美しいマセラティ・グラントゥーリズモのクーペボディには、最高のエンジンがよく似合う

  • 文:小川フミオ
  • 写真:マセラティ・ジャパン
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自動車メーカーにとって、エクステリアデザインは、いつまでもアイコンだ。年にいくつもの新製品を出しながら、ぱっと見でそのブランドのプロダクトとわかる。そんなジャンルの工業製品はほかになかなか見当たらない。

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写真の「グラントゥーリズモ・ プリマセリエ 75thアニバーサリー・ローンチエディション」は世界限定150台のみ。

イタリアのスポーティブランド、マセラティのプロダクトも、すぐに判別できる。地面につきそうなぐらい低いフロントグリルと、なめらかなフェンダーラインと、コンパクトなキャビン、大径タイヤ、それにフェンダーに設けられた3つのポートホール。

2023年暮れから日本でのデリバリーが始まった新型「グラントゥーリズモ」も、上記のような特徴的なデザインでもって、マセラティ独特の官能性を強く感じさせるのに成功していると思う。

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左右4本出しのエグゾーストパイプがいかにも速そうな印象を与える。

グラントゥーリズモというのは、よくいうGTのこと。英語だとグランドツアラーといったりする。17世紀から19世紀にかけて英国の子どもたちが学校卒業の機会に、ギリシアやイタリアなど欧州の文芸が興った土地を訪ねて回り、教養を深める長い旅行、グランドツーリングが語源ともいわれる。

クルマの場合は、パワフルなエンジンで高速が出せるいっぽう、長い距離走っても疲れない快適性を併せ持つモデルを、GTという。あるいは、汎用性の高いスポーツカー。ポルシェ911や12気筒フェラーリもGTの範疇に入ったりする。

戦前、欧州で大活躍したレーシングマシンの数かずを手がけた実績を持つのがマセラティ。高性能GTは自家薬籠中のものというか、戦後は、ほとんどGTしか作ってこなかった。それで欧州のみならず米国でも大きな人気を博してきたのだ。

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長くて低くてボリュウム感がたっぷりあるノーズと存在感のある大径タイヤが力強い印象を与える。

セダンを作って「セダン」と名付けたり、SUVに「SUV」と名付けるブランドはない。マセラティは、あえてグラントゥーリズモという一般名詞を車名にしてしまった。大胆だけれど、それに異を唱える向きもない。乗ってみれば、なるほどこれこそザ・グランドツアラーかと納得の出来映えだ。

グラントゥーリズモの肝は、流麗でいてパワーを感じさせるボディデザイン。もうひとつは、エンジンだ。フロントに搭載されて後輪を駆動する3リッターV型6気筒。マセラティ発祥の地であるボローニャの広場には海神の大きな像が建つ。英語だとネプチューン、イタリア語だとネットゥーノ。それを、このエンジンの愛称に選んでいるのもユニークだ。

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マセラティが開発した凝った設計の3リッターV型6気筒「ネットゥーノ」エンジンはフロントに搭載され後輪を駆動する。

マセラティが独自開発した「ネットゥーノ」エンジンは、高性能で売るマセラティにふさわしいもの。最大の特徴は、エンジンシリンダー内に2つの燃焼室を設けている設計。それぞれにイグニッション(点火)装置がそなわる。

その目的は、アクセルを踏み込んだり、あるいは高速でほとんどアクセルペダルを踏まないで走ったりと、負荷に応じて、燃焼する部分を使いわけること。爆発力が変わるので、低負荷のときは燃費重視の燃焼、高負荷のときはパワー重視の燃焼と、切り替わっていく。そして、やはり負荷に応じて過給量を変えられることで、幅広いエンジン回転に対応する可変容量ターボチャージャーが2基そなわる。

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クルーザーの内装のような印象も受ける75周年記念モデルのダッシュボード。

それが何を意味しているかというと、パワーだ。扱いやすく、発進からゆっくりと加速していくときは、ぐーっと車体を押し出すようなトルクをもたらし、いっぽう、アクセルペダルを急に深く踏み込むと、どかーんっと爆発するような加速をもたらしてくれる。

クルマはエンジンだ、というのがクルマ好きのあいだでの定説。ピュアEV以外なら、ハイブリッドでもプラグインハイブリッドでも、やはり同じ(私見)。よく回って、気持ちよくパワーが出て、できれば快音を聞かせてくれる。いいエンジンがクルマの楽しさの大きな部分を占めるといってもいい。

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盛り上がったフェンダーラインに縦型ヘッドランプ、それに大きなグリルとエアダムがマセラティならではのスポーティさを感じさせる。

私がグラントゥーリズモのなかでもよりパワフルな404kWの最高出力をもつ「グラントゥーリズモ・トロフェオ」に乗ったのは、千葉県のサーキット。「悪いけれど、走るときは先導車をつけます」と、主催者であるマセラティ・ジャパンの担当者に言われた。

その意味は、走ってすぐにわかった。グラントゥーリズモは、ピュアスポーツカーではないのだけれど、加速はロケットのよう。先導していた4気筒の「マセラティ・グレカーレ」(221kW)も速いが、グラントゥーリズモ・トロフェオはヘタしたら追突しそうになるぐらい、さらに速い。つまり先導車がペースを保ってくれないまま”その気”になりすぎると、速すぎて危ないっていうことか。

もちろん、怖さとかはない。サスペンションシステムやステアリングが、うまく調整されていて、気持ちよいという感想だ。クーペボディとじつによく合っている。

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写真は75周年記念エディションの内装。

車内の居心地もかなりよい。シートやステアリングホイールやダッシュボードなど、使う素材の質感や色合いをうまく活かす造型だ。2トーンの張り分けのシートなど見ると、マセラティでしか実現できないようなデザインに、まさに心が奪われるようだ。

前席中心の使われ方が多いだろうけれど、4人乗りのパッケージも上手。後席は乗り降りのときにはからだをちょっと小さくしないといけないけれど、乗ってしまえば、ヘッドルームもレッグルームも、身長175cmの私にも余裕があるほど。家族だろうと、友人4人だろうと、快適に使えるだろう。

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後席も空間的余裕がけっこうあって、居心地はけっして悪くない。

グラントゥーリズモにおけるネットゥーノ・エンジン搭載モデルは、先述のとおり2つ。360kW(490馬力)の「グラントゥーリズモ・モデナ」と、405kW(550馬力)の「グラントゥーリズモ・トロフェオ」で、最大トルクは2車共通で650Nm。

24年3月に東京で開催された「フォーミュラE」2023−24年シーズン第5戦で優勝したマセラティにとって、ラインナップの電動化は視野に入っている。じっさい、グラントゥーリズモにも「フォルゴレ」なるピュアEVの設定がある。

しかし、電動化とまったく無縁のネットゥーノ・エンジンのすばらしさを体験してしまうと、電動化はもうすこし待ってもらいたい、と思ってしまう。マセラティ自身も、いつ切り替えるかはまだ発表していない。これ、クルマ好きにとって、悩ましい事実である。

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フォーミュラEマシン(手前)とグラトゥーリズモのEV版「フォルゴレ」。

Specifications
Maserati GranTurismo Trofeo
全長×全幅×全高 4965×1955×1410mm
ホイールベース 2930mm
車重 1870kg
2992ccV型6気筒 RWD
最高出力 404kW@6500rpm
最大トルク 650Nm@2500〜5500rpm
8段オートマチック変速機
価格 2998万円