きっと見つかる自分の居場所、都内の老舗校「新渡戸文化学園」が行う特別授業とは?

  • 写真:藤本賢一
  • 編集&文:久保寺潤子
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東京・中野にある「新渡戸文化学園」は1927年創立の老舗の学校だ。2019年に平岩理事長らによって大きく大きく方針を変えることにより、これからの時代を担う新しい学園へと改革が進んでいる。都内の老舗校の新しい教育とはいかなるものなのだろうか?

Pen最新号は『新しい学校』。正解のない時代を、一人ひとりがどう航海するのか? これからの子どもたちは、この未知なる難題をクリアしなくてはならない。そのプロセスは個人個人でまったく違う自由なもので、決まった道筋はない。だからこそ、学校も変わらなくてはいけないのだ。ここで紹介するのは、未来を見据えた26校の挑戦の姿でもある。

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新渡戸文化学園

東京/日本

種類:私立 小・中・高等学校、短期大学、子ども園
住所:東京都中野区本町6-38-1
設立年:1927年
生徒数:426人(中・高等学校)
男女比:男子46.2%、女子53.8%
教員数:31人(中・高等学校合計)
学費(年間):81.6万円~
おもな進路:大学

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子ども園(幼稚園)から小・中・高等学校、短大までが同じ敷地内にある新渡戸文化学園。中庭には大きな木が枝を伸ばし、異なる年代の生徒たちが集う。
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グリーンウォールの入り口をくぐると、創立者・新渡戸稲造の銅像がある。伝統的な校舎をリノベーションした。

学校生活において水曜日は、中だるみする生徒が多いという。しかし新渡戸文化中学校・高等学校ではこの日がいちばん活気づく。学年と教科を横断して、好きなことを一日中探究する「クロスカリキュラム」が行われるからだ。

生徒の多様な個性を活かし、社会と接続するためには大胆な余白の時間が必要だ。この日は通常のクラスから離れ、チームや個人で「ラボ」と呼ばれる活動を行う。学校や地域の課題から本質的な問いを見出し、解決のためのプロジェクトを創造するのだ。生徒が望めば、学校を飛び出して同じ課題や志をもった人とつながることもできる。生徒たちは近隣の企業や外部団体と積極的に連携。社会課題解決のための行動を起こし、ICT(情報通信技術)を活用しながらアイデアを提供する。一例をあげると都市農業プロジェクト、動物との共生×絵本プロジェクト、寄付型自動販売機プロジェクト、FSC認証(森林認証制度)プロジェクトなど。内容はさまざまだが、出発点は常に生徒の自発的な興味や関心事にある。

仲間とともに大人との対話を重ねることで、社会課題を自分ごととして考え、「なぜ学ぶのか」という問いを明確にしていく。

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自ら考案したデザインで洋服づくりに挑戦。教室内では、自分の思いをカタチにしようと、作品をたのしそうに制作する生徒の姿が印象的だ。
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美術担当の笹野一美先生(右)と美術大学へ進学する高校3年生の生徒(左)。授業ではモノの見方を指導しながら生徒の探究的視点を養う。

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答えがひとつでない探究学習をサポートするのが、多様なバックグラウンドをもつ教員だ。同校では学校以外の企業経験をもつ教員が47%、学外の組織に肩書をもつ“二刀流”先生の割合が52%、さらに教育分野のイノベーターとしてアップル社が認定する「ADE」の教員が5人在籍。彼らは自らの経験をフル活用し、教科と社会課題を連携させながら、生徒の好奇心と学びに伴走する。

100年近い歴史をもつ同校で改革を成し遂げた立役者が2019年から理事長を務める平岩国泰だ。放課後NPOアフタースクールの代表理事として放課後事業に取り組んできた経験が学校運営に活かされている。

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平岩国泰

新渡戸文化学園理事長
放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年、東京都生まれ。30歳のとき長女の誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。2011年に勤めていた会社を退職し、社会を巻き込んだ教育改革に取り組む。5万人以上の子どもが参加したアフタースクールは受賞歴多数。13年より文部科学省中央教育審議会専門委員、17年より渋谷区教育委員。19年より学校法人新渡戸文化学園理事長を務める。

「多くの日本の学校は、あるべき理想像を大人が設定してしまって、先生も生徒も息苦しさを感じているのではないでしょうか。私が取り組んできた放課後の活動は、君の存在そのものが素晴らしい、という姿勢を大切にしています。生徒の学ぶ意欲を育てるために、まずは自分の居場所をもってほしいのです」

コロナ禍ではいち早くタブレットを導入し、個別最適化を優先した授業を進めた。学習成果は小論文や動画作成で発表し、生徒たちが相互評価するアウトプット型のテストを導入。教科学習を目的から手段へと意識改革することを目指している。

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上:カフェテリアに隣接するパソコンラウンジ。一人で集中したい時、仲間と調べ物をしたい時など、自由に使えるカフェのようなデザイン。 下:3Dプリンターなど最新デジタルツールや、さまざまな材料が揃う「VIVISTOP」。授業や放課後で利用される人気スペースだ。
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さまざまなバックグラウンドをもつ教員が各自の経験を活かしながら、教科や学年を超えて常にコミュニケーションを図っている。

探究学習のため、フィールドワークへ

大阪の学校から転職した勝田浩次先生は「生徒が受動的に教わるのではなく、自ら考えて課題解決する授業をずっとやってみたかった。新渡戸には、思いを同じくする教員と建設的な議論を交わせる雰囲気があります」と話す。教科や探究学習を含めて一人の生徒につき10人以上の教員が関わっているため、生徒は先生を選んで相談できる。三者面談でも生徒が先生を指名。我が子が堂々と語る姿に、驚く保護者もいるそう。

“社会すべてが学びのフィールド”という学園の理念に基づき、第一線で活躍する社会人や企業との協働プロジェクトも多数。学年全員が同じ場所を訪ねる修学旅行とは異なり、美術や音楽、地方病院でのインターン、漁村、森林管理の体験など、少人数で旅を生徒自ら企画するスタディツアーも目玉のひとつだ。

これら探究学習で学んだ生徒は、自ら納得できる進路へ進む。事実、2022年度卒業生のアンケートで「自分の進路に満足している」という回答は100%だった。

知識よりも見識を、学問よりも人格の育成を目指した創設者・新渡戸稲造。そこに平岩理事長が現代の手法で改革を行い、6年目を迎えた新渡戸文化学園。

「大事なことは子どもが主語であること。手法は異なるでしょうが、日本中の学校にこの理念が広まればうれしい」と語る。どんな学校も変革の可能性があることに気づかせてくれる。

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水曜日のクロスカリキュラムで行われた、美術と英語を掛け合わせた授業。普段学んでいる教科について、視点を変えながら自由な発想で意見が交わされる。
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プレゼンテーション型の授業に利用される「ニトベシアター」。この日は学習成果発表会に向けたラボミーティングを実施。
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高校1年と2年の合同スタディツアーで開催された森林管理体験の様子。社会課題に実際に触れることによって、自分の問題として捉え、探究学習が深まる。
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近隣企業にアポを取って訪問し、地域の魅力や課題を発見。環境フェスにも積極的に参加している。

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