ドラマクリエイターのごっこ倶楽部がTikTokに最初の作品を投稿したのは、2021年の5月17日。それからわずか1カ月で15万人のフォロワーを獲得し、現在はSNSの総フォロワー数260万人、累計再生回数27億回を数えるまで、急成長を遂げてきた。俳優仲間5人で始めたごっこ倶楽部の発起人の多田智は、TikTokでの活動を始めたきっかけを語る。
「コロナ禍で役者の仕事が激減した時に、自分にしかできないことはなんなのかと、答えを探す日々が続きました。いろんなものに対してアンテナを張り巡らしていく中で、中国のショート動画プラットフォームでTikTokを上回る勢いをもつ、『抖音(ドウイン)』と『快手(クワイショウ)』というプラットフォームを見てみると、面白いほどにほぼすべてのコンテンツがドラマだったんです。昔から、日本のテレビ業界でも、いちばん視聴率を稼ぐコンテンツはドラマですよね。でも、当時まだ日本では、ドラマを投稿している人は誰ひとりとしていませんでした。だから、いま僕が動いたら、この分野の先駆者になれるだろうと考えて、すぐに行動に移しました」
背景のつくり込みが最小限で済む縦型のショートドラマであれば、大きな予算をかけずに、少人数でもコンテンツを量産することができる。多田を含むごっこ倶楽部創設メンバーの5人は、それぞれがカメラの前で役どころを演じるかたわら、脚本、監督、衣装、編集などの実務を、すべて自分たちの手でこなした。
「お金もないし、実績もないし、前例のないことをやろうとしていましたが、絶対に成功するという勝算はありました。みんな不安もあっただろうけど、創設メンバーも僕を信じてついてきてくれて、これまでに一度も喧嘩になったことはありません。なにせ、2回目の投稿ですぐにバズって、1カ月でフォロワー15万人ですから。頑張ったことにしっかりと結果がついてきたことは、この活動をビジネスとして軌道に乗せる上で、非常に強い後押しとなりました」
現在まで俳優、カメラマン、脚本家、編集者、監督などの制作メンバーは自社の社員として大幅に拡充され、コンテンツのクオリティ、表現の幅、スピード感はますます高められている。
「いまでは社員も増え、若手制作スタッフの育成も積極的に行っています。将来的には、マンガを描きたかったら『少年ジャンプ』に応募するように、ドラマや映画をつくりたかったら、俳優も制作スタッフも、とりあえずみんながごっこ倶楽部に集まってくる。そういう状況をつくっていきたいんです」
佐渡島庸平 コメント
彼らが自分たちのやるべきことを貫き通し、実績もあげ、それを3年間も続けていることは、同じクリエイティブを組織でやろうとしている人間としては、ただただ頭が下がります。ましてや、元出版社にいた僕らは知名度のある雑誌を舞台にできましたが、彼らはゼロから人気を獲得してきましたから。ショート動画は世界的にまだまだ伸びていく分野だと思います。彼らがこれからどんな方向に向かっていくにせよ、その挑戦自体がとても楽しみでなりません。
佐渡島庸平 編集者/コルク代表
講談社を経て、クリエイター・エージェンシー、コルクを創業。作品編集、新人作家の育成、ファンコミュニティの形成・運営などを行う。『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』の連載を講談社で立ち上げ、現在もエージェント契約を結ぶ。
※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。