萩原利久が語る、映画『朽ちないサクラ』への思い「以前から警察官役を演じてみたいと思っていました」

  • 写真:河内 彩
  • スタイリング:Shinya Tokita
  • ヘア&メイク:Emiy(スリーゲート)
  • 文:小松香里
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萩原利久●1999年、埼玉県生まれ。2008年にデビューして以来、数々の映画、舞台、ドラマで活躍。2021年MBSドラマ『美しい彼』で主演を務め、ブレイク。おもな出演作は、ドラマ『たとえあなたを忘れても』、『めぐる未来』、映画『ミステリと言う勿れ』など。

『孤狼の血』シリーズの柚月裕子による、シリーズ累計40万部を突破した異色警察小説『朽ちないサクラ』が実写映画化され、6月21日から全国公開される。本来捜査する立場にない県警の広報職員・森口泉(杉咲花)が、親友の新聞記者・津村千佳(森田想)の変死事件の謎を独自に調査し、自責と葛藤を繰り返しながら、真相に迫っていく。泉のバディ的存在として、泉への好意を隠しながらも献身的にサポートする年下同期の磯川俊一を演じたのが萩原利久だ。登場人物それぞれの正義が渦巻き、さまざまな疑惑が噴出していく重層的な警察×サスペンス×ミステリー映画『朽ちないサクラ』において、萩原が演じる磯川はとてもクリーンでピュアな輝きを放っている。子役からキャリアをスタートさせて約16年。『美しい彼』シリーズでのブレイクも記憶に新しいが、年々縦横無尽な活躍を見せている萩原に話を訊いた。

『朽ちないサクラ』出演を通じて、得られた経験とは

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シャツ¥67,100、パンツ¥83,600、ネクタイ¥24,200/すべてアワー レガシー(エドストローム オフィス☎︎03-6427-5901) シューズ¥64,900/アモーメント(アモーメントcs@amomento.jp)

──『美しい彼』でご一緒した遠藤里紗プロデューサーからのオファーで『朽ちないサクラ』の出演が決まった時はどう思いましたか? 

嬉しかったですね。一度ご一緒した方とまた別の作品でご一緒できるのは、ひとつの作品から繋がっていく感覚を一番感じる瞬間でもあります。2回目となると1回目以上に良いものにしたいという気持ちが生まれますし、また次に繋がるようにもしたいと思いますよね。ただ、『朽ちないサクラ』は1年以上前に撮影したんですが、その頃は『劇場版 美しい彼〜eternal〜』の公開タイミングでもあって、『朽ちないサクラ』の衣装合わせや『美しい彼』の舞台挨拶で気付いたら一週間毎日遠藤さんと一緒にいたのが不思議であり面白かったです。

──(笑)遠藤プロデューサーは「萩原さんが初めての刑事役を演じることで、好⻘年のイメージを保ちながらも新しい⼀面が⾒えたら」という期待を込めたそうですが、実際に初の警察官役を演じてみてどうでしたか?

たくさんの刑事モノの作品が存在していて、俳優であればどこかのタイミングで経験することは珍しくないので、以前から「警察官役を演じてみたい」と思っていました。10代の時は学生役が多く、専門職の役を演じる機会が少なかったんですよね。20代になって、今回演じさせていただくことが決まり、「自分は子どもから大人になったんだな」と改めて実感しましたし、楽しみという部分も含めてちょっとソワソワしました。つくりものとはいえ、現場に警察手帳があるとワクワクしましたね。

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©️2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

──『朽ちないサクラ』の原作と脚本を読んだ時、どんなことを感じましたか? 

脚本と原作、共通して感じたのは色々な視点のある作品だということでした。事実はひとつですが、立場や環境によって見え方や感じ方、温度感が大きく違います。視点の多さがこの物語のひとつの面白さであり、現代社会と重なる部分でもあると思いました。SNSが浸透したことで簡単にたくさんの情報が得られるようになりましたよね。僕自身、ニュース記事の見出し一行を見ただけで、その内容がわかった気になってしまうことがあります。いま起きていること出来事に対しての温度感はひとりひとり違うと思いますし、『朽ちないサクラ』で描かれている出来事自体は非日常的なものかもしれないけれど、いまの時代を生きている多くの人が感じているような要素が混ざっているんじゃないかと思いました。だからこそ、ぞっとするところもあるように思います。

──ご自身が演じられた磯川俊⼀という役柄についてはどう感じましたか?

濃い登場人物ばかりの中で本当にクリーンな子だと思いました。色々な出来事をストレートに捉えているので、色に例えると白のイメージ。そこに濁りがあるとまた別のニュアンスが付いてしまってもったいないと思ったので、何にも染まっていないということを大事にしながら演じました。

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©️2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

──磯川は同期である泉に対し、恋心を隠し持ちながら泉の独自の捜査をサポートします。その関係をどう捉えましたか?

磯川が親友を殺した犯人を捜す泉をサポートしようとする最初の動機は恋心です。その恋心というのは、演じる上で振り切ることもできるし抑えることもできるので、しっかりとした調整が必要だと思いました。恋心は行き過ぎると犯罪に手を染めてしまう人がいるくらい、人を動かす強い動機になります。なので、監督との打ち合わせの際に、どこまでそれを表に出すべきかということを確認した上で、きちんとその動機に向き合った上でそこまで出過ぎないように意識しました。恋心がきっかけではありますが、磯川が事件の内容を知って、シンプルに「泉さんに力を貸したい」という気持ちを持つようになるという変化をちゃんと表現したいというのが僕なりの着地点でした。

──『朽ちないサクラ』に出演したことで役者としての新たな発見はありましたか?

シーンの頭から最後までカメラを回し続ける長回しが多かったのですが、長い時間の最後の一瞬まで気を抜かないように意識する緊張感はやはり独特だと思いました。僕はその緊張感は嫌いではなく、そこでのどこか極限まで追い込まれるような感覚は、今度さまざまな場所で活かすことができるんじゃないかという手応えがありました。研ぎ澄まされるような感覚がありましたし、いつも以上に視野が広くなるような気がしました。あの感覚を色々な場所で使えるようになったら、またひとつ成長できるんじゃないかなって。というのも、僕は芝居をする上で慣れることが苦手なんです。カットを重ねるとだんだん慣れてきてしまって、鮮度を保つことに苦労してしまう。一番わかりやすいのが驚く演技だと思うんですが、生きていて意識的に驚くことはあまりないですよね。だから、演技だとしても最初のカットが一番リアルだと思うんですが、僕の場合、繰り返して演じているとだんだん驚いたという行為をしなければいけなくなってくるんです。そうなるとちょっとムズムズする感覚が生まれてくる。だから、いかに鮮度を落とさないかが自分の中の大きなテーマなんです。頭から最後まで長回しで撮ると、会話の流れだったりがひとつずつ順を追って進んでいくので、いつもより鮮度のことを意識せずに芝居ができた感覚があります。

──作品の資料によると、原廣利監督が今作での萩原さんの演技に対し、「子どもみたいに明るいのに芝居がとても器用。相手の芝居に対して毎回きちんとリアクションを取っていて、セリフを並べるのではなく生きた芝居をしている」と絶賛されています。

(笑顔で拍手をしながら)やったー!

──(笑)実際に意識されているところはあるのでしょうか?

台本があって(次に)起こることは知っているので油断すると流してしまうんですよね。極論ですが、相手のセリフを全く聞かなくてもお芝居はできてしまう。でも、僕としては限りなくリアルでありたいと思っているので、普段の生活と同じように、ちゃんと相手の言っていることを聞いて、相手のことを見るということは意識しています。言葉が瞬間的に出てくるのも、相手の話を聞いているからですしね。

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準備段階から公開まで、すべてのサイクルが楽しい

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──日常生活を送る中で、いまおっしゃったような芝居に対するアプローチについて思考を巡らせることは多いのでしょうか?

あまりないと思います。役の準備をする過程で、「あの時あんな人がいたな」とか「あの人がこんなことを言ってたな」という日常での記憶を思い出して、ヒントにすることはあります。普段は割とありのままかもしれません。もちろん生活の中で芝居のことを頻繁に考えている方もいらっしゃるとは思いますが、僕は性格的にオンとオフをはっきり分けた方が色々と物事がうまくいく傾向にある気がするんですよね。おそらくずっと芝居に対するマインドでいると、持たないんだと思います。

──萩原さんは子役からスタートし、役者として16年のキャリアをお持ちですが、そのスタイルは徐々に築かれていったものなんでしょうか?

そうですね。色々な成功や失敗を重ねて築かれたんだと思います。ひとつの身体で仕事も趣味や遊びもやっているので、年々メンタルの部分を大事にしなきゃいけないなって思うようになりました。もちろん身体が資本なのでフィジカルも大事にしなければいけないんですが、たとえば熱量の面だったり、メンタルの部分がお芝居に悪い形で色として出てきてしまうことは多いと思うんです。だからオンオフをはっきり分けて、休む時はとことん休んでいます。オフは堕落しきってますね(笑)。

──(笑)「オフはそこまでない方がいい」ともおっしゃっていますよね。

そうですね。とことん休んでちゃんと働くという風にオンとオフの切り替えがあるとどっちもしっかりやり切れるんですが、オフが長すぎるとスイッチがオンに傾かなくなっちゃうんです。ひたすらしょうもない生活を送ってしまう(笑)。あと、僕はオフが長いとちゃんと風邪をひきます。しかもちょっとした風邪じゃなくて、まあまあしっかりとした風邪(笑)。気が緩んでるのかわからないですが。だからあまり暇がない方がありがたいですね。

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──役者をやっていて、一番楽しいと思う瞬間はいつですか?

準備段階から撮影、作品が公開された後、すべてのサイクルが楽しいですね。俳優はスポーツと違って現場では目に見える結果が得づらい職業で、「これができたらOK」というものがあるわけでもないですし、見る人によって評価も全然違います。でも、ここ数年見てもらえることがすごくありがたいことなんだなという感覚が増しています。作品を見てもらって感想をいただけると、次の作品をより良くしていこうと思う。僕の性格的にもそういったサイクルがすごく合っていると思っています。僕は好きなものを掘っていくことがすごく好きで、知らないことがあるとストレスを感じやすい性格です。どんどん調べていって、色々なものを見て、覚えていくことが好きなんです。役づくりにおける準備はやろうと思えば無限にできると思っていますが、たとえ時間が無限にあったとしても、「今回はすべての準備ができました」となることはおそらくなくて、どれだけ準備をしても永遠に課題は見つかる。僕はその準備をするという行為がすごく好きなので、この仕事には向いているんじゃないかと自分では思っていますし、自分の性格においてのベストなやり方がいまのスタイルだと思っています。

──掘れば掘るほど色々な選択肢が見つかって、迷ったりはしないのでしょうか?

迷うことも楽しんでいるのかもしれません。僕は台本を読む時、「なんでこう思った?」「なんでこうなった?」という風にハテナをエンドレスで付け続けるんですよね。セリフや行動ひとつひとつに対して永遠にそれをやっていく作業が、僕の準備のやり方のひとつです。人によってはそういった作業が苦手な人もいるかもしれませんが、僕は好きなのですごくラッキーだったと思っています。

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──性格的にも役者がすごく合っているんですね。

そうですね。「この仕事をしていなかったら何をしてますか?」と訊かれることがありますが、マジで何してるか想像つかないです。高校の同級生にも「いまの仕事があって本当良かったね。なかったら何してたんだろうね?」ってよく言われるけれど、自分でも「確かに!」って思います(笑)。学があるわけでも他にできることがあるわけでもない。好きなことが仕事になっていて良かったなと心から思います。

『朽ちないサクラ』

監督/原 廣利
出演/杉咲花、萩原利久、豊原功補、安田 顕ほか 2024年 
6月21日より公開
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie