千葉県誕生150周年を記念して、市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市にて開催中の『百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐』。総合プロデューサーに小林武史、アートディレクターに北川フラムを迎え、77組ほどのアーティストが、絵画、彫刻、映像、インスタレーションなどの作品を公開している。そのうち最も多くの会場が展開するのが、過去3度に渡って『いちはらアート×ミックス』が開かれ、今回も作品の約6割が集中する市原市だ。一方で150年以上続いていた木更津市の書店や東京湾アクアライン近くに浮かぶ小島をはじめ、君津市の人の住まなくなった団地の一室や保育園の跡地、また江戸時代に由来する袖ケ浦市の古民家、それに富津埋立記念館など、緑豊かな里山から市街地、臨海部までの幅広いエリアに会場が広がっているのも特徴といえる。
旧里見小学校(市原市)の体育館を丸ごと用いた、豊福亮の『里見プラントミュージアム』が圧巻のインスタレーションを見せている。豊福は市原市の臨海部に広がる工場夜景を模した空間を足場やドラム缶、それに踏み切りや鉄道のレールなどを素材に構築し、地元ゆかりの企業や産業をパネルで紹介しつつ、角文平、栗山斉、千田泰広、原田郁、柳建太郎といった工業的なエッセンスを持つ作家の作品を展示している。なお旧里見小学校では森靖による大規模な木彫作品をはじめ、カメルーンのエルヴェ・ユンビの仏陀と仮面をモチーフとした新作が公開されているほか、インフォメーションセンターやショップ、それに校庭をテラスに活用したカフェレストラン「SATOMI HIROBA」も設置され、市原市エリアのひとつの拠点となっている。
1960年代に製鉄所が進出し、全国各地から移住者が急増した君津市。働く人々のために多くの団地が建てられたものの、社会情勢の変化などによって近年は住宅地に置き換わりつつある。その君津市の無人となった団地の部屋へ土を敷き詰め、食用を含めた植物を植え込み、新たな環境を生み出した保良雄の『種まく人』も見応えのある作品だ。映像では良い土を食そうとする道化師が案内役となって、未来へと持続可能な農業のあり方を問い直している。また団地の近くの保育園の跡地を舞台とした、さわひらきのインスタレーションも見逃せない。4つの部屋では別々の映像が時間を分けて展開し、夢と現実の入り混じった幻想的な世界を築きつつ、子どものいなくなった不在の空間を際立たせている。このほか富津埋立記念館にて東京湾のコンビナートの風景を、特産の醤油と海苔を組み合わせて作った岩崎貴宏の作品も目にしておきたい。
「農業」「食」「アート」、そして「自然」の循環が体験できる、木更津市のサステナブルファーム&パークのクルックフィールズも立ち寄りたいスポットだ。東京ドーム約5個分という広大な敷地には、草間彌生や名和晃平、またカミーユ・アンロらの作品が展示され、自然とアートの共演を楽しむことができるほか、会期中に小林武史がプロデュースする音楽とアートを融合したライブパフォーマンス「通底縁劇・通底音劇」なども行われる。内房総の5市にまたがるフェスのエリアは想像以上に広大。小湊鉄道沿線へ南北に連なる市原市の会場を見て回るだけでもおそらくは丸1日かかるだろう。よってここは時間と心に余裕を持って、公式サイトのモデルコースなどを参考にしながら、イベントやライブの情報をチェックしつつ、2日間かけてゆっくりと展示を巡ることをおすすめしたい。
『千葉県誕生150周年記念事業 百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』(略称:「百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐」)
開催期間:開催中~5月26日(日)
開催場所:内房総5市 (市原市・木更津市・君津市・袖ケ浦市・富津市)
https://100nengo-art-fes.jp/