ポエトリー オブ タイム(詩情が紡ぎだす時)という独自のビジョンの下、ヴァン クリーフ&アーペルの時計は時計愛好家のみならず、あまねく人たちに美の感動をもたらす。今年はメティエダールをテーマに掲げ、伝統的なエナメル技法にさらなる革新を注いだ。その新作についてメゾンのプレデント兼CEOと開発ディレクターへの取材とともに紹介する。
新たなサイズに加え、魅力がさらに深化した「ジュール ニュイ ウォッチ」
ヴァン クリーフ&アーペルでは複雑時計を「ポエティック コンプリケーション」と位置づけ、どれほど高度な技術や機構であってもそれは美学や物語を紡ぐ手段であり、ひけらかすことはない。「ジュール ニュイ ウォッチ」はその代表作として2008年に登場した。プレジデント兼CEOのニコラ・ボスはこう説明する。
「人間の時間の概念は月と太陽の動きが起源であり、時計づくりにおける最初のインスピレーションといっていいでしょう。そうしたリスペクトから、従来のムーンフェイズのような小窓で表示するのではなく、コンプリケーションとして太陽と月の動きを時計そのもので表現しようと考えました。そのコンセプト自体が時計のデザインになったわけです」
文字盤には24時間で一周する回転ディスクを備え、そこに月と太陽を向かい合わせに設け、天空の動きを表現する。新作はこれをリニューアルするとともに、新たに33㎜径ケースを加えた。イタリア・ムラーノ島のアベンチュリンガラスによる夜空を背景に、ダイヤモンドをセットしたホワイトゴールドの星々が煌めき、ダイヤモンドの月とイエローゴールドやイエローサファイアをあしらった太陽が1日を巡る。
今回ムーブメントは刷新され、新しいモジュール搭載で小径化と薄型化を実現した。これによって新たなサイズが加わるとともに、従来のクローズドバックからシースルーバックになり、エナメルデカールで妖精を描いたサファイアガラス越しに流れ星の動きも楽しめる。
こうした大幅なリニューアルにも関わらず、基本的なデザインは変えない。これに対し、時計制作研究開発部門ディレクターは「私たちはこのデザインに恋に落ちたのです」と微笑む。
「それだけ好きなデザインを変えることはできませんでした。ただその魅力をさらに増すため、細部をリファインし、シースルーバックには妖精が星空を眺めている姿をエナメル装飾することで、そこからも物語を楽しんでいただけるようにしました」
新作は、エポックメイキングなコレクションへのリスペクトであると同時に、その価値をより磨き上げていく意思を貫く。それは継承であり、深化ということだ。
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多彩なエナメル技法が生みだす美しき舞台
メティエダールは芸術的な手作業を意味し、今年のヴァン クリーフ&アーペルのテーマ、とニコラは言う。
「この2年はどちらかというと技術的なハイライトとしてコンプリケーションやオートマタに注力しましたが、今年は私たちのメティエダールを伝えたいと思います。とくにエナメル技法について、新作を通してさまざまな革新的な取り組みを知っていただきたいと思います。それはまさに熟練の手仕事であり、技とともに継承する精神なのです」
「エクストラオーディナリー ダイヤル」のコレクションでは、ジュエリーとウォッチメイキングで培ったメティエダールを存分に注ぎ、文字盤を装飾美術へと昇華する。新作「レディ アーペル ジュール アンシャンテ ウォッチ」は、3時位置に時分針を備え、朝日に煌めく花畑で花を摘む妖精の姿が描かれている。用いられたのが自社エナメル工房での新たな技法である。
特に今回「ファソネ エナメル」と名付けた新技法を発明し、特許を出願中だ。これは、高温に熱したエナメル素材をプレートに流し込み、数段階の切削工程で立体的に成形。そのフォルムを崩さぬよう低温焼成した後、500度以上に上げて釉薬で仕上げる。左下方に咲き誇るピンクの花はこうして完成し、ボリュームと透明感が美しく際立つ。
開発部署では伝統的な装飾技法をいかに進化させるかを常に模索していると開発ディレクターはいう。
「新しいイノベーションというのは、まったく違うものに手をつけるのではなく、いままでの伝統的な技術や技法をベースにしながら、そのステップアップとして積み重ねていくことが大切です。私たちのエナメル技法も最初は平面でしたが、次第に丸みを帯び、いよいよファソネ エナメルで目指していた立体的な表現が実現できたのです」
さらに上方のグリーンの葉は、シルエットに透明エナメルを流し込んで焼成したプリカジュールエナメルに、留め具を使わず直接ダイヤモンドをセットし、焼成固定する「セッティング イン エナメル」の技法を施す。まるで朝露のように煌めきが浮かび上がるのだ。
そして多彩なモチーフで構成する文字盤のベースは、3色のターコイズのストーンマルケトリーで仕上げ、奥行きと立体感を演出している。それはまさにメティエダールが生み出した華麗なる舞台なのである。
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詩情を伝える思いが機械に生命を吹き込む
ハイジュエラーとして名高いヴァン クリーフ&アーペルだが、実は創業した1906年当初から時計製造を手がけ、しかもメゾン初のオブジェを同時に発表している。この系譜に連なるオートマタは、生物や自然界の動きを機械仕掛けで再現するオブジェであり、日本ではからくり人形で親しまれている。その永遠の生命への挑戦は、ヴァン クリーフ&アーペルにとって詩情あふれる時の追求と同義なのだ。
「エクストラオーディナリー オブジェ」コレクションの新作「アパリシオン デ ベ オートマタ」は、2022年の初出から美的なデザインを継承する第3弾になる。世界屈指のオートマタ職人、フランソワ・ジュノとのパートナシップによって誕生した。
大理石を思わせるダルメシアンジャスパーの土台に置かれたピンク色の稀少鉱物チューライトのボウルの上に、112枚の葉からなるドームがある。オンデマンドでこのブーケが徐々に広がり、中から一羽の鳥が現れ、羽根を広げる。そして羽ばたいた後、再び羽根を閉じ、葉がゆっくりと閉じていく。この間には特別に作曲されたオリジナルメロディがカリヨンで奏でられるのである。
そして時刻の計時は、回転リングを土台に設け、そこに刻まれた時分表示の目盛りを小枝に止まった蝶の位置で読み取るといった趣向だ。
自然な動きに感動し、ジュエリーセッティング、エナメル、エングレービングなどさまざまな装飾が施されたオブジェの美しい細部に目を奪われる。そこではゼンマイや歯車からなる精緻な機械と伝統装飾技法が一体となり、一連の動きに繊細かつ躍動感ある生命を吹き込んでいるのだ。ヴァン クリーフ&アーペルにとって時とはなにを意味するものなのか。ニコラは言う。
「私たちには、移ろう季節や植物といった自然に向き合い、豊かな詩情を語るというアイデンティティがあり、伝えたいことはその物語です。それが私たちの哲学であり、具象にとどまらず、時計を通してこうした自然観や詩情を表現したいと考えています」
オートマタの新作はその象徴であり、メゾンの哲学を示唆するのだ。
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ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
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