500
Dune
緯度の高いシャフハウゼンは日没時間が遅いため、人々はテラスなどで食事や酒を楽しみながら、のんびりと夕暮れ時を過ごす。砂丘の意味を持つ「デューン」は、赤く色付いた黄昏時の空をイメージ。針やインデックスは、輝く太陽の光だ。
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右:
ポルトギーゼ・ クロノグラフ
/計測機器として生まれたクロノグラフは視認性を重視し、針やインデックスの色とダイヤルの色は反対色などにするのが 一般的なセオリーだ。しかしこのモデルでは、夕焼けに染まる空の色をイメージしたダイヤルに、輝く太陽のような金色の針とインデックスを組み合わせることで、ロマンティックなサンセットの情景を演出した。長年にわたって愛されてきた傑出したデザインだからこそ、カラーリングの違いが新しい物語を生み出すのだ。自動巻き、SSケース、ケース径41mm、パワーリザーブ約46時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥1,237,500
左:
ポルトギーゼ・ オートマティック 42
/大きなデザイン変更こそないものの、ディテールをブラッシュアップ。ダイヤルカラーだけでなく、サファイアクリスタル製の風防はダブルボックスタイプになったことでよりフラットになり、歪みも 少なくなって視界がクリアになった。さらにケース構造も見直し、ケースバックをビス止めすることで薄型化させて防水性も向上させた。シースルーバックもぎりぎりまで大型化し、精緻な動きの自社製ムーブメントが細部まで見えるようになっている。SSケース、ケース径42.4mm、パワーリザーブ約168時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、5気圧防水。¥1,963,500
Obsidian
シャフハウゼンは夜も美しい。大都市ではないため街の灯りも早々に閉じ、深い闇夜には満天の星と月が美しく煌めく。黒曜石を意味する「オブシディアン」は、そんなシーンを思わせる。人々が寝静まった静かな夜に、眺めていたい時計だ。
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ポルトギーゼ・ハンドワインド・トゥールビヨン・デイ&ナイト ポルトギーゼ・ハンドワインド・トゥールビヨン・デイ&ナイト/見習い時計師が考案した機構をもとに開発された、球体式のデイ&ナイト表示を搭載。一日で一回転し、夜になると黒く表示される。そして6時位置にはフライングトゥールビヨンを搭載するが、ケースの厚みは10.8mmに抑え、ドレッシーな印象。深いブラックのダイヤルに華やかな機構を組み合わせており、色気ある時計に仕上がった。ケースには特殊な加工により硬度と耐水性が増した「18 ct Armor Gold」を採用。手巻き、18Kアーマーゴールドケース、ケース径42.4mm、パワーリザーブ約84時間、シースルーバック、サントーニ製アリゲーターストラップ、6気圧防水。¥12,127,500
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ドイツ文化の影響を受けた、機能美にあふれるマニュファクチュール
ドイツ領内に入り込むように位置するスイス北部の都市シャフハウゼンに拠点を構えるIWCは、ドイツ文化の影響を強く受けており、卓越したエンジニアリングをデザインに落とし込む機能美で知られている。しかもそういった美意識は時計だけではなく、最新の工場「IWCマニュファクチュールセンター」にも反映されていた。IWCにとって工場とは、製品を作るだけでなく、美意識を封じ込める場所でもあるのだ。
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チューリッヒから電車で北に1時間ほど離れた場所に、シャフハウゼンという街がある。シャフハウゼン州の州都ではあるが、人口は10万人に満たない小規模な都市だ。隣接するチューリッヒ州との境を流れるライン川は、オランダのロッテルダムを河口とする国際河川で、古くよりヨーロッパ内を結ぶ重要な交易路として利用されてきた。
そんなライン川の恩恵を十二分に受け、中世より水運交易で栄えてきたのが、「船の家」を意味するシャフハウゼンだ。街からほど近い場所にヨーロッパ最大の滝「ライン滝」があり、船が荷物の積み替えをする港町として、発展を遂げてきた。
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中世の面影を遺す旧市街とともに、16世紀に建てられた荘厳な城塞「ムノート」が、街のシンボルとして鎮座する。シャフハウゼンは歴史ある街である一方、実は工業都市という顔もある。19世紀後半には滝の上のライン川にダムが建設され、その水力発電を利用するために、製鉄所や鉄道の旅客製造会社の工場、アルミニウムの精錬所などが次々につくられた。時を同じくして興った時計製造もまた、シャフハウゼンを代表する産業のひとつである。
アメリカ・ボストンで時計会社のディレクターを務めていたフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズは、当時はまだ人件費が安かったスイスで時計を製造し、アメリカで販売することを目的に、時計工場を設立する場所を探していた。彼がシャフハウゼンの地を選んだのも、この安定した動力源を利用するためで、International Watch Companyをライン川のほとりに設立し、ライン作業による効率的な時計製造をスタートさせる。
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現在のIWCも創業地と同じ場所に本社工場を構えているが、製造の効率化を高めるために最新の工場「IWCマニュファクチュールセンター」をシャフハウゼン市の郊外に設立し、創業150周年となる2018年から稼働がスタートした。
この「IWCマニュファクチュールセンター」設立のプロジェクトを指揮したのが、前年の17年にCEOに就任したクリストフ・グランジェ・ヘア。彼は2006年にIWCに入社し、IWCミュージアムの設計やIWCのリブランディングにも携わった。実は元建築家であり、工場の至るところに彼の美意識が詰め込まれている。
なだらかな起伏のある風景に優雅かつなめらかに溶け込むように、低く連なる建屋を設計。床部分と屋根部分を白にすることで水平のラインを強調し、細い柱を使って軽やかさを引き出した。設計のインスピレーションの源になったのは、彼と同じくドイツ人の巨匠建築家ミス・ファン・デル・ローエの「バルセロナ・パヴィリオン」。1929年のバルセロナ万国博覧会で建設されたドイツ館で、モダニズム建築の傑作だ。
設計を担当したのはヨーロッパの大手建築事務所「ATP architects engineers」。「IWCマニュファクチュールセンター」はその高いデザイン性によって、「International Architecture & Design Collection Award 2022」で「Industrial Architecture Built」部門を受賞している。
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エントランスから内部に足を踏み入れると、吹き抜けのダイナミックな空間が広がっており、木製の壁には今日に至るまでのIWCの礎を築いた9人の偉人の写真が飾られている。
そのほとんどは経営者だが、中央列の上には画期的な巻き上げ機構などを開発したアルバート・ペラトン、中央列下にはIWCが誇る永久カレンダー機構などを開発したクルト・クラウスという偉大な時計師の写真を飾っていることからも、エンジニアリングを大切にしている会社であることがわかる。
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バウハウスの美意識が宿る工場で、マイクロパーツから複雑機構のムーブメントまで一貫製造
エントランスを抜け、パーツを製作する部門に進んでも、建物のファサードに通じるバウハウス的機能美の設計で統一されている。
時計工場では伝統的に大きな窓を作って太陽光を取り入れるのだが、「IWCマニュファクチュールセンター」では大きな窓を連続で配置してはいるが、その窓の間隔はそのまま内部の柱の間隔とも合わせている。つまり、すべての柱を等間隔で配置することですっきり見せているのだ。
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天井の照明も同様に等間隔でレイアウトされており、時計を製造しやすくするという目的に向かって、徹底的に機能性重視の設計思想が貫かれている。これはいかにもIWCらしい考え方で、時計でも機能性重視の設計思想を貫いている。
たとえば永久カレンダーは高度な技術を要する複雑機構だが、その反面、扱いはかなり難しい。しかしIWCでは構造をシンプルにしてパーツ点数を減らし、モジュール化することで多くの時計に使えるように設計。曜日、日付、月、年、ムーンフェイズ機能のすべては連動しており、リューズによって同時に調整が可能にしている。
最新作の「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」では、既存の永久カレンダーに8つのパーツを加えるだけで、複雑なグレゴリオ暦に対応させた。つまり技術的設計は極めて複雑でも使用方法はシンプルにするというのが、IWCが目指すところ。その姿勢は工場の設計にも表れている。
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機能的な工場で生まれるIWCの時計だが、その製造工程は極めてスイス的であるのも興味深い。「IWCマニュファクチュールセンター」には多くの工作機械が導入され、1/1000㎜レベルのマイクロパーツまで自社で製造する。
美しい地板への仕上げや微細なパーツのクリーニング工程などを経て、時計を組み立てるのは、もちろん時計師による手仕事のみ。作業デスクは効率的に配置されているのは時計師が仕事をしやすい環境を整えるためで、それぞれの時計師が10から12工程を受け持ち、5つ組み立てると次の作業者に受け渡す。
同じ作業を続けることで練度が上がり、ミスも減る。時計師は担当工程を変えながらキャリアを積み、やがてはトップレベルの時計師としてハイコンプリケーションウォッチの組み立てを行えるように成長を促すという。
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「IWCマニュファクチュールセンター」で組み上げたムーブメントと磨き上げたケースは、シャフハウゼン市内の本社工場に送られる。そこで最終段階として、針を取り付けてケースに収め、クオリティコントロールを経て完成となる。
本社内には耐磁性能や耐衝撃性能のためのテストラボも併設されており、常にハイレベルな時計作りが実践されている。
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戦禍を逃れた台帳や歴史的な名作も眠る、珠玉のミュージアム
シャフハウゼンの本社内に設けられたIWCミュージアムは、創業から今日までの足跡を学ぶことができる場所。展示物も機能的に整理されており、非常に見やすい設計だ。時計を巡る旅のデスティネーションにいかがだろうか?
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シャフハウゼンの本社社屋に併設されたミュージアムは、創立125周年を記念して1993年にオープン。2007年に本館の1階を改装して現在の形へと進化した。
展示は西棟と東棟に分かれており、西棟は過去から現在へ至るまでのイノベーションの歴史を振り返る展示となっている。創業者F.A.ジョーンズが製作した伝説のムーブメントや、現在も人気が高いパイロットウォッチの原点、あるいは耐磁時計のパイオニア「インヂュニア」などが展示され、IWCの技術史を学ぶことができる。
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東棟では「ポートフィノ」や「ポルトギーゼ」「インヂュニア」など現行コレクションを中心に展示。貴重な限定モデルや、過去に話題となった傑作なども展示されておりIWCファンにとっては聖地とも言えるスペースとなっている。
ちなみにミュージアム専用のアプリもあり、写真と音声で展示の解説をしてくれる。しかも日本語にも対応しているので、より深くIWCの世界に浸ることができるはずだ。
IWCの本社はシャフハウゼン駅から徒歩10分程度。中世の趣の残る美しい街をぶらぶら歩いていると、あっという間に到着する距離なので、シャフハウゼンの有名なライン滝(ラインファル)観光のついでの立ち寄るものいいだろう。
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IWC
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