パリ・オペラ座バレエ団が来日! 4年ぶりの日本公演はあの古典の金字塔と日本初披露作を上演

  • 文:並木浩一
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実に4年ぶりに、パリ・オペラ座バレエ団が来日公演を行う。ダンスシーンで圧倒的な存在感を誇る世界最高峰のバレエ団は、日本でも熱狂的なファンを持つ。待望の来日は、ポスト・コロナ時代を象徴する慶事といっていい。前評判もこの上なく高まっており、4年待った日本のバレエ・シーンを賑わせることは間違いない。

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『白鳥の湖』オデット姫。古典的なプティパ=イワノフ版(1895年)をベースに、ルドルフ・ヌレエフが『白鳥の湖』をはじめて振り付けたのは1964年。「世紀のペア」と呼ばれた相手役マーゴ・フォンティンとともに、自ら王子ジークフリートを演じた。(C)Julien Benhamou / OnP

4年ぶりの、パリ・オペラ座バレエ団来日公演。前評判の異常なほどの高まりには、いくつもの理由がある。まずは、2022年12月に就任した舞踊監督ジョゼ・マルティネスが率いる初めての来日公演であるという点だ。自身がオペラ座に2011年まで在籍したスターであり、日本でも人気は高い。退団直後から母国スペイン(現在はフランス国籍)の国立ダンス・アカデミーの芸術監督を2019年まで務め、カンパニーを率いる手腕も示した。

振付家としての実績もあり、現役ダンサー時代の2005年にオペラ座バレエ学校に『スカラムーシュ』を提供、2008年にオペラ座バレエ団のために振り付けた『天井桟敷の人々』で、名誉あるブノワ賞を受賞している。団員からの信頼も篤い舞踊監督として1年を経過した姿で、日本のファンの前に立つ。

もうひとつのニュースは、日本人として初めてオペラ座バレエ団のエトワールに上り詰めたオニール八菜が、初めてバレエ団とともに来日することだ。バレエファンならよく知っていることだが、オペラ座には完全なピラミッド構造の階級システムがあり、現在150名超のダンサーの頂点には男女18人を限度とする「エトワール」が君臨する。ほとんどの団員はオペラ座に付属するバレエ学校から限られた枠の団員に採用され「カドリーユ」「コリフェ」「スジェ」「プルミエール・ダンスーズ(男性はプルミエ・ダンスール)」の順に昇格審査を経て、エトワールに任命される日を待つ。

日本人の母とニュージーランド人の父(伊勢丹ラグビー部で活躍したスクラムハーフのクリス・オニール)を持つオニール八菜は、ニュージーランドとオーストラリアのバレエ学校で学んだ。オペラ座バレエ学校を経ずに外部からの入団オーディションでシーズン契約を勝ち取った、オペラ座では異色の経歴の持ち主である。実力でダンスーズ・プルミエールまでスピード昇格を果たすも、エトワールは前舞踊監督のもとで7年待たされた。“その日”がやってきたのは3月2日のことだ。終演後カーテンコール時の満場の観客の前で、就任まもない舞踊監督らから、サプライズなエトワール任命が行われた。

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エトワールらはもちろん、コール・ド・バレエの群舞も『白鳥の湖』の見どころ。パリ・オペラ座バレエ団の実力を見せつける一糸乱れぬ群舞は必見。(C)Yonathan Kellerman / OnP

その後オニール八菜は、7月に小さなグループによるガラ公演のために来日したが、今回は自らがエトワールであるバレエ団と一緒に全幕ものを踊ることになる。パリ・オペラ座では12月30日にイリ・キリアン作の『Stepping Stones』で踊り納め。1月18日にはヨウジヤマモトの2024-25秋冬メンズコレクションのランウェイに、映画監督のヴィム・ヴェンダースと腕を組んでモデルとして登場するなど、華やかな話題を提供している。

同時に来日するダンサーたちも必見の顔ぶれだ。女性エトワールではドロテ・ジルベール、パク・セウン、ヴァランティーヌ・ コラサント、ミリアム・ウルド=ブラーム、リュドミラ・パリエロ。男性エトワールはマルク・モロー、ジェルマン・ルーヴェ、ギヨーム・ディオップ、ユーゴ・マルシャン、マチュー・ガニオ、ポール・マルク。日本でも名の知れたベテランから、エトワール昇格からまだ日の浅い若手までが揃う。

オペラ座のエトワールは42歳定年制であり、ミリアム・ウルド=ブラームは今年5月18日がアデュー(さよなら)公演、マチュー・ガニオ、 リュドミラ・パリエロ、ドロテ・ジルベールも2年のうちにアデューを迎える。Pen本誌の長年の読者であれば、マチュー・ガニオが過去2回(2007、2008年)、エルメスを着るモデルとして紙面に登場したのを覚えているかもしれない。圧倒的な人気を持つそのマチュー・ガニオも、引退が近い。今回の公演が必見となる大きな理由でもある。

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王子を翻弄する黒鳥(白鳥オデットとひとり二役)と、黒幕である悪魔のロットバルト。巧みな構成と華麗な衣装が、重厚な物語と圧倒的なダンスを引き立てる。『白鳥の湖』なんていまさら、と思っている人ほど薦めたくなるのがヌレエフ版であり、パリ・オペラ座バレエ団だ。(C)Yonathan Kellerman / OnP

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『白鳥の湖』とともに、日本で初披露となる『マノン』も上演

今回の来日は演目がまた興味深く、ルドルフ・ヌレエフ版の『白鳥の湖』全4幕と、ケネス・マクミラン振付の『マノン』(全3幕)である。ヌレエフ版『白鳥の湖』は、ありがちな子供向きの甘さをいっさい廃した大人のバレエだ。王子ジークフリートの内面世界を深く掘り下げ、単純な勧善懲悪に寄ることなく、高いテンションで物語を引っ張っていく。一方で要求されるテクニックは異常なほど高く、ジークフリート役は一連の公演後には消耗のため、相当期間の休養が必要とまで言われる。オデット・オディール二役を演じる主役の女性ダンサーの見せ場も多く、オニール八菜が初日を含め2回踊るのは大注目だ。

2023-06-HIST-Loboff-1223_HISTOIRE-MANON_K.-MacMillan_M.-Ould-Braham-M.-Ganio-(c)-Svetlana-Loboff-OnP_web.jpgマノン』の原作は、約300年後のいまも読み継がれる、アべ・プレヴォーによる永遠の傑作。若く純真な騎士デ・グリューと、その恋の虜にして道を誤らせることになる、絶世の美少女マノンの出会いから物語が始まる。(C)Svetlana Loboff / OnP

『マノン』(パリ・オペラ座でのタイトルは『L'Histoire de Manon』。パリ・オペラ座ではオペラ作品の『マノン』もレパートリーにしている)の全幕も、日本でのパリ・オペラ座バレエ団による初披露となる。原作はアベ・プレヴォーによるフランス・ロマン主義小説の傑作『マノン・レスコー』。男を破滅させる運命の女(ファム・ファタル)の代名詞的な“マノン”のルーツを、マクミランが20世紀を代表するグランド・バレエに仕立てた。初演は英国ロイヤル・バレエ団だが、パリ・オペラ座は1990年にはレパートリーに加えている。しかも主役のデ・グリューはマチュー・ガニオの当たり役であり、日本贔屓の彼が日本で踊ることを熱望していると伝えられていた作品だ。

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バレエだけでなくオペラでも同じ原作による『マノン』が世界各地で上演されており、どちらも作曲家マスネの音楽が使われているが、それぞれ楽曲は異なる。オペラのほうを観た経験がある人も楽しめるだろう。(C)Svetlana Loboff / OnP

パリではこの『マノン』を昨年6月から7月にかけて上演しており、日本で踊る3組のペア(ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャン、ミリアム・ウルド=ブラームとマチュー・ガニオ、リュドミラ・パリエロとマルク・モロー)は、いずれもその時と同じカップル。名演を、息のあった主役たちが再現する。

日本で観られる、そのままのパリ・オペラ座バレエ団。残席もわずかとなっているので、待望の日本公演をぜひその目で確かめてほしい。

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マノンは浪費と不貞により男を滅亡させる魔性の女性でありながら、実は純粋でまっすぐな気性。18世紀フランス文学が生み出した至高のキャラクターは、パリ・オペラ座バレエ団の名演でより引き立つ。マノン役の3人のエトワールによる競演も興味が尽きない。(C)Svetlana Loboff / OnP

 

パリ・オペラ座バレエ団 2024 年日本公演

公演日:『白鳥の湖』2月8日〜11日、『マノン』2月16日〜18日
会場:東京文化会館
TEL:03-3791-8888
www.nbs.or.jp