4月9日~4月15日までスイスで開催された世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2024」。コロナ禍にため込んだうっぷんを一気に晴らすかのように、華々しい秀作が顔を揃えた。腕時計ジャーナリストの並木浩一が選んだ必見作を紹介する。
パネライ「サブマーシブル トゥールビヨン GMT ルナ・ロッサ エクスペリエンス エディション」
2024年は世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」本戦の年で、夏にはバルセロナで決勝シリーズが開催される。パネライはこのレースに参戦する「ルナ・ロッサ プラダ ピレリチーム」の公式スポンサー。腕時計に“特別な体験”をプラスした、とびきりの新作が発表された。その新作は「PAM01405 エクスペリエンス エディション」。45mmサブマーシブルに初のトゥールビヨンを搭載した。しかもメインの素材はパネライが誇る複合素材「カーボテック」。初の45mmサブマーシブルだ。
トゥールビヨンとカーボテックの初の組み合わせは、カーボンファイバーを艇体の主素材とするルナ・ロッサ艇を反映したもの。世界20本限定のこの特別な時計の購入者は、なんと「アメリカズカップ」決勝戦シリーズに招待され、期間中には舞台裏の見学も含め、「ルナ・ロッサ プラダ ピレリ チーム」への特別なアクセスが許される。望んでも叶わない一生に一度の体験が、この腕時計の最も特別な装備でもあるのだ。
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シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー 6」
シャネル「J12」に登場したのは、あっと驚くオートマタ機構を備えた新作だ。ダイヤルの中には、パリ、カンボン通りのクチュールのアトリエ室内を思わせる舞台に立つ、ハサミを持ったマドモアゼル、シャネルが。8時位置のボタンをひと押しすると、グレーのグラデーションで描かれたその画面が生命を与えられ動き出し、およそ約20秒間の夢を見せる。
スイスのシャネル自社工房で設計、組立てを行った新オートマタムーブメント「キャリバー 6」は、355個のパーツが緻密に配置された複雑な5層のダイヤルに連動。その高度なテクニックの成果をバゲットカットダイヤモンドでベゼルを飾ったケースに収めた。優れた美的感覚とシャネルの世界観がウォッチメイキングの超絶技巧を得て、いままでにないファンタジックなオートマタに結実している。技術に裏打ちされた、秀逸なクリエイションだ。
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パテック フィリップ「ノーチラス フライバック・クロノグラフ 5980/60」
「ノーチラス」の自動巻きフライバック・クロノグラフに新登場したのは、水平エンボスのブルーグレーオパーリン文字盤を備えた、新しいホワイトゴールドバージョン。特徴的な形状のケースとベゼルはポリッシュ仕上げとサテン仕上げが組み合わされて、絶妙のコントラストを描いている。
ホワイトゴールドのノーチラス折り畳み式バックルを備えたブルーグレーのストラップにもホワイトのハンドステッチを施し、全体に統一感のある洗練された色合いに。しかもデニム柄のストラップは、実はカーフスキン製の非常に凝った仕上げのもの。クロノグラフでありながらダイヤル上にはサブダイヤルが6時位置の1つだけで、3つの同心円状の目盛を備えたノーチラス独自の大きな一体型サブダイヤルにまとめられたスタイルも不変だ。
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ジャガー・ルクルト「デュオメトル・クロノグラフ・ムーン」
ジャガー・ルクルトの新作「デュオメトル・クロノグラフ・ムーン」は、クロノグラフとムーンフェイズ表示を組み合わせた新しいキャリバー391搭載のモデル。デザインを一新した、種の異なる仕上げを施した34もの部品から成る丸みを帯びたケースに、オパーリン仕上げのコッパーカラー文字盤という、現代的なエレガンスが漂うスタイルが新鮮に映る。
新ムーブメントは手巻きモノプッシュクロノグラフにムーンフェイズ、ナイト&デイ、そして2つのパワーリザーブ表示を備える。さらにクロノグフラフの計時に連動して1秒間に1回転し、1/6 秒単位で停止可能なフドロワイヤント針(フライングセコンド)表示を組み込んでいる。ダイヤル側のオープンワークから内部の機構が覗けるだけでなく、サファイアクリスタルのケースバックからは、大部分がオープンワークのムーブメントの全景を楽しめる。
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ローラン・フェリエ「クラシック・ムーン」
2010年創立のローラン・フェリエは、同年のGPHG(ジュネーブ時計グランプリ)でベストメンズウォッチ賞以来、受賞を重ねる注目の独立系ブランドだ。「クラシック・ムーン」は初めて手掛けたムーンフェイズ機構搭載のモデルであり、高度なアニュアルカレンダーを装備。6時位置にはNとSのマーカーで示す北半球と南半球の月の満ち欠けを同時に表示する。
ダークブルーのムーンディスクは、月と星の形に彫り上げたアベンチュリンガラスの細部に手作業でホワイトのペイントを施し、さらに手作業で蓄光塗料のスーパールミノヴァを塗布。高温で焼成した後、月の表面のクレーターを表すエングレービングを行う。仕上げに半透明のペトロールブルーエナメルでコーティングしたディスクは、ステンドグラスのような視覚効果を生む。滑らかな曲線を描くクラシックなケースは、ポリッシュ仕上げのステンレススチールまたは18Kレッドゴールドから選択可能。アセガイ(南アフリカのバントゥー族が用いる刃身の長い槍)型の時針など、ディテールも独創的で目をひく逸品だ。
誰もが知る老舗から新進ブランドまで、同じ場で競演するのが「ウォッチズ&ワンダーズ」。一般公開日が昨年より1日伸びて3日間になるなど、世界に開かれた祝祭の性格を強めてきた。発表された魅力的な新作のニュースが世界に発信され、今年もまた腕時計のブームが加速する予感がする。