「大人の名品図鑑」レイングッズ編 #1
6月から7月にかけて、日本では本格的な夏がやって来る前に必ず“梅雨”がある。雨や曇りが多くなり、ジメジメした日々が続く。梅雨末期には集中豪雨が降ることも多く、本格的な雨具が必要になるだろう。今回は雨の日に役立つレイングッズの名品を集めてみた。
多くの人がいちばん使うレイングッズ=雨具は、やはり傘だろう。天気予報で知られるウェザーニュースが実施した「傘調査2022」によれば、ビニール傘以外の長い傘を使う人は47%といちばん多い。次に多いのがビニール傘で26%。折りたたみ傘が21%という結果で、雨が降れば日本ではほとんどの人が傘をさす。同社は2014年にも同じような調査を実施していて、その集計では、日本の年間降水日数は当時世界ランク13位だったが、傘の所有数は世界平均2.4本に対して、日本は3.3本と世界一。しかも傘1本の購入費用は世界平均の約2倍で、世界でいちばん傘が好きな国民とも言われている。
では、傘はいつごろから使われるようになったのだろうか。『アンブレラ 傘の文化史』(T.S.クローフォード著 八坂書房)には傘の起源について「傘が発明されたのは間違いなくエジプトで、最初は流行品というよりも宗教や儀式で使われる標章だった。紀元前1200年になると、王族の高い階層が庶民の低い階層に影を投げかけていることを示すために、そして、とりわけ、王が天空に覆われていることを象徴するために、気の利いた、込み入ったデザインの傘が最高位の貴人にさしかけられた」と書かれている。
つまり傘が使われるようになった紀元前では、主な目的は雨よけ用ではなく、富や権力を象徴するアイテムであったわけだ。やがて庶民が傘を使うようになってからも傘は日よけ用として、主に女性用のアクセサリーとして使われてきたという。同書にも書かれているが、雨傘の先駆者として知られているのがイギリスのジョナス・ハンウェーという男性だ。
彼は貿易会社の経営者で、海外に出かけて傘が雨用にも使われているのを見て、1750年ごろロンドンで雨傘をさして街を歩いたという。18世紀になったイギリスでも、雨用に傘をさす紳士は皆無で、婦人たちは豪奢なレースや刺繍が施された傘をさしていた。雨の日に傘をさすハンウェーを見た人は、彼を変人扱いして、「女の真似?」「馬車を買えない貧乏な紳士」と嘲笑したという。そんな冷たい視線を浴びながらも約30年間、ハンウェーは雨傘を使い続け、やがて傘は英国紳士が持つべきアイテムとして認知されるようになり、実用性と経済性から世界中の人に普及していった。
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職人技のコラボレーション
今回、傘の名品として紹介するのは、1935年創業の吉田カバンが、48年に創業した洋傘メーカーの前原光榮商店に依頼して製作したスペシャルな折りたたみ傘だ。
傘本体は8本の支柱構造で、強度にも優れたデザインが特徴。シルバーグレーの生地には同社の代表作、ポーターの「タンカー」シリーズと同じナイロンツイルが使われている。もちろん生地の細断や縫製から骨組みに至るまで、卓越した技術を持つ前原光榮商店の傘職人が一本一本ていねいに手づくりでつくり上げている。付属には傘と同じ生地を使用したオリジナルの傘袋が付いているが、こちらは吉田カバンの鞄職人が製作したものと聞く。
ちなみに折りたたみ傘を発明したのは日本人ではなく、ドイツのハンス・ハウプトという人物だ。彼は足が悪く、雨が降りそうな日に外出するときに片手にステッキ、片手に傘を持つのは大変だった。そこで「ポケットに入るくらいの小さな傘はつくれないだろうか」と、折りたたみ傘の構造を考案し、1928年に特許を取得して製造をはじめた。ドイツ語で「おちびさん」「小さな仲間」という意味を持つ「Knirps(クニルプス)」をブランド名を名付けた。実用性から考案された折りたたみ傘であるが、今回紹介するコラボモデルは、機能に加えてメイド・イン・ジャパンにこだわり続ける職人同士が仕上げた、威風堂々たる佇まいを放っている。まさに名傘だ。
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PORTER OMOTESANDO︎
TEL: 03-5464-1766
www.yoshidakaban.com
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