スイス・シャフハウゼンの地で1868年に創業したIWC。高品質なポケットウォッチや腕時計が市場で評価を得る中で、ポルトガル航海士の末裔から「マリンクロノメーター級の高精度ウォッチ」という発注を受けたIWCは、航海時の甲板観測用懐中時計に搭載した高精度ムーブメントを使って腕時計を製造。それが1939年に発表された、最初の「ポルトギーゼ」だ。
それから85年の時を経た現在までそのスタイルは継承され、IWCの根幹モデルとして愛され続けている。そんな「ポルトギーゼ」の魅力を、家具や工芸品、掛け時計など幅広く手掛けるプロダクトデザイナーの北川大輔さんに語ってもらった。
手仕事が生み出す、ある種の“揺らぎ”が美しいデザインとなる
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家系には製造業に従事する人が多く、幼い頃からものづくりが身近にあったという北川大輔さんは、大企業のインハウスデザイナーを経て、現在はさまざまなパートナーと協業するプロダクトデザイナーとして活動する。
「プロダクトデザイナーの仕事はひとりで完結できるものではありません。実際の生産現場の方々やそれをデリバリーしてくれる人、さらには販売してくれる人がいて、初めて製品がユーザーの手に届くのです。また、ものづくりの現場の人たちのスキルやノウハウがあって初めて、自分の仕事は完遂できます。ユーザーや社会のために、いいものを届けたいというのはもちろんですが、そうした一緒に動いてくれる人たちに喜びを還元したい気持ちも強いです。1日の1/3は働いているのだから、その時間を価値あるものと考え、日々のデザインに取り組んでいます」
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そんな北川さんが現在、力を入れているプロジェクトのひとつが「ピリカモンライケ」だ。これは木を活かすことを理念に北海道旭川で木製小物の製造をおこなっているササキ工芸が、日本有数の産地と協力して進めるプロジェクトでありブランド。その第一弾として協業した産地が「京都」で、京都の若林佛具製作所と連帯しながら北川さんが商品デザインを担当した。
「日本各地に地場産業があり、それぞれに誇りを持って仕事をしています。京都は歴史も文化も深いので、どのように“京都の工芸”を表現するのかを綿密にリサーチしました。今回はひとつのルールとして、色使いを赤と青と金とプラチナの4色に限定しています。提案当初、青い透き漆は無理だと言われましたが、相談をしていくなかで、職人の方々が度重なる検討の末に実現してくださいました。日本古来の伝統工芸から、いままでにないものが生み出されたことは大きな喜びになりました」
透き漆を塗る職人の手仕事には、機械とは違った“揺らぎ”があり、色の透け具合などコントロールしきれない不均一さがある。それこそが魅力でもあるのだ。
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掛け時計のデザインから気づく、IWC「ポルトギーゼ」の繊細な魅力
北川さんが手掛けるピリカモンライケと同様に、IWCも異なるバックボーンが融合することで、深い魅力を持つようになった時計といえるだろう。IWCはアメリカの時計技師であったフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズが、アメリカの先進的な時計製造技術とスイスの伝統的な手仕事、そしてシャフハウゼンの水力発電を組み合わせることで生まれた。その多様な価値観こそが、時計に深みを与えるのだ。
「きちんとコントロールしてつくる部分の中にも、高度な職人の手仕事がもたらす温度感というか、人の存在を感じられる点が高級機械式時計の魅力だと思います。人の手から生まれる“揺らぎ”は、コントロールできない分、いい意味で期待を超えてくれる。だからIWCの時計には、色気や上品さが宿るのでしょう。もちろん工業的なコントロールをされたものも好きですし、工作機械の加工精度は安定しています。しかし、最後は人の手によって、やっとデザインがプロダクトに“成る”のです」
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誕生から100年以上が経過した腕時計のデザインは、完全に成熟しきっているともいえる。その一方で携帯電話の普及によって実用品以上の価値を求められるようになった結果、時計という枠を超えた前衛的なモデルが生まれつつあるのも事実だ。しかしIWCでは、あくまでも実用品として視認性や精度にこだわり、その一方で上質で価値あるものをつくっている。
「ポルトギーゼのデザインの特徴のひとつが、アラビア数字のインデックスにあると思います。IWCのロゴもそうですが、一般的に書体には"セリフ"(小さな装飾)がついている方が上品に見えます。しかしポルトギーゼのアラビア数字インデックスは、セリフをもたないサンセリフの書体を使っている。そのインデックスとロゴの組み合わせが興味深いです」
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北川さんは腕時計のディテールにも精通する。それはタカタレムノスの掛け時計「フラクト」をデザインしたときに、さまざまな腕時計のデザインを研究したからだ。
「壁掛け時計は1万円を超えると“高価”とみなされることもある。しかし同じく時間を伝える腕時計は、宝飾品とみなされるほどの価値観がある。そこで、腕時計を研究することで壁掛け時計に対しても新しい価値観を創出できないかと考えました。リサーチを重ねた結果、針のデザインに大きな影響力があることがわかったのです。ポルトギーゼもこのリーフ針が特徴的ですよね。また、伝統的にダイヤルが大きいだけでなく、要素を外縁に配置することで、余白がたっぷりあることも上品さの秘訣でしょう。この余白を生かした贅沢なダイヤルに、リーフ針を合わせることでエレガントさや優しさが生まれる。これが直線的な針のデザインだったら、全然違う印象になるはずです」
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細部をアップデートした新しい「ポルトギーゼ」
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シャフハウゼンの美しい午後の青空をイメージした「ホライゾンブルー」のダイヤル。サンレイ仕上げなので、美しい光の濃淡が現れる。サントーニ製のストラップにもグラデーション仕上げを施している。上: ポルトギーゼ・クロノグラフ /自動巻き、18KWGケース、ケース径41mm、パワーリザーブ約46時間、シースルーバック、カーフスキンストラップ、3気圧防水。¥2,816,000 下: ポルトギーゼ・オートマティック 40 /自動巻き、18KWGケース、ケース径40.4mm、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、カーフスキンストラップ、5気圧防水。¥2,750,000
現在のIWCには6つのコレクションがあり、それらを順繰りにリニューアルしている。今年は「ポルトギーゼ」がその主役だが、すでに完成したデザインであるため目立った大きな変更はなく、むしろディテールを向上させて完成度を高めている。
最大の変更点はダイヤルのカラーで、ホライズンブルー、デューン、オブシディアン、シルバームーンという4つのカラーコードは、刻々と変化していくシャフハウゼンの美しい空からインスピレーションを受けたもの。繊細な色合いはPVDやガルバニック技術で引き出し、その上から15層もの透明ラッカーを吹いて磨き上げ、美しい表現を引き出した。
さらにこの美しいダイヤルを際立たせるために、インデックスや針に使用する色は可能な限り減らした。これまでのモデルは、カレンダーやパワーリザーブ表示にポイントで赤を使うことが多かったが、新作はすべて近いトーンでまとめている。
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サファイアクリスタル製の風防は、ダブルボックスガラスを採用。やわらかなカーブを描くが、歪みを軽減させることでクリアな視界をつくりだした。その一方でケースを薄型化することで着用感を高め、さらにシースルーバックの窓も大型化してムーブメントがよく見えるようにしている。
「シンプルなデザインほど簡単に思われがちですが、実はシンプルであるほど逃げ場がなくて難しい。ポルトギーゼの始まりは高精度な腕時計であり、その目的を端的に追求した結果、こういうキャラクターになった。だからポルトギーゼのデザインには無理がなく、心地よいのでしょう」と、北川さんは評価する。
機能から生まれたデザインだが、そこには贅沢さと美しさが同居する。それこそがポルトギーゼの揺るがぬ魅力なのだ。
IWC
TEL:0120-05-1868
www.iwc.com