オメガからカンパノラまで、技法を駆使したテクスチャーダイヤルの腕時計3選

  • 写真:渡邉宏基(LATERNE)
  • 文:並木浩一
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1.OMEGA(オメガ)
スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号

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手巻き、ブラックセラミックケース、ケース径44.25㎜、パワーリザーブ約50時間、シースルーバック、ラバーストラップ、5気圧防水。¥2,200,000/オメガ TEL:0570-000087

精緻なレーザー加工により、ブラックの陽極酸化処理を施したアルミニウム製スケルトンダイヤルに月面の表側を、マスター クロノメーター認定も得た新開発の「キャリバー3869」ムーブメントの地板とブリッジに月面の裏側を描いた。1968年に初めて月の裏側を目撃した有人宇宙船アポロ8号をたたえ、スモールセコンドにはサターンVロケットをかたどったチタン製の針を採用。

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2.MONTBLANC(モンブラン)
モンブラン 1858 アイスシー オートマティック デイト

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自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径41㎜、パワーリザーブ約38時間、300m防水。¥489,500/モンブランお客様サポート TEL:0800-333-0102

ダイヤルのデザインは、アルプスの名峰・モンブラン山塊の氷河湖、メール・ド・グラス(氷の海)から着想を得たもの。数千年もの間凍り続けている網の目のような結晶のつながりでつくられたグレーシャー(氷河)模様を施したダイヤルの質感は、グラッテボワゼと呼ばれる、現代ではほどんど見られない幻の伝統技法で表現された。300m防水を備え、ダイバーズウォッチの規格にも準拠。

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3.CAMPANOLA(カンパノラ)
NZ0000-07L 暈響(かさねきょう)

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自動巻き+手巻き、SSケース、ケース径42㎜、パワーリザーブ約42時間、シースルーバック、クロコダイルストラップ、日常生活用防水。¥1,100,000/シチズンお客様時計相談室 TEL:0120-78-4807

万華鏡のような色彩と煌めきを見せるダイヤルは、会津漆の伝統工芸士である儀同哲夫がすべて手作業でつくり上げたもの。漆塗りを施したベースに切り貝を一枚一枚ちりばめ、美しく磨き上げた螺鈿細工は、一つひとつ表情が異なり、同じものがない。シチズン傘下・スイスのラ・ジュー・ペレ社製ムーブメントを搭載した、カンパノラ20周年記念モデル。

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機械式時計は時を知るためだけの道具ではない――。そのことを強く認識させるのが、文字盤に立体的な創意を凝らした、テクスチャーダイヤルのモデルだ。質量のない情報を表示するスマートウォッチの“ディスプレイ”と、針表示のアナログ腕時計では、ダイヤルの概念は決定的に異なる。特に高級機械式時計においては、サンレイ仕上げやギョーシェ彫りの装飾など、風防ガラスの下に広がる空間に奥行きを持たせ、見る者を惹きつける技法がいくつも開発され、脈々と受け継がれてきた。

さらに、腕時計がファッション性を帯び、“パーソナル”を表現する手段となった近年は、「独創的であること」の価値がより高まっている。つまり、腕時計のデザイン性が重視されるにつれ、ダイヤルの美醜は特に重要となる。ケースやブレスレットが身体、針や小窓が目鼻のパーツとすれば、ダイヤルは顔そのもの。しかし、そのフェイスはただきめ細かく整えばいい、というわけではない。

もし視認性を最優先にするならば、ダイヤルは単色で、針との明度差が大きくなるのが望ましい。そんな実用主義に、最先端のテクスチャーダイヤルは背を向ける。月の裏側を知るモデルは、月面の凹凸をリアルに再現する。冒険を憧憬するモデルは、氷河の奇跡的な幾何模様を造形した。漆地に切り貝をちりばめたモデルは、螺鈿の輝きと日本の美意識をくゆらせる。その存在は、風防ガラスの向こうにありながら、はっきりとした手触りを、フィジカルな質量を想像させるのである。

並木浩一

1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。新著に『ロレックスが買えない。』。

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。