古くから日本の絵画に描かれてきた犬や猫。人と犬との関わりの歴史は極めて古く、日本では縄文時代から猟犬として飼われていた。また猫は従来、奈良時代に中国から仏教の経典を運ぶ際、鼠の害から守るために船に乗せられて来たとされているものの、近年の発掘調査によって、弥生時代にともに暮らしていた可能性があるという。犬は古墳時代に埴輪が作られ、室町時代には洋犬も渡来し、絵画として描かれる。猫は平安時代に貴族たちのペットとしてひもでつながれて飼われ、江戸時代に入ると庶民の生活の中へと溶け込んでいく。そして犬も同じ江戸時代には一般的に放し飼いされつつも、小型の愛玩犬である狆(ちん)は身分の高い女性たちを中心に室内で飼われていた。
山種美術館で開催中の『【特別展】犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―』では、江戸時代の伊藤若冲や円山応挙、また明治以降の竹内栖鳳や川端龍子、さらに現在活躍中の山口晃など、時代を超えて多様な画家たちによる犬と猫を題材とした作品を紹介している。このうち初公開の《洋犬・遊女図屛風》(個人蔵)は、江戸時代初期、まだ珍しかった洋犬をモティーフとしたもので、マズル(目元から鼻先にかけての部分)が長く足の短い、ダックスフンドに似た特徴を持つ犬が描かれている。室町時代の15世紀後半には「天竺犬」という、口先の細く足の短い犬が相国寺(京都)に連れられ、人々が見物したとの記録が残っている。桃山時代から江戸時代初期、南蛮屛風などにしばしば洋犬が見られるが、ヨーロッパとの交流が盛んだった当時、多くの愛玩犬も輸入されていたのだろう。
第1章「ワンダフルな犬」で注目したいのが、師、円山応挙と弟子の長沢芦雪の描いた犬の作品だ。まずは応挙《雪中狗子図》(個人蔵)から見てみよう。当時から子犬図が絶大な人気を博した応挙は、ころころと丸みを帯びた犬を描いた作品を多く残している。そして本作においてもかわいらしく、またにこやかな表情をした、心なしかおっとりと上品な犬を表現している。一方で芦雪の《菊花子犬図》(個人蔵)はじゃれあう9頭の子犬たちを描いたもの。応挙の犬と同様に「ゆるかわ」だが、無邪気でやんちゃもいて、愛嬌を振りまいている。よりユーモラスで動きがあり、擬人化された犬たちとも言える。
同館のレジェンド猫、竹内栖鳳の《班猫》【重要文化財】(山種美術館)が、第2章「にゃんともかわいい猫」で一際目立っている。旅先の沼津の八百屋で見かけた猫から創作意欲を掻き立てられ、自らの一枚の絵と引き換えに京都へ連れて帰ったという猫。栖鳳は写真撮影や写生を繰り返すと、伝統的な絵画表現を活かしつつ、写実性と白身性に富んだ作品として完成させた。展覧会では合計56点の作品に犬62頭、猫173匹が登場。さらに最後はトリとして、横山大観の《木兎》(山種美術館)や菱田春草の《柏ニ小鳥》(個人蔵)など、鳥13羽の描かれた4点の花鳥画もお目見えしている。会期も残すところ約1ヶ月。山種美術館にてお気に入りのわんちゃんとねこちゃんの絵を探したい。
『【特別展】犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―』
開催期間:開催中〜7月7日(日)
※会期中、一部展示替えあり。前期:5/12(日)〜6/9(日)、 後期:6/11(火) 〜7/7(日)
開催場所:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
https://www.yamatane-museum.jp/