アートとグルメを堪能するなら青森がアツい! Penおすすめの青森旅【弘前編】

  • 文:住吉智恵・Pen編集部
  • 写真:溝口拓
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いま、アート好きのあいだで人気の観光スポットとして注目を集めている青森県。4月13日から9月1日まで、県内初となる『AOMORI GOKAN アートフェス 2024』が開催されている。本記事では、必見の展示とともに、旬の青森を感じられるグルメスポットなどをエリア別に解説していく。

『AOMORI GOKAN アートフェス 2024』とは

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三方を海に囲まれ、歴史・風土的に津軽、南部、下北と大きく3つに分けられる青森県。近年発掘された三内丸山遺跡により、縄文時代にはすでに日本有数の文化が発達した土地であることが明らかになった。

豊かな自然に恵まれ、伝統ある祭りや暮らしの手仕事、食など独自の文化が古くから伝わる青森県。その魅力をアートとともに再発見するアートフェスが開催されている。青森県内の5つの美術館とアートセンターが、「つらなりのはらっぱ」というテーマのもと、ディスカッションを重ねて企画を練り上げた展覧会やプロジェクトを展開中だ。また共通企画として、8月から栗林隆の体験型作品『元気炉』が各館を巡回する。

人間・動物・植物などの多様な訪問者が思い思いの活動を繰り広げる「はらっぱ」のように、そこには新しい風景が立ち上がり、子どもも大人も新鮮な何かに出会うことができるはずだ。各地で行われる夏祭りをはじめ、最も活気のある季節を迎える青森で、美術や工芸、建築 自然、食が緩やかに共振するアート巡りの旅を体験してほしい。

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1.弘前シードルダイニング

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右から辛口のキモリ、やや甘口のもりやま園のENシードル、甘口のタムラファームのセカンドグランデ。どれも津軽の伝承料理によく合う。

弘前をじっくり楽しむなら少し朝早いが、東京駅7時30分発、弘前駅12時着の新幹線に乗るのがおすすめ。弘前駅に到着したらまず、知る人ぞ知る予約困難な人気ランチを求めて。弘前市りんご公園へ直行。

それが年に数回予約制で行われる「弘前シードルダイニング」。広大なりんご園のなかでバラエティ豊かな津軽の伝承料理と、個性豊かな青森産のシードルを楽しめるイベントだ。

弘前市が位置する津軽地方は、東北地方でも特に豪雪が降る場所。昔からさまざまな保存食が発展してきた。近年、津軽の家庭で伝わる野菜や漬物などの旨味を駆使した発酵食と、プラントベースのヘルシーな料理が注目を集め、津軽の伝承料理を求めてやって来る人も多いのだという。

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「シードルお花見料理」。古くから地元のおもてなし料理として親しまれてきた「ごままんま」など、およそ15種類ものメニューがぎっしり。江戸時代から300年の歴史を持つ伝統工芸、津軽塗のお重も美しい。※季節によりメニュー変更あり。

提供されるすべての料理は、素材の旨味がしっかり生きていて満足感たっぷり。さらに化学調味料不使用だというから驚きだ。特に印象的だったのが、出荷前に落ちてしまったりんごを使って漬物にした「干し柿しそ包み りんごづけ」。ほどよい塩気とりんごの甘酸っぱさがマッチしていて、ごはんのおかずにもシードルのアテにもぴったりだ。ちなみに、いまのところ残念ながら市販はされていないそう。地元の家庭でしか味わえない一品、ぜひ現地で味わってみて欲しい。

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料理を提供してくれるのは、地元の婦人会、津軽あかつき会。過去に伝承料理のレシピ本を何冊も出しているというほどの料理の腕前のメンバーばかり。最近では、伝承料理を学びたいと若い女性も入会してきた人もいるのだとか。

ランチの会場となるりんご園の中には、青森を代表するシードルブランドとして知られる、弘前シードル工房kimoriが併設されている。ここでは、おいしい料理はさることながら、青森のりんご農業の歴史についても話を聞くことができる。りんごそのものにとどまらず、青森県内随一の面積を誇る弘前市りんご農園でのシードルダイニングや工房の併設など、近年、県を挙げてシードルのプロモーションに力を入れているのには意外な理由があった。

この日、農園内を案内してくれた百姓堂本舗代表で、シードル工房 kimoriを営む高橋さんは、「最近では、県内のりんご農園後継者がどんどん少なくなってきている。明治時代から続いていた青森のりんご農園も、30年後にはなくなってしまうかもしれない。りんごのおいしさだけでなく、シードルなど若い世代の方も関心をもってもらえるアイテムを通じて、りんご農家の魅力を伝えられたら」と語る。

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公園内ある弘前シードル工房kimori。屋外のベンチやテーブルなどの素材は、りんごの出荷に用いられている木箱を再利用した。

フォトジェニックな空間の中で、青森のりんごについて深く学ぶことができる、弘前シードルダイニング。これからもこの地のりんごが守られるよう、取り組みを応援していきたい。

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弘前市りんご公園
「弘前シードルダイニング」

青森県弘前市清水富田寺沢125
TEL:0172-36-7439

 

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2.弘前れんが倉庫美術館

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「記憶の継承」をコンセプトに、建築家・田根剛が手がけた歴史ある建物の改修は、既存の煉瓦壁を内外無傷で保存する設計。光の角度で刻々と移り変わるシードル・ゴールドの屋根は美術館のシンボルだ。

ランチの後は、今回のいちばんの見どころである、美しい煉瓦造りの佇まいで名高い「弘前れんが倉庫美術館」へ。19世紀にりんご園として出発した土地で、20世紀にはシードル工場やニッカウヰスキーの倉庫として地域に根差してきた歴史的建造物だ。2000年代には、当時、煉瓦倉庫を所有していた吉井酒造と弘前市出身のアーティスト・奈良美智の出会いにより、奈良の展示会が三度にわたり開催された。多数の市民ボランティアのサポートにより実現した展示会が大きなきっかけとなり、美術館として改修されることが決定。さらに、東日本大震災を乗り越えた弘前市の人々の願いを受け、美術館として改装が決定。パリを拠点に世界的に活躍する建築家・田根剛を迎え、2020年に新しい美術館としてオープンした。これまで小沢剛、池田亮司、大巻伸嗣、松山智一の個展やグループ展を開催し注目されてきた、街のランドマークだ。

弘前れんが倉庫美術館の見どころ1

『蜷川実花 with EiM:儚くも煌めく境界
Where Humanity Meets Nature 』

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高さ15mの吹き抜けの展示室には、蜷川がEiMと共に作り上げた花々と映像によるインスタレーション『Sanctuary of Blossoms 』が出現。美と儚さ、一時性と永遠性といった相反する要素が共存する。

メインとなる企画は、写真家・映画監督の蜷川実花が、データサイエンティストの宮田裕章、セットデザイナーEnzo、クリエイティブディレクター桑名功らと結成したクリエイティブチームEiMとの協働により実現した大規模な個展。吹き抜けの展示空間では、インスタレーションが展開され、咲き誇る花々と枯れて散りゆく花々をひとつの生命体のように融合させる。

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蜷川が弘前市をはじめ日本各地で撮影した桜の写真を集積し、あたかも水面の花筏のように空間を埋め尽くした眩惑的な空間。透明感のある蒼ざめた花の色が妖しくも切ない。

展示のクライマックスは、2022年より弘前のほか各地を訪れ、刻一刻と変化する桜の姿を収めた作品群。蜷川にとって花の中でも特別な存在だという桜の魅力とは、束の間に姿を変える儚さだ。幼少期から父(演出家の故・蜷川幸雄)の仕事場である虚構の世界で遊び、光と闇を等しく探求してきた蜷川の制作姿勢があますところなく表現されている。

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濃厚なテクスチュアが印象的な壁面に、デコラティブな額に収められた写真作品が設置された一角。蜷川自らがつくったものも含め、ひとつひとつパーツを集めて制作した額と写真が持つ虚構性が相まって舞台装置的空間を作り上げていた。

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弘前れんが倉庫美術館の見どころ2

『弘前エクスチェンジ#06「白神覗見考(しらかみのぞきみこう)」』

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狩野哲郎『あいまいな地図、明確なテリトリー』(2024) 美術館の外には自然界の生き物のための集合住宅のような作品が置かれ、中にはマメコバチの巣も収められていた。吟味された既製品や自然物などを組み合わせた狩野の作品は、人間以外の動物の世界認識を知る手がかりとなる。

もうひとつの企画は、津軽平野を流れる岩木川源流の地「白神山地」をテーマに行われるリサーチプロジェクトだ。多種多様な動植物の生息・自生が保たれながら、市街地とも地続きであるこの土地に4組のアーティストたちが着目する。いずれの作家の創作活動も、人間と自然という二項対立的な価値観を脱し、人間中心ではない世界の捉え方を提示してくれる。

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左:狩野哲郎『系(水平の車輪、マーブル、集中線)』(2024) 古典天文学の時代に用いられた機械仕掛けの天体模型に着想を得たモビール。(現在は「ギャラリーまんなか」で展示されている) 右:狩野哲郎によるスケッチやリサーチ資料の展示風景。

狩野哲郎は、白神山地が世界自然遺産に指定されたことで、そこに暮らしていた人や動物に及ぶ変化を探り、鳥や虫など人間以外の生物の視点を意識した立体作品を展開。永沢碧衣は自身の狩猟経験をもとに、熊やニホンジカなど野生動物と人間の共生を想像させる絵画を展示した。佐藤朋子は、弘前での滞在やアジア各都市での遠隔になるリサーチの成果をアップデートしていく。会期末3日間にはイベントが行われ、L PACK.は夏祭りの「宵宮」に触発された体験型作品を発表。青森5館を巡回する栗林隆の『元気炉』も登場しクロージングを盛り上げる。

 

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弘前れんが倉庫美術館

青森県弘前市吉野町2−1
TEL:0172-32-8950

 

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3.弘前市民会館

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1964年に竣工した弘前市民会館。前川國男が59歳の時の作品で、弘前市内では4作品目にあたる。

アートを鑑賞した後は、弘前市内を代表する建築物を巡りに弘前公園周辺へ。まず最初に向かうのは、日本のモダン建築の巨匠のひとりである前川國男が手がけた弘前市民会館。

弘前市民会館は、世田谷区民会館や東京文化会館と並び、前川が手がけたコンクリート素材を生かした建造物の代表的存在。木目調のコンクリートが自然に溶け込む美しいデザインで、広々とした印象を与える。当時日本で珍しかった、大ホールと管理棟をピロティでつないだ建築技術も見どころだ。

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ステンドグラス『青の時間』(原画・監修:佐野ぬい、企画展:日本交通文化協会)は、昨年逝去した弘前市出身の日本の洋画家、佐野ぬいによるもの。自身の名前にもある「nuit」はフランス語で「夜」という意。彼女の作品の象徴「ヌイ・ブルー」と呼ばれる、青を基調とした抽象画の絵柄が美しい。

実は弘前市は、彼の母親が弘前藩士の娘であったことから、前川ゆかりの地であり、彼のデビュー作から晩年の作品まで8つの建物が現存している建築ファン必見の街。市民会館の他にも、市庁舎、病院、斎場など彼が手がけた美しい建造物は、いまでも現役で活躍しているものも多い。時間に余裕があれば、他の前川建築も回ってみるのがお薦めだ。

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弘前市民会館

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青森県弘前市下白銀町1−6 弘前公園内
TEL:0172-32-3374

 

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4.旧弘前市立図書館

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旧弘前図書館。明治39年に建てられ、昭和6年までの27年間、市立図書館として利用された。

続いては、旧弘前図書館。設計・施工は、堀江佐吉によるもの。弘前藩の御用大工の家柄の生まれで、独学で洋風建築を学び、明治期に東北地方の洋館を多く手がけてきた人物だ。木造洋風3階建て、八角形の双塔など典型的なルネサンス様式を基調としながらも、寺院建築に見られる木鼻を用いるなど、和風様式が随所に取り入れられている。 

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旧弘前市立図書館

青森県弘前市下白銀町2−1 追手門広場内
TEL:0172-82-1642

 

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5.藤田記念庭園

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洋館にある大広間とサンルームを利用した「大正浪漫喫茶室」は、連日多くの人で賑わう。

最後は藤田記念庭園内でひと息。大正時代に弘前市出身の実業家・藤田謙一の別邸として建てられ、主に登録有形文化財の洋館、匠館から成る。敷地内にある和館や洋館からは、弘前随一の絶景、岩木山を望むことができる。

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八戸市のクローヌ(写真手前)と平川市の古川菓子舗(写真奥)のアップルパイ、各¥540。
クローヌはバター香るザクザク生地とりんごの程よい酸味でどんどん食べ進められる。古川菓子舗は、蜜がたっぷりなふじりんごとカスタードクリームがマッチしたリッチで満足感たっぷりの味わい。

弾丸旅の人におすすめしたいのが、アップルパイのテイクアウト。なんと藤田記念庭園の洋館では、常時5〜8種類のアップルパイが販売しているのだ。どれも青森を代表する洋菓子店によるもので、フォルム、味わいともに個性豊かでレジ横で悩む人が続出。時間があれば、イートインできるので、館内で岩木山と美しい庭園の風景を楽しみながら、食べ比べしてみても楽しそうだ。ちなみに弘前市では、アップルパイガイドなるものが存在。アップルパイも制覇して、アートとグルメ、両方極める旅はいかがだろうか。 

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藤田記念庭園

青森県弘前市上白銀町8−1
TEL:0172-37-5525

AOMORI GOKAN アートフェス 2024「つらなりのはらっぱ」 

会期:2024年4月13日(土)〜 9月1日(日)
https://aomori-artsfest.com

 

次回は、青森旅【十和田・八戸編】。個性的な街の取り組みなど、見どころがたくさん!