2024年春夏に注目度が高い素材の筆頭格が麻(リネン、ラミー)、シルク(絹)、ウール(羊毛)。どれもニッポン暮らしのさまざまな気候に合う快適素材である。布の揺らぎを愉しむゆったりと着るモダンな服装にもよく似合う。
さらに、持続可能な開発目標であるSDGsに基づく素材なことも注目される理由のひとつだ。歴史的にファッション産業が頼りすぎてきたコットン(綿)、石油由来の化繊(ナイロン、ポリエステルなど)の代替素材がトレンド化している。ちなみにコットンは栽培に水を大量に使うエネルギー食い植物で、農薬もほぼ必須(無農薬栽培のオーガニックコットンは、全綿花生産量のうちわずか1%ほどしかない)。対して麻は無農薬での雨水栽培も可能だ(生産効率は劣るとしても)。快適で地球環境にも優しいとなれば一石二鳥の服選びになる。
ここではそんな麻、シルク、ウールに力を注ぐブランドから最新アイテムをピックアップ。つくり手たちが語った解説つきでお届けしよう。
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麻のスペシャリスト、suzuki takayuki

ニッポンモードの世界で麻使いのスペシャリストとして知られるスズキタカユキ。自身の名を冠したブランドを持ち、舞台演劇やダンスの衣裳なども手掛けるクリエイターだ。2024年春夏の今季もメンズ及びユニセックスラインで麻を多用している。麻の特徴であるシワのつきやすさ、まろやかさ、光沢感を引き出すデザインが冴え渡る。西洋の庶民的なビンテージ愛が息づくディテールと、着たときに表れるシャープでクールなシルエットとの対比がユニークだ。
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「気候の変化により高温多湿な日々が多くなりました。より快適な時間を過ごしていただけるように、今回のコレクションでは通気性がよく吸湿発散に優れ、清涼感のある肌触りの麻をメイン素材にしました。糸の撚りや異素材との混紡を工夫したさまざまな表情の麻を使っています」
デザイナーのスズキさんが今季のデザイン意図をそのように解説。彼は麻がトレンドを越えた存在になることを願っているようだ。
「一過性でなく持続性のあるものになってほしいです。安定供給される適正価格の生産が行われていけばとても喜ばしいことです。優れた機能を持つ麻は、長く着られて経年変化も愉しめる稀有な素材。保温性の高い着方もできますから、suzuki takayukiでは年間通して麻を用いています」


麻は水に濡れると強度を増す、珍しい特徴のある素材。織り目が粗く通気性バツグンで、濡れても乾きが早い。しかも汚れが繊維内部に染み込みにくく水洗いでよく落ち、きれいな状態で長く着られるのもメリット。高温多湿なニッポンの夏に最適な素材である。ハリがある質感がダボッと着るいまのファッションによく合う。近年は若い客が多い古着店でも、店頭の打ち出しに麻服を並べることが増えたようだ。服を手に入れるとき意識して麻を選ぶと、快適生活への近道になるかもしれない。
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日常着のシルク、Nu Life in silk

気づけば毎日着ている、そんなシルクニット、Nu Life in silk(ヌ ライフ イン シルク)。品よくミニマルで大人な佇まい。肌ストレスフリーなシルクを日常で着る新しい提案だ。ニッポン的センスのカットソーをラインナップ。水洗い可能でイージーケアにも配慮されている。
インナー、下着、ソックスといった外側からあまり見えない服は、着る人の心の満足度で選ばれるもの。同ブランドの製品も、医療用縫合糸に使われてきたほど人体に馴染むシルクを、最良の肌のお供として用いている。かつてファッションスタイリストが職業だった代表の村上由祐が語ったブランド設立のきっかけは以下の通り。
「スタイリスト時代に女性の身体を美しく見せることに強い想いがあり、まずランジェリーブランドのBASARA(バサラ)を立ち上げました。その過程のなかで人の肌にもっとも近い服にシルクが最適なことを学んできたのがシルクへの関心を深めた理由です」


村上さんは下着からラインナップを拡大して新ブランドのNu Life in silkをローンチ。今年4月に秋田県に縫製の自社工場を構え、自身も秋田に移住して本格的なモノづくり体制を整えた。ニッポンから優れた縫製技術を途絶えさせてはならない想いもある。村上さんは他ブランドとどのような差別化を考えているのだろうか。
「蚕を育てて糸を紡いでいるのではないため、糸に関しては他社との差別化は少ないかもしれません。ただ手が掛かることが好きなので、手を掛けてつくった製品である点が自分たちの強みです」


動物性タンパク質繊維のシルクは、適度に体温を保ちつつ汗蒸れを外に逃がしてくれる。外気が暖かくても蒸れを感じにくいのがシルクの大きな魅力のひとつだろう。滑らかさも天然素材のなかで最高峰で、敏感肌の人にはとても実用的な素材といえる。
ただし植物性の麻やコットンなどと比べると耐久性が劣る点には気をつけたい。濡れた状態での摩擦に弱いから洗濯には優しさが必要だ。ケアを怠らなければ、優雅で贅沢なNu Life in silkが毎日の生活に潤いを与えてくれる。
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ウールTシャツの欠点を克服したGOLDWIN


ウールTシャツが広く注目されるようになったのは、コロナ禍で山登りする人が増えた時期だろう。何日も着続けてもほぼ匂わず汗冷えせず、気候が変わっても体温調整してくれるウールが優れたインナーであることは山好きの常識だった。それがアウトドアブームになり一般層にも注目素材として広まってきたようだ。トレイルランのアスリートもウールTシャツを着るなかで、ゴールドウインが渾身のTシャツを開発。特殊な技術で化繊を混ぜ、化繊スポーツウェアの優位点だった速乾性、耐久性、軽量性をも手に入れたハイブリッドTシャツである。
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ウール繊維束でフィラメント糸を包む構造の糸を開発したのは、大手生地メーカーの日本毛織(通称、ニッケ)。このハイブリッド素材「NIKKE AXIO®」をゴールドウインがスポーツ及び日常シーンで着やすいTシャツに仕上げた。ウール糸に化繊を巻きつける一般的な化繊混ウールは、肌に触れる表面が化繊になってしまう。このNIKKE AXIO®は逆に表面がウール糸で、天然素材のよさが保たれている。
制作に関わったゴールドウイン パフォーマンス企画グループの小林佑哉がこの服の企画意図を語った。
「アウトドアやスポーツ時には汗を掻きやすく、これまで化繊素材が主流でした。このシーンでも着心地よく肌触りがいい天然素材を着ていただきたく開発しました。半袖Tシャツには2種類あり、多くの汗を掻くトレイルランと、ゆっくりした動きのトレッキングを想定したつくりになっています。アスリートからの着用フィードバックを受けつつ改良してきた品ですので、シリアスなスポーツシーンでもご着用いただけるでしょう」


ウールから想像されるチクチク感もごくわずか。肌にくっつかない分、コットンよりさらりとしている。洗濯を怠っても不快感なく、家のなかでもずっと着ていたくなる。シワになりにくく光沢があり、「いいモノを着ている」と誰もが感じる高級感も秀逸だ。形がコンパクトで身頃に沿うため、仕事のときジャケットのインナーに着るにも最適なバランスだろう。
羊の毛を採取するウールは、持続生産可能とされ全アパレルが注目する素材でもある。すぐに黄ばんで処分してしまうコットンTシャツをもったいなく思うなら、このウールTシャツに切り替えて社会性のある快適生活にシフトしてはいかがだろうか。

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【画像】素材トレンドは麻、シルク、ウール!服のつくり手たちが語った新作のエッセンス【着る/知る Vol.174】
麻のスペシャリスト、suzuki takayuki

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日常着のシルク、Nu Life in silk

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ウールTシャツの欠点を克服したGOLDWIN


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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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