フォルクスワーゲンがめざす「ラブブランド」とはなにか、「ID.2all」が示すもの

  • 文:小川フミオ
  • 写真: Volkswagen AG
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Love Brand。フォルクスワーゲンがいま目指している自動車ブランドとしてのありかたは、まるでひとのように愛される”ラブブランド”なのだそう。そこがおもしろい。

いい証明が、いま同社が準備中の新型車「ID.2all(アイディーツーオール)」。世界中のフォルクスワーゲンファンに向けて、「VWはもっとも愛される量産車ブランドであるべきだというのが結論です」(ID.2allのプロモーション用ビデオより)とメッセージを送っている。

 

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新世代のフォルクスワーゲンEVであるID.2allは人間的なフロントマスクにすることを心がけたという。(写真:筆者)

 

「ID.2allはいま、フォルクスワーゲンになるべく開発の過程です。本当のフォルクスワーゲンになるには、マチルダとかリリーとか、あるいはたんにバグ(カブトムシ)とか愛称をつけられたり、分解されて好き勝手に改造されたりしなくてはなりません。どんな技術を使っていても、ひとが中心にいなくてはフォルクスワーゲンにならないのです」

このビデオは、今回、ID.2all(コンセプトモデル)のインテリアをジャーナリスト向けに公開したコペンハーゲンの会場で、VW乗用車部門でヘッドオブデザイン(デザイン統括)を務めるアンドレアス・ミント氏が見せてくれたもの。

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コペンハーゲンにおいてID.2allのデザイン開発の途中経過をジャーナリストに説明するアンドレアス・ミント氏。

 

クルマは、少なくともVWの製品は、乗るひとが好き勝手にぐちゃぐちゃにしてこそ、密な関係が構築できるもので、そうなってこそ、ブランドへの愛が育まれるのだという。昨今のVWはそこをおろそかにしてきたきらいがある、とはミント氏の言葉だ。

デザイン上の特徴は、「ライカブル likeable」と表現される。多くのひとに好かれる外観が、真のVW車にとっては大切なんだそうだ。そのため「笑顔のようなフロンマスク」をデザインすることに心を砕いたという。

「ほとんどこのカタチで量産車されます」とミント氏が言うID.2allのコンセプトモデルを眺めると、たしかにデザイナーが狙ったような人間的な雰囲気が感じられる。これまで高い人気を得たVW車に必須の条件がこの”雰囲気”だったとか。

 

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タイヤは四隅に配されリアクォーターピラーは太い。

 

全長は4mそこそこしかないけれど、大きなタイヤがボディ四隅で踏ん張っていて、しっかりした走りを期待させる。これもVW車のデザインにとって重要な要素なのだとミント氏。

そしてもうひとつ、私が今回、インテリアをじっくり眺めて感じたのが、秀でたパッケージングだ。ID.2allは先述のとおり全長は短いけれど、ピュアEVの前輪駆動というドライブトレインのメリットを活かして余裕ある室内空間を実現。さらにハッチゲートを開けたときのトランクの大きさは驚くほどなのだ。

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荷室は床が2段になっていて、燃料タンクをもたないぶんかなり深い(2リッター程度の瓶が3ダース入る)。

 

扱いやすいサイズでいて、いっぽうで、大勢で乗れて荷物も積める。それこそ若いひとから家族、それにビジネスで使うひとにいたるまで、多くの層からVW車が重宝がられてきた理由だと、私は再認識した。ゴルフだってポロだってパサートだって、パッケージングのよさには感心するばかりではないか。

 

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リサイクル素材を使いながら質感を追求したインテリアにはブルーのアンビエントライト。

 

もちろん、デザイン面からみたインテリアの出来も、特筆もの。「できるだけ造型はシンプルに、ただし素材や色合いには凝って、をコンセプトにデザインしました」とは、インテリアデザインをまとめたダリウス・ワトラ氏の言葉だ。

必要な物理的スイッチを残しつつ、操作類はなるべく数を省いたのがダッシュボードのテーマ。ファブリックのようなよい感触の素材を張ったうえに、調光式アンビエントライトによって、全体的に落ち着いた品のよさが感じられる。

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シートのデザインはシンプルでかつ美しい。

 

シートの造型も私がおおいに気に入った点。ジャスパー・モリスンがかつてカペリーニ社のために手がけた「PAD」チェアを連想させる、背中や座面のクッション部分だけが膨らんだシンプルで機能的で、そして美しい形状だ。

そうそう、と私は思った。すぐれたパッケージングと扱いやすいサイズ。それに、なんとなくディーター・ラムス時代のブラウンとの共通性を感じさせるいい意味での機能性。デザイン的には、これらがVWを構成している重要な要素である。ID.2allにはそれがあるようだ。

 

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後席シートの座面を跳ね上げると大きなモノ入れ。

 

さらに、「ラブブランドにとって重要」とミント氏が言うのが「シークレットソース」なる要素。私たちの知っている日本語に置き換えると”遊び心”がふさわしいかもしれない。

「ここを見てください」。ミント氏に誘われるまま、ID.2allのコンセプトモデルの車内に入って、運転席に腰を落ち着けると、ミント氏はセンターコンソール上のダイヤルを操作。すると、私の眼の前の計器盤の表示が変わった。

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センターコンソロールのダイヤルに表示されているのは初代ビートルで用いられていたウオルフスブルグ(VWの本社がある)の紋章。

 

当初は主要な情報のみの機能的な表示だったが、ミント氏のダイヤル操作に合わせて初代ビートルを思わせる速度計の表示に変わった。もう一回、ミント氏がダイヤルを回すと、つぎは初代ゴルフ・カブリオレを思わせるデザインになったのだった。アイコン的なVW車を連想させるものである。

 

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ウオルフスブルグのアイコンを選択すると初代ビートルふうのメーター表示になるのが遊び心。

 

「これで決定というわけではないですが、このアイディアを私は気に入っています。デジタル技術はほかのシークレットソースにも使えるので、この先、モニターのサイズを含めて、もう少し検討を重ねていくつもりです」

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ゴルフの初代カブリオレの計器盤を連想させる表示も可能。

 

ID.2allは、このさき煮詰められていき、25年後半に発表されて、欧州で26年から販売が開始されると、コペンハーゲンでの発表会で、本社の広報担当者は語っていた。価格は2万5000ユーロ以下とのことで、そこもフォルクスワーゲンの”よき伝統”を守ろうというのだろう。

 

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インフォテイメントシステムのモニターはカセットデッキ(ふう)のオーディオコントローラーやメモふうのメッセージなどの表示も考えられている。(写真:筆者)