アメリカで2月2日に発売されたアップルの空間コンピューター、Apple Vision Pro。この未来型デバイスにいち早く飛びつき、購入した気鋭の映像クリエイターの大川優介さんは、同製品に大きな手応えを感じているという。
Pen最新号は『いまここにある、SFが描いた未来』。SF作家たちは想像力の翼を広げ、夢のようなテクノロジーに囲まれた未来を思い描いてきた。突飛と思われたその発想も、気づけばいま次々に現実となりつつある。今特集では人類の夢を叶える最新テクノロジーにフォーカス。SFが夢見た世界が、ここにある。
『いまここにある、SFが描いた未来』
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アップルが放つ、未来型デバイス
「映画や小説で描かれた、未来の技術が現実のものになった」。そんな言葉がこれほど似合う製品は他にあるだろうか? 2007年の初代iPhoneも、驚きをもって迎えられたが、このApple Vision Proはヘッドセット型というルックスに加え、現実世界とデジタル世界の境界を曖昧にする性質から、これまで以上に強い「未来感」を漂わせる製品だ。
アップルはこのヘッドセットのカテゴリーを「空間コンピューター」と位置付けているが、これまで使われてきた言葉で説明するならば、高度な「仮想現実(VR)」と「拡張現実(AR)」の技術を組み合わせたデバイスだ。ユーザーはApple Vision Proを身につけると、仮想空間に没入できるだけでなく、現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示することができる。これによって、映画『スター・ウォーズ』のようなホログラム通信、『マイノリティ・リポート』で見たような空中に浮かぶインターフェイス操作が可能となる。まさに「映画が現実になる」体験そのものといえるだろう。
このApple Vision Proは日本未発売だが、アメリカでは2月2日に発売されている。これらの体験はもはや現実のものなのだ。
具体的な使用例を想定してみよう。私たちがApple Vision Proを仕事で使用する場合、複数の仮想モニターを空間に配置して、自由かつ効率的なマルチタスク環境を構築できる。また、教育現場では、歴史上の出来事が起こった場所に仮想旅行をしたり、解剖学の授業で人体の仕組みを立体的に学んだりすることもできる。
さらにApple Vision Proのもうひとつの特徴は、ユーザーインターフェイスの革新性にある。従来のデバイスでは、キーボードやマウスといった物理的な入力デバイスやタッチスクリーンを介して操作を行ってきたが、Apple Vision Proではジェスチャーや視線、さらには音声コマンドを使って直感的にコントロールできる。これによってユーザーはより自然に、ダイレクトな方法でデジタル世界に触れることができる。
これらを組み合わせて可能になるのは、仕事の効率化やエンターテインメント分野での活用だけではない。現実とデジタル世界が融合した空間で、私たちは従来のビデオ会議を超えた、より情報量の多いコミュニケーションが行えるようになる。もしかしたらこれは、スマートフォンが成し遂げた以上に、人と人の関係性を変えるかもしれないデバイスだ。
現時点では日本未発売であり、ユーザーからは価格や重量など、初代モデルゆえの課題がまだまだあるとも評されている。しかし、既にApple Vision Proは世界に放たれている。もう、未来は始まっているのだ。
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気鋭の映像クリエイターが、Apple Vision Proを購入した理由
「初代iPhoneが出た時、自分は子どもだったので、その波に乗ることができませんでした。いま27歳になり、Apple Vision ProにiPhone以来の発明になる可能性を感じ、飛びついたのです」
そう語るのは、チャンネル登録者17万人を超えるYouTuberであり、シネマティック(映画的)な映像制作を得意とするクリエイターの大川優介さん。Apple Vision Proのアメリカ発売に合わせて自ら渡米し、購入したという。
「Apple Vision Proに飛びついた理由は3つあります。まず映像クリエイター、表現者として、空間コンピューターを活かした表現がどのようにできるのかを探りたかったから。そしてカメラを開発する企業の経営者としては、空間を撮影・表現できる『空間ビデオ』を使って、人々がどのように思い出を残すようになるのかを見たかったから。そして最後は、完全に個人的な興味です(笑)」
大川さんは、本製品を1カ月以上使った上で感想をこう語る。
「現時点のApple Vision Proでいちばん優れた使い道はコンテンツ視聴だと思います。ディスプレイは片目で4K解像度があり、物理的に光を遮断しているので、驚くほど映像が鮮明です。そして画面の大きさや位置、どんな環境で鑑賞するのかも自由自在です」
Apple Vision Proは現実にユーザーがいる環境内にディスプレイやアプリを表示するだけでなく、イマーシブ(没入型)コンテンツを全面に表示することで、自分がいる場所をVR的に変更することができる。たとえばテレワーク用の狭い個室ブースにいたとしても、まるでそこがアメリカのヨセミテ国立公園や、超大画面スクリーンを備えた映画館であるかのように感じることができるのだ。
「Apple Vision Proを購入した直後、アメリカにいて落ち着かない環境でいろんな作業をしなければならなかったのですが、イマーシブ機能のおかげで集中できましたし、休憩時にリラックスすることもできました」
一方、課題を感じる部分も。
「正直なところ、生産的なことにはまだあまり使えていません。アプリを含むエコシステムが充実するまでは、iPadのように補助デバイス的な領域に留まるのではないかと思います」
空間コンピューターという完全に新しいカテゴリの製品だけに、発展途上。各デベロッパーもユーザーも、その使い道を探っている最中なのだろう。しかし、大川さんはそれでもApple Vision Proに大きな手応えを感じている。
「目や指、声を組み合わせた操作、そして現実世界とデジタル空間が融合している感覚からは、触っているだけで多くのインスピレーションが得られます」
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