米スタートアップのインパルス社が、わずか40秒で1Lの湯を沸かすことができる強力なIHコンロ「インパルス・クックトップ」を開発している。アメリカの一般的なコンセント(120ボルト)から電源を取り、内蔵のバッテリーを充電。必要時に一気にエネルギーを放出することで、高速で沸騰させる。電気ケトルの10分の1ほどという短時間だ。
インパルス創業者でCEOのサム・ダミーコ氏はTwitterに、実際にインパルス・クックトップで湯を沸かす実演動画を投稿している。動画では実演役のダニエル氏が、メジャーカップから室温の水1Lを鍋にそそぎ、IHコンロ「インパルス・クックトップ」の天板に設けられたつまみを回して加熱を開始。
つまみを回し終えてから早くも5秒ほどで、鍋の底に気泡ができはじめる。15秒前後で沸騰間際のシューシューという音が立ち始め、うっすらと湯気が立ち昇った。40秒前後で完全に沸騰し、大粒の泡がボコボコと激しく立つように。実演していたダニエル氏は「ほら見て、信じられないでしょう?」と笑みを浮かべて動画を締めている。
電気ケトルより素早く沸騰
ティーカップ1杯分など少量の湯を沸かしたい場合は、電気ケトルでも大きな差はつかない。一方、調理などのためまとまった量の湯を沸かすとなると、インパルス・クックトップが有利だ。通常であれば1Lを沸かすには、強火のガスコンロでも3分前後、電気ケトルでは5〜8分程度かかる。8分の電気ケトルと比較すると、40秒で沸騰となるインパルス・クックトップは、10分の1以下の時間で済む計算だ。
素早く加熱できるインパルス・クックトップは、料理の手順をより柔軟にしてくれる。「料理は手際」とはよく言うが、万一湯を沸かしておくのを忘れてしまっていても、40秒あればすぐに準備が追いつく。時間を節約できるだけでなく、準備ミスをカバーしてくれる心強い存在となるだろう。
また、調理時間を劇的に短縮するだけでなく、災害時や停電時でも調理が可能な利点がある。さらに、電力料金の高いピーク時間帯を避けて早朝などに充電を済ませることで、節約にもつながるという。
米ビジネスサイトのファスト・カンパニーによると、インパルス・クックトップにはインバーターが搭載されている。必要な際にソフトウェアで選択することで、電力を家庭内に供給することも可能だ。
インパルス・クックトップ単体の蓄電容量は3kWhと少ないが、同社は今後、バッテリー搭載のほかの家電製品を順次発表する予定だ。蓄電した電力を電力網へ還元するしくみについても電力会社と話し合いを進めており、送電網の安定化に貢献する可能性があるという。
長時間使ってもバッテリー切れにならない
バッテリー式という特性上、連続して調理する際のバッテリー切れが気になる。だが、その心配はほとんどないという。米ニュースサイトの「ヒートマップ」はダミーコ氏への取材で、感謝祭のディナーを大勢で賑やかに準備する場合など、数時間続けての調理に耐えられるかを質問。ダミーコ氏は、「心配ありません」と回答している。
「たとえばパスタを茹でるなど、大きな鍋で湯を沸かしていると、もちろんバッテリーは消耗します。でも一旦温度が上がれば、120ボルトのコンセントから供給できる以上の電力を消費することはないんです」
「または、何か炒めものをするとしましょう。フライパンを加熱している最中は、1分間に2キロワットほど(バッテリーの)電力を消費するでしょう。しかし、一定の温度に達したあとは数百ワット程度の消費電力に下がりますので、(コンセントからの余力で)バッテリーを再充電することができるんです」
日本のピザ屋に着想
ダミーコ氏が素早い調理を実現しようと思い立ったのは、日本での体験がきっかけだった。当時のFacebook社(現Meta)でAR/VRヘッドセットの開発を担当していたダミーコ氏は、カンファレンス出席のため日本を訪れた際、たまたま立ち寄ったビザ・レストランであっというまに出されたピザに衝撃を受けた。
「ある会議で日本に行ったとき、ピザ屋に行ったら45秒でピザを焼いてくれたんです。これは正気の沙汰じゃないぞ、となって。すごく印象に残っていて、それをやりたいと考えました。できれば、家で使える卓上機器として作りたいと」
こうして畑違いのキッチン家電の分野で、自身のスタートアップを立ち上げる。すでにキッチン用品を未来化する取り組みは各社が進めているが、AIやコンピュータ・ビジョン(コンピュータによる画像解析)の方向に走りがちだった、とダミーコ氏は指摘する。AIは未来的な響きがあるが、キッチンに導入したところで利便性は高まらないかもしれない。
代わりに、バッテリーという実績あるシンプルなしくみを使い、長い間進歩の少なかった調理という分野に革命を起こす。これがダミーコ氏の目標となった。
最初の製品はIHコンロとなったが、驚くほどの速さでピザを調理する夢も諦めていない。オーブンレンジにピザ機能を搭載した商品を開発したい、とダミーコ氏は意気込む。ヒートマップの取材に対し、ピザについても「45秒程度の性能は可能だと思います」と自信を見せる。
インパルス・クックトップは現在アメリカ国内向けに、送料別5999ドル(約88万円)で予約を受け付けている。
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Daniel boils a liter of cold water in under 40 seconds with @ImpulseLabs_ @growing_daniel pic.twitter.com/AM5cDcHxhQ
— Sam D'Amico (@sdamico) February 9, 2024
動画:スイッチを回して5秒後には気泡ができはじめる。