生成AIの影響はすでにあらゆる分野・職業に及んでおり、多くのクリエイターにとっても無縁ではない。アドビ社の広告ビジュアルを制作したクリエイターに、AIという存在をどう捉えているか、話を聞いた。
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SHA inc. クリエイティブ・エージェンシー:広告やブランディング、パッケージデザインからTV番組のディレクション、ブックデザインまで、幅広いクリエイティブ活動を展開し、国際的にも評価が高い。左から渡邊晃己、代表の竹林一茂、伊佐奈月。
Miki Kudo(中央):7歳より油画・水彩・陶芸・書道・を学び漆芸の人間国宝に師事。独立後、企業広告用の画像制作を中心に文化財のデジタル修復をはじめ、高度な技術と知識、職人的専門性をもつ「こびとのくつ」を創業。
2022年のChatGPTリリース以降、爆発的に普及した生成AI。その影響はクリエイティブの現場にも及んでいる。
「自分たちが積み重ねてきた経験が一瞬にして無駄になり、仕事をAIに取られてしまう。そんな不安が業界に漂っています」
そう指摘するのは、レタッチャーの工藤美樹さん。一方で彼女のもとには新たなタイプの仕事の依頼が増えているという。
「プロンプト(AIへの命令)は書けても、生成された画像の不自然さの解消と厳密な仕上げができない人が多く、途中で放棄された案件の事故処理が増えています」
そんな工藤さんが旧知のクリエイティブ・エージェンシー「SHA」とともに取り組んだ作品は、左ページの画像。「画像に対して責任をもつ。やり切る。そして神は細部に宿る」という彼女の姿勢や「クリエイターの狂気を感じるようなものにしたかった」というSHA代表・竹林さんの言葉を体現する、圧巻のビジュアルだ。
一見すると単なる空撮写真のようだが、どこまでも拡大できる途方もないディテール。その秘密は、まさに狂気を宿した手仕事、そしてAIとの共創にある。
「ビーチのビジュアル(左ページ右下)は、パラソルも、人も、影も、すべて切り抜いたパーツになっています」と、工藤さんはその制作過程を明かす。
なんと、これらの作品はそのどれもが1枚の写真ではなく、実際は何千枚もの画像を組み合わせてつくられているのだという。たとえば、流氷が浮かぶ海と、そこを進む赤い船を描いたビジュアル。この作品においては、流氷1枚1枚がすべて独立したパーツになっているのだ。
「アドビのストックフォトなどを切り抜いて並べています。レイヤーは何千、データは100GBくらいになっています」と工藤さんは制作の苦労を語る。
まさに神は細部に宿る。実在しない風景を描くのは生成AIの得意分野だが、それを人間の手仕事でどこまでも緻密に再現した作品だとも言えるかもしれない。
彼らは、AIの存在を前向きに捉えている。この作品においてもカンプづくりに生成AIを使用したほか、すベての画像パーツをAIツールに通して6倍まで高解像度化した。つまり、クリエイターの想像力を拡張し、その実現をサポートするツールとしてAIを利用したというわけだ。
AIへの的確な命令、アウトプットの判断には、人の知識や経験が大きく作用する。そこにクリエイターが必要なのは間違いない。
「本物として残るのは、魂を込めた職人仕事だと思います」
そう微笑む工藤さんの瞳にみなぎる自信は、簡単に揺らぐことはなさそうだ。
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AIとの共同作業で実現した、超高精細な広告ビジュアル
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