いま、アート好きのあいだで人気の観光スポットとして注目を集めている青森県。4月13日から9月1日まで、県内初となる『AOMORI GOKAN アートフェス 2024』が開催されている。本記事では、必見の展示とともに、旬の青森を感じられるグルメスポットなどをエリア別に解説していく。
『AOMORI GOKAN アートフェス 2024』とは
豊かな自然に恵まれ、伝統ある祭りや暮らしの手仕事、食など独自の文化が古くから伝わる青森県。その魅力をアートとともに再発見するアートフェスが開催されている。青森県内の5つの美術館とアートセンターが、「つらなりのはらっぱ」というテーマのもと、ディスカッションを重ねて企画を練り上げた展覧会やプロジェクトを展開中だ。また共通企画として、8月から栗林隆の体験型作品『元気炉』が各館を巡回する。
人間・動物・植物などの多様な訪問者たちが思い思いの活動を繰り広げる「はらっぱ」のように、そこには新しい風景が立ち上がり、子どもも大人も新鮮な何かに出会うことができるはずだ。各地で行われる夏祭りをはじめ、最も活気のある季節を迎える青森で、美術や工芸、建築 自然、食が緩やかに共振するアート巡りの旅を体験してほしい。
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1.十和田市現代美術館
6時32分東京駅発の新幹線に乗り、9時21分八戸駅に着いたら、バスに乗り変えて、10時30分ごろに十和田市現代美術館へ到着。十和田市は、「十和田八幡平国立公園」をはじめ、国の特別名勝および天然記念物に指定されている「十和田湖」「奥入瀬渓流」など、大自然のダイナミズムを間近に体感できる立地が魅力的な地。
十和田市現代美術館では、年2回の企画展のほか、「人間と自然」をテーマに、奈良美智、ロン・ミュエク、塩田千春、レアンドロ・エルリッヒなど世界で活躍するアーティストの作品を常設展示している。白い箱が積み木のように集まった「アートのための家」は、建築家・西沢立衛による設計。ひと部屋に1点の作品が展示されているので、それぞれの作品世界を没入的に体験できることが最大の特徴だ。
また館内だけではなく、周辺のアート広場や商店街にも作品が点在し、まち全体でアートを楽しむことができることも魅力だ。この「Arts Towada」計画では、市街地の官庁街通り全体を美術館に見立て、草間彌生らのパブリックアートの中で遊べる「アート広場」やまちなかのアートプログラムが連動して展開されている。
十和田市現代美術館の見どころ1
グループ展『野良になる』
企画展スペースでは4人のアーティストたちのグループ展『野良になる』が開催中だ。本展では、年々不安定になる自然環境の変化を出発点に、人間の思考を規定してきたさまざまな二項対立の枠組みの境界を撹乱しながら、野生でも飼われるのでもなく「野良のように」強かに息づく存在や物語を紡ぐ若手作家を紹介する。
日本とアメリカにルーツを持ち、トランスジェンダー女性として生きるあり方を彫刻で表現する丹羽海子。学校教育を離れ、独学で学んだドローイングを柔らかいウールに変換し風景を描く䑓原蓉子。品種改良や養殖といった人間のコントロールと動植物の生の関係を取り上げ、映像や料理の作品を制作する永田康祐。ブラジルに植民地時代以前から伝わる知識をもとに、植物と人間の関係を問い直すアナイス・カレニン。多様な視点から自然を捉えようとするみずみずしい表現に注目したい。
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十和田市現代美術館の見どころ2
十和田だけのワンアンドオンリーに出会う
常設展示では、じっくりと時間をかけて、全館に散りばめられた世界的アーティストたちの唯一無二の作品を味わいたい。たとえば、チケットカウンターのあるエントランスホール。ビニールテープでマルチカラーのストライプ模様が施された床は、英国グラスゴー出身のジム・ランビーの作品『ゾボップ』(2008年)だ。またカフェのある休憩スペースのフロアにも、台湾出身のマイケル・リンによる、十和田市の伝統工芸である南部裂織から着想を得た花模様のコラージュが描かれている。ほかにも、作品の中に入ることのできるインスタレーションやベンチのように座ることのできる屋外彫刻など、いずれも十和田でしか出会えない作品ばかりだ。
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美術館周辺のアートな街並みも必見
官庁街通りを挟んだ美術館の向かい側には、「アート広場」の芝生が広がる。ユーモラスな太めの車や巨大なゴーストなどが立ち並び、草間彌生によるカラフルな水玉の屋外彫刻の周囲では、いつも子どもたちが遊んでいるのを見ることができる。さらに商店街や住宅地など、まちなかに点在する作品やストリートファニチャーも見どころだ。
なかでも、現代アートチーム目[mé]がまちなかの古い建物を改装し、ホワイトキューブの展示室をコピペのように出現させた作品 『space』(2020年)では、若手アーティストによる実験的な表現を紹介している。7月6日(土)からは、京都出身でロンドンを拠点とし、パフォーマンスやアニメーション作家としても活動する尾角典子の個展『#拡散』を開催。展示室に出入りする鑑賞者と、体内に侵入するウイルスとの共通点に注目し、人間とテクノロジーの関係をテーマにした新作を発表する。
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2.松本茶舗
十和田市周辺では、十和田市現代美術館の開館以来、市民による自主的なアート活動も年々盛り上がりを見せている。
「十和田市地域交流センター(とわふる)」は、建築家・藤本壮介が「アートのまちのリビング」をコンセプトに設計し、アートと市民の地域交流を融合させた施設として昨年オープンしたばかりだ。真っ白な外壁にはアーティスト・鈴木ヒラクによる、環状列石と惑星の軌道を主題とした光のドローイング『光と遊ぶ石たち』が輝く。館内には大・中・小のギャラリーと多目的室や中庭があり、市民の研鑽や発表、フリーマーケットなどに利用されている。
そしてアーケードの一角にある、一見普通のお茶と茶器の店「松本茶舗」を訪ねるのを忘れないでほしい。明治41年創業の老舗茶店の中に所狭しと並ぶのは茶器だけでなく、世界で活躍するアーティストたちの作品だ。今年のべネツィア・ビエンナーレ日本館代表作家・毛利悠子をはじめ、2023年ドクメンタ15に招聘され、今回青森5館に共通作品を巡回させる栗林隆の作品も展示されている。床下への梯子を降りるとそこは洞窟のような空間。栗林が美術館の個展で発表した大規模なインスタレーションの続編ともいえる、地球規模で繋がり合う海底丘陵をかたどった彫刻が現れる。十和田に滞在中にこの地下空間を知った栗林が制作したものだ。筆者が当初観た時は、そこに八甲田山の雪解け水が満たされていたが、現在は水が抜かれ、あらわになった海底の様子が、人類が規定した国境の存在を問いかける。
松本茶舗
青森県十和田市稲生町17−5
TEL:0176-23-2138
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3.相馬菓子舗
十和田市の見どころは、アートだけにとどまらない。街歩きの最後には創業約50年の老舗、相馬菓子舗に向かおう。相馬菓子舗では創業以来、りんごを主役にしたスイーツを主に扱ってきた。なかでも必食なのが、店の看板メニューのアップルパイだ。りんごの爽やかな甘みを存分に生かすため、生地には砂糖を一切使っておらず、生のりんごをのせてじっくり焼き上げた。ひと口かじった瞬間にジュワっとりんごの優しい甘みが口いっぱいに広がる。大きめサイズだが、1個と言わず2個3個とどんどん食べ進められてしまいそうだ。
いま、このアップルパイは、県外にとどまらず世界中で大きな注目を集めている。ブレイクのきっかけは、台湾で初のミシュラン星付きレストランを手がけ、世界のトップ・シェフ100人に選ばれたことで知られているアンドレ・チャン。彼のSNS上で公開されると、瞬く間にアジア中にその魅力が広まった。2年前、彼が手がけるレストラン「RAW」と青森県のコラボレーション企画で青森に訪れて以来、直接アップルパイのレシピを尋ねられたこともあるそうだ。休日は、台湾などアジアを中心とした国々から訪れる客が多く、午前中に売り切れてしまうこともあるので、事前に電話で確認しておくことをおすすめしたい。
相馬菓子舗
青森県十和田市西十一番町22−7
TEL:0176-23-4841
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4.ポルタオット
十和田の街を満喫した後は、八戸市産の食材を主役にしたイタリアの家庭料理が楽しめるバル、ポルタオットで少し遅めのランチ。店名のポルタは「戸(ドア)」、オットは「八」という意で、つまり「八戸」を意味する造語。そんな遊び心のきいた名前からも八戸への愛を感じられる。
というのも、店主の平山さんは八戸市吹上出身。調理学校を卒業した後、東京・六本木のトラットリア・イル・フィーゴ・インゴルドや、渋谷のボガマリ・クチーナ・マリナーラで立ち上げ時からシェフを務めるなど、名だたるイタリア料理店でとして腕を振ってきた。東京で八戸市の食材の魅力を再発見したことをきっかけに、地元であるこの地にUターンし、4年前にイタリアンバルをオープンした。
「八戸市は、飲食店も和食が多い。地元の人には大人数でワイワイとイタリアン食べながら八戸市の食材の新たな一面を感じてもらい、県外から来た人には、イタリアの大衆酒場バルの陽気で気さくな雰囲気の中で楽しんで欲しいですね」
味わいはもちろんのこと、新鮮な地元の食材を使った10種類もの前菜と、具だくさんのパスタが1300円でいただけるというボリュームの多さに驚く。イタリア料理と八戸市の食材を熟知するシェフのお店で、一味違うランチを体験してみてはいかがだろうか。
Porta Otto (ポルタオット)
青森県八戸市十三日町5 2F
TEL:0178-38-9485
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5.八戸市美術館
太平洋を一望する青森県南東部に位置し、全国屈指の水産都市、工業都市として発展を遂げてきた八戸市。古くから市民の文化芸術活動が盛んであることでも知られる。
八戸市美術館は1986年に開館し、時代とともに変化する「現在の美術」の広がりを受け止める場所として、2021年にリニューアルオープン。建築家の西澤徹夫、浅子佳英、森純平の設計による建築は、市民の多様な活動を支える巨大空間「ジャイアントルーム」を取り囲むように、さまざまな美術表現に対応する個性的な展示室などを配置した。
八戸市美術館の見どころ
企画展『エンジョイ!アートファーム!!』
「種を蒔き、人を育み、100 年後の八戸を創造する美術館―出会いと学びのアートファームー」をテーマに、八戸の美や文化を伝える収蔵作品を紹介する展示や、幅広いジャンルの企画展、プロジェクトを展開している。
八戸市美術館では、館のコンセプト「出会いと学びのアートファーム」を体現する企画展『エンジョイ!アートファーム!!』が開催中だ。「展覧会やプロジェクト、コミュニケーションなどが種となり、訪れた人々が得る出会いや学びが栄養となることで、それぞれの感性や創造力が育まれる。美術館はその畑(ファーム)として多様な活動の土壌となり、まちの未来を創造していく」 ーーそんなコンセプトを象徴する大規模な空間「ジャイアントルーム」で、八戸を拠点に活動する5人のアーティストが、来館者とともにつくり楽しむプロジェクトを展開する。会場構成は館長である建築家の佐藤慎也が手がけている。
振付家・ダンサーの磯島未来は、訪れた人からこれまでに経験した出来事や生きる上で大事にしていることを聞き取り、その場でダンスの振付を考案。パフォーマンスの映像を公開する。
獣医師でもある漆畑幸男は、幼少期から親しんだ馬や牛をモチーフとする絵画を制作。さらに訪れる人と語り合う場で生まれた解説をもとに参加型の大作絵画や画集を展開していく。
このほか八戸市美術館では、7月8日から『tupera tuperaのかおてん.』を開催。絵本賞を多数受賞したクリエイティブ・ユニット「tupera tupera」による「顔」をテーマにした本展では、空間全体に参加・体験型の作品が広がり、大人と子どもが一緒に楽しめるユニークな展示になる予定だ。
八戸市美術館
青森県八戸市大字番町10−4
TEL:0178-45-8338
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6.八戸ブックセンター
美術館巡りを終えたら、市街にある個性派書店でコーヒーブレイクを楽しもう。八戸ブックセンターは、「本のまち八戸」構想を掲げ、子どもから大人まで市民がもっと本に親しめる環境を目指し2016年にオープンした日本で唯一の公設公営の書店機能を持ち合わせた施設だ。
館内で働くスタッフは市の職員で、民間の書店での販売経験者たちも含まれる。老若男女さまざまな世代にあった本の楽しみ方を提案し続けている。展示スペースでの企画展や、本に興味を持ってもらうようなさまざまなイベントも行うほか、カフェの運営も行う。弘前成田専蔵珈琲や八戸ビールなど青森を代表するドリンクも楽しめるとあって、地元客はもちろん、観光客も多く訪れている知る人ぞ知る観光スポットだ。
「読む・書く」を推進することを目的につくられたという館内には、本に没頭できる仕掛けがたくさん。読書会ルームやハンモック、執筆にも利用できるカンズメブースなど、思い思いに本の世界に没頭できる空間が用意されている。青森のいまを感じられるどこかローカル感ある書店で、コーヒーを飲みながら旅の思い出を振り返ってみては。
八戸ブックセンター
青森県八戸市六日町16−2 Garden Terrace 1F
TEL:0178-20-8368
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7.八戸ポータルミュージアム はっち
最後は旅土産を求めて、文化観光交流施設の八戸ポータルミュージアムへ。この施設の魅力は、観光案内にとどまらず、地元の魅力を発信するユニークな取り組みがあることだ。市民作家や市民学芸員の芸術作品も多く展示され、解説をガイドから聞くこともできる。また、クラフトなどの手仕事を間近で観ることができる工房兼ショップの「ものづくりスタジオ」では、作家の制作した作品の一部を購入できるという取り組みも行っているので、一期一会の出会いを楽しんでみてほしい。
八戸ポータルミュージアム はっち
青森県八戸市三日町11-1
TEL:0178-22-8228
次回は、青森旅【弘前編】。蜷川実花の最新展示をはじめとする話題のアートはもちろん、絶品アップルパイやシードルなど、必食グルメも盛りだくさん。