ファッションデザイナーのキャサリン・ハムネット(76歳)は、80年代イギリスファッションの象徴の一人として知られている。そんなファッション界の重鎮が発信したあるSNS動画が話題だ。
この動画が投稿されたのは今年2月20日。自宅と思われる瀟洒な建物から「イギリス人であることに嫌気がさしている」と書かれた黒いTシャツ姿で出てきたハムネット。彼女の手には2011年、故エリザベス女王から授与された「大英帝国勲章司令官(CBE)」の勲章が握られている。
足を止めると、「ガザでの大量虐殺に関与した私たち(=イギリス)の役割について(考えると)、イギリス人であることに嫌気がさしています」とまず語った。
そして「これは私が(授与された)大英帝国勲章司令官(CBE)勲章です」と勲章をカメラに向けた後…
「(勲章は)ゴミ箱がふさわしいわ。スナク(首相)やスターマー(労働党党首)と一緒にね」と勲章をゴミ箱にポイ捨て。
その後、Tシャツにプリントされた2つのQRコードを見せ、「(右のQRコードを読み込んで、サイトから自分の選挙区の)国会議員を確認し、ガザの恒久的な停戦を支持しない限り2度と投票しないと伝えてください」「(左のQRコードのリンクから)このTシャツが購入できます」と説明している。
つまり「勲章ポイ捨て」投稿は、イスラエル・ガザ戦争(2023年10月7日~)に対するイギリス政府対応に嫌悪感を表明し、人々にアクションを促すための抗議動画だったのだ。
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政治&社会問題に取り組んできたアクティビスト
ハムネットはこれまでに何度も政治や社会に対して発言しており、「アクティビスト」としての一面も知られている。
1984年、彼女は核ミサイルに抗議するため「58%がパーシング(Pershing II、核弾頭ミサイル)を望まない」と書かれたTシャツをこっそり着用して首相官邸のパーティに参加した。そしてマーガレット・サッチャー首相と一緒に写真を撮ることに成功している。
Thank you so much for all your posts! To finish up here's Thatcher being ambushed in Downing Street by Katharine Hamnett and her iconic slogan t-shirt, 1984 #FontSunday - @anthonyburrill pic.twitter.com/l4YHIskjdo
— the Design Museum (@DesignMuseum) April 8, 2018
またブレア政権だった2003年、ハムネットはイラク戦争に抗議し「戦争を止めよう」と書かれたTシャツを製作。
Stop War Blair Out T-Shirt, Katharine Hamnett, 2003 pic.twitter.com/dpgFUrarXh
— clothes and conflict (@clothesconflict) May 9, 2023
モデルたちはこのTシャツを着てキャットウォークを歩いたエピソードは有名である。
その他にもブレグジット(イギリスのEU離脱)反対、トランプ大統領再選反対、環境保護、平和活動等、さまざまな呼びかけを行っている。
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実は「受勲」は嬉しかったらしい…
体制側におもねることのない行動が高く評価されてきたハムネットだが、2011年に大英帝国勲章司令官(CBE)を受勲したこと自体は、当時喜んだと言われている。叙勲式には顔がほとんど隠れてしまうほど大きな赤い帽子を付けて出席。エリザベス女王からCBEを授与された。
ちなみに勲章はゴミ箱の中にポイ捨てされたが、それだけで彼女が「大英帝国勲章司令官(CBE)」の称号を捨てることができたわけではない。称号を正式に放棄するには、権利剥奪委員会に書面を提出し、国王が取り消しに同意するという手続きが必要。
「ポイ捨てジェスチャー」にはインパクトがあったが、実際には彼女は今も「司令官」のままだ。
【次ページ:動画で確認】キャサリン・ハムネットの「勲章ポイ捨て」シーン
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