各界で活躍する方々に、それぞれのオンとオフ、よい時間の過ごし方などについて聞く連載「My Relax Time」。第58回は、作家デビュー以来、精力的に新作を上梓する一方、書店経営などの多角的な取り組みで業界を牽引する、歴史小説・時代小説家の今村翔吾さんです。
写真:殿村誠士 構成:舩越由実
1年間準備してきたシェア型書店「ほんまる」を今年4月にオープンしました。書店のビジネスはいま、崩壊していると言っても過言ではありません。特に地方の書店は窮状に陥っています。僕は書店を運営しているので、実際に目の当たりにしてきました。出版業界は正直、自分たちの力だけではかつての隆盛を取り戻すことは厳しい。だからこそ、本を愛しているファンの方たちと一緒になった、新たな“てこ入れ”が必要だと感じました。まずは東京・神保町に拠点を構えましたが、地方にも広げていきたい。僕の仕事全般に言えることですが、後世になにをどれだけ残せるのかということを意識しています。
「ほんまる」のロゴや店舗デザインは、クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さんに手掛けていただきました。今回のプロジェクトを進めるにあたり、ダメもとで13枚の手紙を可士和さんの事務所に送ったのですが、可士和さんも本がお好きということもあり共感してくれて「やりましょう」と。
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デビューして3年目のときは執筆に集中し過ぎて人と会う機会がほとんどなかったのですが、これが一番きつかった。作家になる前はダンスの先生をしていて、知らず知らずのうちに子どもたちからエネルギーをもらっていたのだと気づきましたね。孤独だからこそ生まれるものはあると思いますが、僕はそればかりではうまくいかない。ひとりで仕事をしているとエンプティになってしまう。みんなでやる仕事と、ひとりでやる仕事、どちらも大切にしたいと思っています。
リラックスする時間は、自分の作品以外の物語に触れるとき。食事をするときは動画配信サービスで映像作品を見るのですが、それは仕事にも生かされています。「こういう手法があるんだ」、「こういうストーリー展開をするのか」とか。そういう意味では、僕にとっての趣味は仕事なのでしょうね(笑)。
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執筆中はほとんど、たばこをくわえています。次の展開を考えるタイミングで火をつけていたり、加熱式たばこのスティックを挿したり、物語のリズムに合わせて吸っていると言い換えてもよいかもしれません。
葉巻も吸いますよ。原稿を書き終えたり、大きな仕事が決まったりなど、ハレの日だけですけどね。葉巻と言えば、北方謙三先生からヒュミドール一式を受け継いだのですが、車も北方先生と同じマセラティに乗っています。北方先生のようにハードボイルドで、夢のある人になりたい。なにより作家として、子どもたちに憧れを抱かれるような存在でありたいのです。
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