恐るべき自然界の連鎖反応…外来種アリが、サバンナの生態系を変えた!

  • 文:山川真智子
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Oasishifi-Shutterstock ※画像はイメージです

ケニアの野生動物保護区に外来種のアリが侵入し、在来種を駆逐しつつあるという。在来種アリと共生していたアカシアの木が減るにつれ、大きな動物たちの行動も変化。アリの世界で起きた異変が、一見関係のなさそうな他の種にも大きな影響を与えたことが分かった。

木とアリの相互扶助 外来種が破壊

ケニア中央部にある野生動物保護区、オル・ペジェタには、「口笛を吹くトゲ」と呼ばれるアカシアの木が点在する草原が広がっている。米公共ラジオ網NPRによれば、アカシアの木は、長年にわたって在来種のアカシアアリと相互扶助の関係にあった。木々はアリたちに食料と隠れ家を提供し、アリたちは葉を食べる動物が集まると、噛みついて木を保護する役目を担っていた。

ところが、保護区で長年にわたりフィールドワークを続けているワイオミング大学の研究者たちが発表した論文によれば、外来種のツヤオオズアリが侵入したことで、相互扶助の関係が崩壊してしまったという。

普通のツヤオオズアリの大きさは、アカシアアリの3分の1ほどだが、非常に狂暴だという。何十万匹もの大群でスーパーコロニーを形成し、在来種のアリと遭遇すると、その個体群全体を殺してしまう。

スカイニュースによれば、ツヤオオズアリが見られるようになったのは15年ほど前で、人間や大きな動物に対し攻撃的ではないため、見逃されてしまったようだという。ワイオミング大学の研究者は、インド洋のどこかから大量の農産物とともにケニアに持ち込まれのではないかと、NPRに話している。

動物たちに連鎖的影響 狩りができないライオン

アカシアアリの保護を失ったアカシアの木は無防備になり、ゾウの被害を受けやすくなったという。ゾウは葉だけでなく枝や木全体を引き倒し、サバンナの景観を変化させてしまった。

その影響は、ライオンたちのシマウマ狩りに現れた。通常ライオンは木の陰から獲物に狙いをつけ襲い掛かる。しかし、より開けた場所ではシマウマはライオンが近づいて来るのを察知しやすい。逃げるための時間的余裕がシマウマにできたことで、ライオンが仕留めることのできる数が減ってしまった。

今のところ、保護区にはまだ樹木に覆われた場所があるため、ライオンの個体数に大きな変化は見られないという。ライオンたちは、シマウマの減少分をバッファローで補うという戦略に出ているらしい。

アリの影響はライオンだけでなく、アカシアを食料とする絶滅危惧種のクロサイにまで及んでおり、外来種から始まった生態系の連鎖反応が、かなり広域に見られることが分かった。

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7割以上のアカシアが消滅…勢力範囲を広げる外来種 

論文によれば、20年前にはサバンナはアカシアの木で覆われていたが、いまや70~80%が消えてしまったという。ツヤオオズアリは、毎年約50メートル進むペースでサバンナを侵食しており、研究者たちは、保護区内の動物への影響をさらに調査していくつもりだという。

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 アカシアの木と共生するアカシアアリ。

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 無数のアカシアアリが木を守って暮らしている。

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ツヤオオズアリ。普通の働きアリは2ミリほどだが、2倍サイズの大きな頭を持つ働きアリがおり、それが名前の由来となっている。

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クッキーに群がるツヤオオズアリ。大きい働きアリは群れの1%ほどしかいない。

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 サイが食べるアカシアの木も減少している。