実業家・松方幸次郎が集めた375点の松方コレクションを母体とし、1959年に東京・上野に開館した国立西洋美術館。松方コレクションの作品、および創立以来毎年購入しているルネサンス以降から20世紀にかけての作品などを広く展示するだけでなく、西洋美術全般を対象とする唯一の国立美術館として、西洋美術に関する資料や作品の収集、調査研究、保存修復や教育普及などを行ってきた。また2016年には国立西洋美術館を構成資産に含む「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」が世界文化遺産に登録されるなどして注目を集め、今や美術や建築ファンの垣根を越え、連日多くの人々にて賑わっている。
現在、開催中の『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』とは、開館以来65年の歴史で初めて現代アーティストとの大々的なコラボレーションによる展覧会だ。タイトルにおける問いかけをテーマに、現代日本のアートシーンで活動する計21組のアーティストらが、同館所蔵作品からインスピレーションを得て制作した新作や、美術館というの場所の意義を問い直す作品などを公開している。また6000点を超える同館のコレクションよりアーティストたちが企画者とのディスカッションを経て、独自の視点で選んだ約70点の作品も出展され、過去と現在との作品の対話、あるいは対峙を通して、美術館の新たな可能性を探っている。
「0. アーティストのために建った美術館?」から「7. 未知なる布置をもとめて」へと続く展示は質量ともに濃密でかつ膨大。加えて一部のアーティストの執筆したテキストも驚くほど多く、一度では到底、見尽くせない、あるいは読みきれないと思ってしまうほどだが、それだけにじっくりと向き合いたい力の入った作品も少なくない。そのうち上野や路上生活者の多い山谷地区に一年通った弓指寛治は、そこに暮らす人々と彼らや彼女らを支える人物とのコミュニケーションをおびただしいまでの絵画などに表現している。またプレス内覧会時にイスラエルのパレスチナ侵攻への抗議活動を行った飯山由貴は、松方コレクションの成りたちを松方幸次郎の言葉やフランク・ブラングィンなどの作品を引用しながら、極めて批判的に読み解いている。
ルーヴル美術館で破損した状態で発見されたのち、国立西洋美術館の所蔵作品となったクロード・モネの『睡蓮、柳の反映』を引用した竹村京の『修復された C.M.の 1916年の睡蓮』が美しい。竹村は作品の欠けた部分をさまざまな色の絹糸で想像的に修復し、睡蓮のイメージが重なり合うように作品の前へと吊るしている。このほか、ドニやクールベの絵画や自らの写真をIKEAの家具とともに並べた鷹野隆大や、梅津庸一が主宰するアーティスト・コレクティヴ「パープルーム」の共同生活/共同制作の場を再現したような取り組みも、ここが多くの美術ファンにとって慣れ親しんだ西美の空間であることを忘れてしまうような内容といえるだろう。次回展の開催に期待しつつ、1回きりかもしれない、おそらくは同館史上最もチャレンジングな展覧会へと足を運びたい。
『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』
開催期間:開催中〜5月12日(日)
開催場所:国立西洋美術館 企画展示室
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html