テレビ東京の伝説的ドキュメンタリー番組でギャラクシー賞を受賞した「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の仕掛け人、上出遼平が仕事術を語った一冊。本書は、これまでさまざまな業界の第一人者たちによって書かれてきた仕事術の本とは大きく異なる。うまくいく方法をわかりやすく説明して読者を安心させるようなことはしないのだ。
著者はなにを語るのか。読者に最初に提示されるのは、この先ずっと勝者で居続けるのはほとんど不可能だという事実だ。続いて読者のほとんどは自分と同様に凡人だろうと告げる。現実を置き去りにして夢を見るよりも、まずは立ち位置を明らかにしよう、というわけだ。
それでも仕事を続けるべきなのか。どうやってモチベーションを保てばいいのか。私たちが仕事をする目的とはなんなのか。著者が熱心に語り続けるのは、効率のいい仕事のやり方や収益性の高いビジネスモデルの見極め方ではなく、仕事の原点だ。著者はこんこんとズルをするな、忍耐力が大事だ、と説き、そして問う。「あなたはいま、幸せを感じていますか?」と。
仕事で大切なのは“心”だという、強いメッセージ
本書は2部構成になっている。第1部で仕事の原点を語ったあとに続くのは、動画制作の仕事論だ。動画の構成やカメラの扱いなど内容は動画制作についてでありながら、あらゆる仕事に通じる、仕事の組み立て方を解説する。
第2部は、フィクションとして綴るドキュメンタリーの制作現場のレポートだ。ある企業からの依頼で死をテーマにしたドキュメンタリーシリーズを制作することになったカミデが、3人のスタッフとともにふたつの作品を完成させる。その時、なにが起きたのか。
仕事を続けていれば、得るものと失うものがある。お金も仲間もやりがいも増えたり減ったりするものだ。そのすべては偶然ではなく自分自身の選択の結果なのだと覚えておきたい。
本書はドキュメンタリーを撮り続けてきた著者が、カメラを使わず書くことで生み出した仕事のドキュメンタリーだ。生々しい言葉を通して、仕事で大切なのは心だという強いメッセージが伝わってくる。それが著者の唯一無二の仕事術なのだ。