さきごろ、自動車デザイン界の巨星といわれたマルチェロ・ガンディーニ氏が逝去した。2024年3月13日のことだ。ランボルギーニからアウディまで、数多くの名デザインを残した功績で称えられてきたひとだ。
いっぽう、デザイナーの名は知られなくても、自動車ファンがおおいに好むモデルも存在する。ピックアップトラックの人気ぶりは、自動車の世界の奥深さの象徴といってもいいだろう。
ガンディーニが手がけたスーパースポーツカーは、高性能と、英語でいえばカッティングエッジ、つまりトンガったスタイリングでファンを魅了した。ピックアップは、力強く、かつ頑丈に見えるデザインが身上で、サーキットは向かないけれど、ラリーで活躍するモデルもある。
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三菱自動車が、2024年2月に発売した1トンピックアップ「トライトン」は、これまで大きめなピックアップに縁のなかった日本のユーザーからも注目を集めている。
全長5.3m、全高1.8m。470Nmと太めのトルクを発生する2.4リッターディーゼルエンジンにパートタイム4WD方式(必要に応じて2WDもドライバーが選択できる)の組合せ。しかもシャシーはラダーフレームで、リアサスペンションにはリーフ型スプリングと、クロスカントリー4WDの教科書のような内容だ。
ヘビーデューティなプロダクトのデザインのおもしろさは、大きな変化をあまり好まないことだ。これまで自動車メーカー各社は、ピックアップトラックの分野でもユニークなデザインをあれこれ試してきているものの、結局、機能とパワーが一目でわかるようなデザインに戻ってきてしまう。
悪いことかというと、けっしてそんなことはないだろう。三菱トライトンはいい例で、先にも触れたとおり、タフさと使い勝手という、ユーザーが求めるものをていねいに取り込んだデザインだ。
SUVにちょっと飽き気味というひとには、ピックアップトラックという選択もいいかもしれない。
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ご存知のかたも多いと思うが、ピックアップトラックには、いくつものバリエーションがある。トライトンはダブルクルーキャブ(キャブ=キャビン)といって、前後席に余裕をもたせた4ドア。いくつかのマーケットでは、クラブキャブという前席重視のキャビンも用意されるとのこと。
ピックアップトラックの北米における歴史は古い。20世紀初頭、世界初の量産車であるフォードモデルTにも設定された。それだけ荷物運搬のニーズがあったのだ。乗用車との合体ともいえるダブルクルーキャブが一般的になったのは1950年代だ。
トライトンは、世界約150カ国で販売実績を持つ三菱自だけに、機能と性能が高いレベルにある。「オフロード・オンロード両方とも、いつでもどんな状況でも安心してドライブできる」が、メーカーのうたい文句。その言葉にいつわりがないかんじ。
さまざま路面を想定したオフロード中心のドライブモード、走行安定性を高めるランサーエボリューション派生技術の「AYU(アクティブヨーコントロール)」、それに高速から超悪路まで路面に応じて最適の駆動方式を選べる「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」が、4WD用の特設コースと、一般道で、実力ぶりを垣間見せてくれた。
車型は基本的に大きく進化していなくても、走りに関する機能は、ちゃんと時流に即しているのだ。運転支援システムも、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱防止支援機能、踏み間違い衝突防止アシストなどがそなわっている。
ひとことでいうと、どんな路面でも快適。岩場でもすいすいと登っていけるいっぽう、一般道では乗用車感覚でドライブできる。不快な揺れはないし、サスペンションシステムはしなやかに動き、ハンドリングはすなおで、一般道での車体の反応はよい。
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荷台は奥行きが1525mm、幅が1470mmあるので、利便性は高そうだ。自動車好きなら、この荷台をいっぱいにして走ってみたいと思うのではないだろうか。
日本だと、モトクロッサーとかマウンテンバイクとかが一般的かもしれないが、荷台用には電動トノーカバーやキャノピーまでオプションで用意されるので、ステーションワゴン的な使い方も可能だ。
こういう、デザインがあるようでデザインがないようでデザインのあるプロダクト(なんのこっちゃ)は、いつでも強い訴求力をもつ。車高がうんと低くて、最高速が300kphを超えなくても、魅力のあるクルマは存在するのである。
三菱トライトンGSR
全長×全幅×全高 5360×1930×1815mm
ホイールベース 3130mm
車重 2140kg
2439cc直列4気筒ディーゼル パートタイム4WD
最高出力 150kW@3500rpm
最大トルク 470Nm@1500~2750rpm
燃費 11.3km@リッター(WLTC)
価格 540万1000円