去る3月10日の朝、ヨルダンの首都アンマンの空港からロンドン行きのウィズエアー便が離陸した。
しばらくは何も問題のない「ごく普通のフライト」であったが、2時間後「あるアナウンス」が流れたことで機内の雰囲気は一変した
そのアナウンスとは「お客様の中にお医者様はいないでしょうか?」
ドラマや映画でよく目にするシーンだが、実際に機上でそのアナウンスを聞いたことがある人は少ないだろう。
このフライトにはイギリスで医師歴4年のハッサン・カーンさん(28歳、エセックス州バジルトン・ユニバーシティ病院勤務)が、医師仲間と一緒に搭乗していた。一行は週末の休暇からイギリスに戻る途中だった。
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彼と医師仲間たちは医療援助を求めるアナウンスを聞いてすぐに、全員で名乗り出たという。
カーンさんらは、客室乗務員にコックピットの裏手に寝かされている女性のもとに誘導された。彼女は妊娠7カ月のヨルダン人女性(38歳)であり、夫(51歳)も一緒に搭乗していた。
診察したカーンさんは、女性が妊娠し破水していること、またお腹の中の赤ちゃんは今にも生まれそうな状態であることを確認した。友人たちと相談の上、機上出産をカーンさんがメインで担当することになった。
BBCの取材に対し、カーンさんは機上という密室、さらに医療設備がまったくない場所での分娩の大変さを下記のように語っている。
「私は客室乗務員に必要な装備を伝えました。新生児サイズの酸素マスク、へその緒用のクランプ(鉗子)、聴診器などです。しかし当然ながら飛行機にはこういった物の用意はなく、あったのはタオルだけでした」
加え、妊婦は英語を話すことができなかった。機内にいた人に通訳を依頼し、何とか意思疎通をはかったという。
「彼女は(機上で破水した)状況にかなりストレスを感じていました。通訳を通して、私には新生児(医療)の経験が少しあることを伝え、彼女を安心させることができました」
230人以上の乗客が乗り、狭い場所かつ設備のない環境での分娩。厳しい状況だが、カーンさんは集中力を発揮し、分娩中はそのことを忘れていたという。
そして女性は無事女児を出産。新生児はやや青ざめていたが、カーンさんは新生児蘇生の経験があったため、事なきを得たという。
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Woman gives birth on flight from Jordan to London https://t.co/O7YTRxZfNy
— BBC News (UK) (@BBCNews) March 11, 2024
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勤務には遅刻したが…
ウィズエアー便は本来ロンドン行きだったが、出産したばかりの女性と新生児がすぐに病院に搬送できるよう行き先を変更。イタリア南部のブリンディジ空港に緊急着陸した。
この航路変更は全乗客の予定に影響を及ぼしたものの、乗客はとても協力的だったという。カーンさん自身もイギリスの病院での勤務時間に遅れてしまったが、病院側も上司も理解し「良い仕事をした」と褒められたそうだ。
その後、ブリンディジのペリーノ病院の関係者らは、イタリアの新聞コリエレ・デル・メッツォジョルノの取材に答えている。「サマ」と名付けられた新生児は早産であったものの元気であり、保育器も必要もなかったとのこと。
ちなみに機上出産は稀ではあるものの、これまでにも例がある。国際旅行医学会(International Society of Travel Medicine)が2019年に出版した研究によると、1929年から2018年までの間に機内出産は74例あり、内71人は無事出産することができたという。
カーンさんはイタリアの病院搬送後に母親と女児の無事の報告は受けたものの、さらなる報告は受けてはいない。しかしSky Newsの取材に対し「ニュースがないのが良いニュースですね」と答えている。
【次ページ:動画あり】乗客のあたたかな拍手に迎えられた奇跡の出産!
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