1755年の創業以来、時を刻み続けるヴァシュロン・コンスタンタンと、時空を超える芸術の美と価値。呼応する両者に、指揮者・佐渡裕が新たな音楽の息吹をもたらした。
世界的な指揮者が、メゾンのためにプレイリストを作成
ヴァシュロン・コンスタンタンは、1755年に創業したジュネーブ最古のマニュファクチュールであり、その歴史は自らの伝統や文化を常に革新してきた軌跡でもある。真価は時代を超越する芸術とも通じ合い、より深く関わり、さらに研ぎ澄ませるのだ。
その一環として実施されたのが世界的な指揮者・佐渡裕によるオリジナルの音楽配信プレイリストだ。メゾンの年間テーマである「LESSʼENTIAL(レセンシャル)」をもとに選曲を依頼。これに対し佐渡は「自分がこれまでさまざまな音楽に触れ、衝撃を受けた曲を選びました」と答えた。その内容は多岐にわたり、芳醇な音楽の魅力とそれによって育まれた佐渡独自の音楽観が広がる。さらにインスピレーションをもたらしたのが愛用する腕時計「パトリモニー」だ。
「初めてこれらの曲を聴いた時、非常に感銘を受けたんです。ヴァシュロン・コンスタンタンの時計を手にした時もそう。 その世界観に引き込まれたような自分の衝動、感情みたいなものを今回プレイリストの中で再現できたらいいなと思いました。それはメゾンのエレガントさであり、歴史と伝統の中でもいつまでもあり続ける美しさそのものなのです」
リハーサルや本番でも時計を外すことはないという。オーケストラを指揮する腕で音の芸術を刻んでいるのである。
Lessʼential ‒ Vacheron Constantin by Yutaka SADO
1. オスカー・ピーターソン・トリオ 「Something's Coming」
2. レナード・バーンスタイン、コロンビア・ジャズ・コンボ 「Prelude, Fugue & Riffs: III. Riffs
3. エリック・クラプトン 「Layla - Acoustic; Live at MTV Unplugged, Bray Film Studios, Windsor, England, UK, 1/16/1992; 1999 Remaster」
4. ディープ・パープル 「Smoke on the Water - Live at Osaka, Japan, August 15, 1972」
5. キース・ジャレット 「Danny Boy - Live At Teatro Comunale, Modena / 1996」
6. キース・ジャレット 「Köln, January 24, 1975, Pt. I – Live」
7. J.S.バッハ、グレン・グールド 「Goldberg Variations, BWV 988: Aria」
8. J.S.バッハ、清水靖晃&サキソフォネッツ 「Goldberg Variations, ト長調BWV988 (アリア)」
9. レナード・バーンスタイン、ニューヨーク・フィルハーモニック 「Candide: Overture」
10. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、カルロス・クライバー、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 「Symphony No. 5 in C Minor, Op. 67: I. Allegro con brio」
11. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、レナード・バーンスタイン、クリスチャン・ツィメルマン、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 「Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73 "Emperor": I. Allegro – Live」
テーマの「Lessʼential(レセンシャル)」は、LessとEssentialからなる造語であり、バウハウスの「Less is more」の考えに基づく。SpotifyとApple Musicにて24年3月31日までの期間限定で配信されていた。
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先駆者のふたりが語る、過去と未来をつなぐ芸術における時の役割
一昨年秋、佐渡はスイス・ジュネーブのヴァシュロン・コンスタンタン本社を訪れた。そこで佐渡を迎え入れたのが同社のスタイル&ヘリテージディレクターのクリスチャン・セルモニだ。ふたりは意気投合し、共感とリスペクトの絆は今回のプレイリストに結びついた。このことを中心に、旧交を温めたふたりが改めてメゾンと芸術との関わりについて語り合った。
音楽と時計という異なるジャンルではあるものの、両者には芸術にかけた熱い情熱が共通する。互いにリスペクトするふたりが語り合う、時の役割とは。
セルモニ 私たちのメゾンは直接的に芸術をつくっているというわけではありませんが、アートは非常に深い意義があり、その主たるもののひとつに音楽があると考えています。そこで音楽芸術に携わる佐渡さんが、私たちが今期テーマに掲げた「レセンシャル」について、選曲を通してどう解釈し、表現するかに興味を抱きました。
佐渡 今回のお話をうかがい、私がまず考えたのはメゾンの哲学とはなにかということでした。そのなかでヴァシュロン・コンスタンタンの時計は、とてもシンプルで美しく、伝統と歴史が伝わってくる。しかも存在感があり、未来にもつながっていくことも予感させる。それを表現したいと思いました。そして「レセンシャル」とは、長い歴史においても変わらない、シンプルなスタイルを通じた美の探求であるということを理解しました。でもだからといって、シンプルな曲ばかり並べればいいというわけではなかったですね。
セルモニ 私も佐渡さんの選曲であれば当然クラシック中心と予想していましたが、あれほど想定外の分野が入っていたことに驚きました(笑)。個人的にはジャズが好きなので、オスカー・ピーターソンの選曲がうれしかったです。特に感銘を受けた曲は「プレリュード、フーガとリフス」です。まさにメルティングポットというべき、非常に多くの要素が融合し、クラシカルでありつつモダンであり、とても素晴らしい楽曲です。
佐渡 これはレナード・バーンスタインが作曲し、オーケストラの編成は完全にビッグバンドスタイルなんです。ジャジーに聴こえますが、実は譜面はとても複雑で、ジャズプレイヤーにはなかなか正確に吹けず、クラシックの奏者だとうまくノリが出せない難曲中の難曲です。私は以前ヴァシュロン・コンスタンタンのジュネーブ本社を見学した時に、ものすごく細かい部品を精密に組み立て、装飾する作業を目の当たりにしました。この曲にはそのことと通じる、歯車が複雑に回っている印象から選びました。
セルモニ とても興味深いですね。確かに時計も数多くの歯車の動きが調和し、ハーモニーを奏でることですし、そこがやはり時計づくりと音楽、アートとの確かな橋渡しになるのかもしれません。
佐渡 同様にベートーヴェンの「交響曲第5番」もわずか4つの音だけでできていると言ってもよく、シンプルなテーマをさまざまな楽器が繰り返してひとつの曲を展開します。今回はとても多様性のある選曲になり、いずれもそうですが、特にキース・ジャレットには音の神様が降りてくるというか、その瞬間に立ち会えるような気がします。
セルモニ まさにそうです! 私がキース・ジャレットのケルンコンサートを初めて聴いたのは10代の頃だったと思いますが、ジャズという以上に、もっと偉大なものに出合った印象を受けました。やはり音楽というのは、ユニバーサルランゲージといいますか、洋の東西を問わず、人の心や魂に届いて感銘を与える素晴らしいものであることを実感します。
佐渡 ディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」もいまだにイントロが流れた瞬間に聴き入ってしまいますよ。これも4つの音からできたシンプルなメロディなのに血が湧き立つ。ギタリストのリッチー・ブラックモアは、実は即興で弾くところどころに、バッハのモチーフを入れているんです。いわゆるロックギターにも音楽の歴史や伝統を内に秘め、ジャンルを越えてつながっている。クラシックの背景があることで世界中の人に愛される曲が生まれているというのがまたうれしいんです。
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機械式時計と生の音楽演奏はともに、私たちを人間としてのルーツに呼び戻してくれる
セルモニ ライブアルバムからの選曲が多いこともあると思うんですが、聴いた時にパンチを受けるようなフィジカルな感覚と一体感がありますね。それにしても佐渡さんの多彩なプレイリストは、クラシックファンにハードロックをはじめ全然違うジャンルの楽曲を聴く機会をもたらしたのではないでしょうか。それはより多くの音楽の世界への扉を開きました。デジタルテクノロジーの恩恵でもあり、その可能性についてどのように捉えていますか。
佐渡 そうですね。コロナ禍の3年間、オーケストラも、観客のいないホールから演奏を配信したり、私も自宅で古今東西の知らないアーティストや演奏に触れることができました。特にクラシックの世界では従来あまりデジタルが重要視されてなかったと思うんですが、その可能性を学ぶ時間でもありました。テクノロジーによってクラシックに出合い、より深く知ってもらう機会も増えるでしょう。でもここからが大事なんですが、その上で私はやっぱり最終的に音楽はライブ演奏に行き着くのではないかと思っています。
セルモニ 非常に興味深いご意見です。音楽はやはりライブで聴くというところに私もすごく同感します。たとえばクラシックをホールで聴くと、やはりその場のものすごいエネルギーや空気感を波のように感じます。奏者の感情までも伝わる豊かさというものはやはり生でしか味わえないし、それを再現できる音響プラットフォームはまだ実現していませんからね。
佐渡 いつも思い出すのは、私が中学生の頃にデジタルの時計が出始めたことです。当時は高い精度とデザインに憧れましたが、いまはその魅力も色褪せて見えます。それと似ている気がします。針が動くという機械式時計に感じる心地よさと、私たちが生で演奏する音楽の面白さみたいなものがとても共通するように思うんですよ。
セルモニ そうですね。いまや私たちの生活はどんどんデジタルな環境に囲まれています。音楽もスマートフォンを通して楽しむ人が多いですよね。これまでは家でレコードやCDをオーディオにセットしなければならなかったのに対し、それはいつでも手軽に聴けるというメリットであり、より多くの人に音楽の楽しみを享受する機会を与えました。でも人間について掘り下げれば、やはり身体を持つ有機的な存在であり、伝統的な時計づくりと生の音楽の共通性もその源に行き着くと思います。時計職人は時計づくりにおいて、人間性や精神、熟練の手技など多くの要素をその一本に詰め込んでいます。言ってみれば機械式時計と生の音楽というのは、私たちを人間としてのルーツに呼び戻してくれるものではないでしょうか。
佐渡 ヴァシュロン・コンスタンタンにおいて芸術は深い意義を持つとおっしゃられました。その意味も含めて、もう少し詳しく教えていただけますか。
セルモニ 私たちと音楽との関わりは、まず2018年のロンドンのアビーロード・スタジオとのパートナーシップから始まりました。「One of Not Many」というプログラムを立ち上げ、次世代の育成や知識の継承などを目的に若手育成プログラムを進めています。音楽の分野に加え、16年にルーヴル美術館が所蔵する18世紀の時計修復を経て、19年に同館とのパートナーシップを締結しました。そして昨年の2023年にはメトロポリタン美術館とパートナーシップを結んでいます。それらは、作品の修復や創作におけるコラボレーションを通し、伝統や文化を守り、次世代への技術の継承を目的にしたものです。
佐渡 やはり時計づくりと芸術には非常に近しい関係があり、それが今回の音楽プロジェクトにもつながったのですね。私は本社のアトリエを見て、興奮し、非常に感動しました。次のミッションは、今度は私がその感動を返さなくてはならない。だからぜひセルモニさんには演奏会に来てほしいですね。
セルモニ でも私は既に佐渡さんからたくさんの感銘を受けているんですよ。『サントリー1万人の第九』は、世界でも類を見ない素晴らしいものだと非常に感動していますし、大阪のホールで聴いてみたいですね。そして若手育成プログラムであるスーパーキッズ・オーケストラもとても重要だと思います。これらの取り組みは大変意義があり、やはり我々は違う分野でありつつも共鳴している部分がすごくあると確信しています。
佐渡 いや、もう本当に早くセルモニさんの前で演奏したい。やっぱりライブというのは大事なことですし、それが私たちの次の目標ですね。
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ルーヴル美術館と志をともにし、美の継承をカタチにした時計制作
ルイ15世に献呈されたクロック『天地創造』の修復支援をきっかけに、2019年からスタートしたヴァシュロン・コンスタンタンとルーヴル美術館のパートナーシップ。芸術と共有する情熱と志は、時計づくりにも注がれる。そこから生まれた新たな創作を見てみよう。
世界的に名高い美術館とのパートナーシップは、芸術文化における有形無形のヘリテージを守り、次世代に継承する活動を支援するばかりでなく、メゾンのウォッチメイキングにもフィードバックされ、新たな発想や技法をもたらす。ここに紹介するタイムピースもルーヴル美術館とのコラボレーションから誕生したものだ。
レ・キャビノティエと呼ばれるオーダー製作を担うメゾンの専門部門では伝統的な装飾技法を継承し、さらなる研鑽が続けられている。長い時をかけて習熟した技術を駆使し、美術館の所蔵する絵画や彫刻などアートピースをモチーフにした装飾を文字盤に施す。
それは歴史的な名作を時計で再現する大いなるチャレンジであると同時に、磨き抜かれたクラフツマンシップの技巧は、創業270年近い歴史ある名門にふさわしい取り組みといえるだろう。そしてその逸品もまた芸術として後世に受け継がれていくのだ。
歴史的名作の復元を実現させる、唯一無二のクラフツマンシップ
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メゾンの世界観をより深く堪能するなら、銀座の本店とプライベートサロンへ
1917年以来、ヴァシュロン・コンスタンタンと日本が培ってきた絆を象徴するのが銀座本店とサロン1755銀座だ。前者は銀座四丁目という最高のロケーションに位置し、マルタ十字を掲げたファサードの外観は洗練されたランドマークとなり、周囲の街並みにも自然に溶け込む。
一方、後者は日本初の旗艦店として親しまれてきた旧本店が昨年、時計愛好家のための特別なプライベートサロンとして生まれ変わった。ふたつの空間でメゾンの世界観と文化をより深く味わい、堪能できるのだ。
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL:0120-63-1755
www.vacheron-constantin.com