街のグラフィティ(落書き)などのストリート・アートを美術館で展示すること、アート市場で“プレミアム商品”として転売が繰り返されることには賛否両論あるかと思います。
バンクシーのように否定する作家がいたり、ビジネスの商才に長けている作家もいたり。
2024年3月15日(金)から東京・六本木ヒルズではじまった現代作家10名の展覧会、
「MUCA展 ICONS of Urban Art~バンクシーからカウズまで~」
は、作品としっかり向き合える展示方法と良質なセレクションで“美術”を示す展覧会です。
オープン前日に行われたメディア向け内覧会に足を運びました。
会場内に人がまばらな、贅沢環境でのゆったり鑑賞。
「そっか、カウズってフィギュア以外の美術性が高いんだな!」
なんて気づきをたくさん得られた体験になりました。
なにより良かったのは、各作品が持つ“物質感”をしっかり味わえたこと。
コマーシャル商品と区別がつきにくいポップアートこそ、実物に接して初めて理解できる良さがありますから。
ドイツ・ミュンヘンの美術館の同展覧会の東京開催は、大分、京都を経た巡回展。
すでにご覧になった方もいるでしょう。
ここでは会場で心惹かれた作家6名の作品を掲載します。
作品の大きさや会場のムードをお伝えできるように、空間撮影を意識して記録しました。
創作の鍵になりそうな部分アップも載せてますので、立体的にイメージしていただけたら幸いです。
今回は他の作家と比べ作品数が2倍以上のバンクシーの掲載に集中します。
今回を【前編】として、カウズを含む5名は次回以降に更新する【後編】でお届けします。
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バンクシー/BANKSY
キャンバスに描かれたバンクシーの作品、彫刻作品が2部屋に並んでいます。
用意された空間ボリュームを考えると、同展覧会での2大作家がバンクシーとカウズなのは間違いありません。
(カウズも2部屋)
バンクシーが18作品と最大で(続くカウズは9作品)は唸らされる秀逸なものばかり。
まず大部屋の中央にどん!といる大きな彫刻(フィギュア)が素晴らしい!
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作品タイトルは「アリエル」。
ディズニーアニメ映画『リトル・マーメイド』の人魚姫主人公の名前。
長くメディア仕事をしてきた人間からすると、ディズニーネタを直球でやってしまう附帯ゼロの凄みを感じます。
「ディズニーはヘタに触れるとヤバい」、それはマスコミでもファッション産業でも言われ続けてきたこと。
クレームと法的措置が怖くて長くタブー視されてきました。
キャラクターの改変など、もっともやってはいけないこと。
そこに切り込んできたのがバンクシー。
この彫刻はバンクシーが主催してイギリスで開催した、『夢の国』に対する『悪夢の国』といえる期間限定テーマパーク『ディズマランド』に展示されたもの。
子どもたちに見せるファンタジーと、それが流通する裏側とのギャップに見る人の目線を向かせるアート作品です。
デジタル画像のバグのようにずれて歪んでいるのですが、これがすごく美しくて!
見事な造形で、元作品をただ壊す暴力的な手法とはまったくの別モノ。
ここなんですよね、バンクシーに魅了される大きな理由のひとつが。
フィギュアの目はとてもチャーミングだし、アリエルのキャラデザイン自体には愛情を感じます。
キャラを描いた人自身に何かを言いたいのではないのでしょう。
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「うわ、やられたぁ!大好きな作家エドワード・ホッパーの代表作『ナイト・ホークス』までバンクシーの標的に…… w」
と思いつつ、元の作品に登場しない左の裸の人物をよく見ると、↓
イギリス国旗のパンツを穿きイギリスのビールを持ったイギリス人なのでした。
クラシカルなアメリカの夜の1シーンに椅子を投げつけたイギリスの酔っぱらい。
『夜鷹』のタイトルの元絵では登場人物4名が室内に目線を向けています。
夜更けのうつろな顔つきで「都会の孤独」を描いたとされています。
それがこの作品では全員がパプニングに驚き窓の外を見てる w
会場内の解説文を読み理解できましたが、サッカー好きのバンクシーが競技場のマナーの悪いフーリガンを皮肉った作品とのことです。
エドワード・ホッパーの筆のタッチまで真似たこの絵は、アリエルと同様に元絵を尊重する気持ちが感じられます。
ナイト・ホークスが表現した静寂の時間をぶち壊す、下品なフーリガン。
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古代ギリシャの彫像の額に銃の弾が打ち込まれ、赤い血まで流された衝撃的作品。
心が苦しくなります。
どうやら同作品の制作意図は、「伝統芸術への批判」ということで世の総意がまとまっているようです。
美術教室によく置かれるヘルメス像だから、美術教育や権威へのアンチテーゼという解釈になったのでしょう。
ただわたしはだいぶ違う感想を抱きました。
見慣れた親しみのある人物像に弾丸を打ち込んで驚かせる手法を使い、平穏に暮らす国の人々にも銃を使った戦争や社会紛争で命が奪われることを我が身のものとして感じてもらいたかったのではないかと。
この作品制作は2005年で、バンクシーは紛争地のパレスチナの壁に03年ごろ「花を投げる人」を描いています。
胸像作品をバンクシーが発表したのは06年に自身がアメリカ・ロサンゼルスで開催した美術展で、そこには防弾チョッキを着せたダビデ像作品もありました(写真で見ただけですが)。
移民や難民といった弱者に対する深い愛情を持ち、政治的作品を多く手掛けるバンクシーの作風を思うと、わたしの勝手な解釈のほうがしっくりきます。
展覧会「MUCA展」の目玉展示はこの、「オークション会場で落札後に遠隔操作でシュレッダーされた作品」でしょう。
世界中を駆け巡った2018年の大ニュース。
わたしも実物を見るのが楽しみでした!
ただ、あれですね……美術史に残るパフォーマンスがあった背景を度外視して眺めると、作品そのものから力強さは感じられなかったです。
(わたしの場合は)
実物を間近で見たことでの新たな感動はとくになく。
おもしろいものでニュース映像で流れた、オークション会場で誰かがスマホで撮ったと思われる会場内の客やスタッフが驚き動揺している顔の動画のほうが、作品そのものよりインパクト大です。
オークション落札直後に額縁に仕掛けられたシュレッダーが作動して絵をバラバラに切断……するはずだったのが、機械の故障で途中で止まり原型を留めたことで“商品価値”が爆上がりした作品。
(最初のサザビーズのオークションでは1億5,000万円で落札、シュレッダー後の同オークションでは約25億円で落札)
もしもこの事態を想定してアート市場への社会批判が湧き起こるようにわざと失敗作を投入したのだとしたら……わたしたちは完全にバンクシーの手のひらで踊らされたことになる w
空想が膨らみます。
今回ご紹介したもの以外にもバンクシーのコーナーには興味深い作品がいろいろあります。
バンクシーだけでもこの充実ぶりですから、カウズ、インベーダー、JRらのストリート・アート(総称してアーバン・アートと呼ばれる)が集結した展覧会「MUCA展」のヤバさがおわかりでしょう。
正しくは「ストリート・アートが出発点の作家のさまざまな作品の展示」である同展覧会の紹介は【後編】に続きます。
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【画像】大満足の「MUCA展」、カウズ、バンクシー、インベーダーらが“美術”してる展覧会【前篇(バンクシー編)】
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バンクシー/BANKSY
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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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