【コラム】藤原ヒロシの「かっこいい」は、自分から遠いところに

  • 編集&文:長畑宏明
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80年代から現在まで、ファッション界だけでなく、裏原宿など大きなムーブメントの立役者としてポップカルチャー全体に大きな影響を及ぼしてきた藤原ヒロシ。特定のコミュニティーに属しているというよりは、常に単独で動いているように映る彼はなにをどのような理由でかっこいいと感じているのだろうか。いざ聞いてみると、冒頭からこちらの予想以上に固有名詞がポンポンと飛び出してきた。その基準となるキーワードは、「藤原ヒロシとは異なる人」。

Pen最新号は『新時代の男たち』。ここ数年、あらゆるジャンルで多様化が進み、社会的・文化的にジェンダーフリーの概念も定着してきた。こんな時代にふさわしい男性像とは、どんなものだろうか。キーワードは、知性、柔軟性、挑戦心、軽やかさ、そして他者への優しさと行動力──。こんな時代だからこそ改めて考えてみたい、新時代の「かっこよさ」について。

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藤原ヒロシ ●音楽プロデューサー
1964年、三重県生まれ。フラグメントデザイン名義でファッションを中心にクリエイティブ・ディレクションを行う。85年にはヒップホップユニット「タイニーパンクス」を結成するなど、ミュージシャンとしても活動中。

自分とは異なる趣味嗜好を持つ人を
かっこいいと感じる

僕が20代の頃にかっこいいと思っていたのは、編集者・選曲家など多方面で活躍している桑原茂一さん。自分の身近にいたテクノポップ・バンド「プラスチックス」の中西俊夫さんとか立花ハジメさんに憧れてたし、同じような感覚を共有していたと思うんですが、それは「かっこいい」というのとは、少し違う気がして。その点、茂一さんはいつもスーツ姿で、自分たちと違う装いをしていたし、その感性の違いにかっこよさを感じていました。

他にもかっこいいと思う人は何人もいます。スタイリストの山本康一郎さんや、ユナイテッドアローズの栗野宏文さんも。康一郎は時々バッタリ会った時にお茶をするくらいで、栗野さんはお話する機会もほとんどないんですが、雑誌や街で見るかぎりいつもスタイルが独特でかっこいい。シンプルに、おしゃれ。あとは、最近ドラマを観ていてかっこいいなと思ったのが、窪塚洋介とムラジュン(村上淳)。ブラック・キャッツというバンドでベースを弾いていた陣内淳という人もかっこよかった。ピテカントロプス・エレクトス(原宿のクラブ)やクリームソーダでも働いていたりして、確固としたスタイルを持っています。歌手で俳優の岩城滉一さんもかっこいいな。その元祖みたいな存在ですよね。

僕にとって「かっこいい」という感情は、憧れとか、その人になりたいとかっていう感情とは別ですね。手が届かないということでもなく、「この人は自分とは違う」と割り切ったところで初めてその人のかっこよさが見えてくる。同調できる人は好きなんだけど、すぐ〝友達〟みたいになっちゃうから。そういう意味でも、僕は自分のこともかっこいいとはまったく思えない。いまとなっては社会から外れた人間で、むしろ失敗したと思っているので。30歳を過ぎたあたりから世間とズレていったんですよね。スーツを着る時期を逃したっていうか。要はピーターパンシンドローム。いつまでも革ジャンを脱げないロッカーのような。

僕は普段から人と深く話し込むようなことが少なくて、人間の中身にもあまり関心がありません。それよりは世間で起こっていることについて話している方が楽しい。だから、本人が着ているものや雰囲気で判断するしかないんですが、そもそもかっこいいってそういうものかなと。とはいえ、街やイベントで実物をまったく見たことがない人に対してかっこいいと思うこともありませんが……。SNSでお洒落な格好をしていても、その服を自分で選んでいるかどうかはわからないですし。

かっこいい人の条件をひとつ挙げるとすると、その年代でやるべきことをやっている感じがすること。時代に合わせるんじゃなく、自分がしたいことをしたいタイミングでしたいようにやっている人。それが、自然と時代に合ってくることもあると思います。自分とは真逆ですね。僕は生きていて「いまの時代はしっくりこないな」ということがなかった。もしかすると時代に寄り添いがちだったのかも。いつもその時に好きなものが好きだから。

世の中には、やりたくないことを無理やりやっているのが好きな人っているじゃないですか。僕はそういう人、あまり好きじゃなくて。もしかすると職人肌で仕事ができる人なのかもしれないですけど、「おれはこうだから」って自分を決めつけちゃう人はあまり好きじゃない。それよりも、「ああ、この人はいまこれがやりたいんだな」というのが見える人が好きです。

SNSで自分をブランディングできる時代になって、人のザラっとしたところが見えづらくなったのかもしれません。でも、ツルッと洗練させて見せるにしても、自分がよいと思うものをそういうふうに見せればいいだけの話。どちらにせよ、無理をしている雰囲気はかっこよくないと思います。好きでもないのに流行っているものを身に着けている人と、自分が好きで着ている人とでは、やっぱり見た目に差が出ます。でもまあ、かっこいい人の数はそもそも少ないですし、全員が全員かっこよくなる必要はないんですけど。

大前提として、なにをかっこいいと思うかは本当に人それぞれ。今後は、どんどんそれが細分化されていくような気がします。かつてのキムタクみたいなひとりの飛び抜けたスターを全員が崇めるのではなく、いろんなところにバラバラにかっこいい人がいるという状態。それには、SNSでそれぞれが好きな意見を言えるようになったことが影響しているんじゃないでしょうか。その中で、僕はいつも編集者的な立場から物事を眺めながら、その時代特有の空気を楽しんでいきたい。

そういえば、最近は映画『オッペンハイマー』の主人公(ロバート・オッペンハイマー)の服装がかっこいいなと思いました。あれを観てから、僕も毎日のように青いシャツにグレーのパンツを合わせています。人と同化したいとは思わないんですが、かっこいいものに触れたらすぐに影響されてしまいます。

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