街の発展を象徴するかのように、高層ビルやデザイン性豊かな建築が林立するバンコク。この地ならではの特徴とそれらがつくられる背景を建築専門誌『art4d』のメンバーに訊いた。
Pen最新号は『バンコク最新案内』。再開発が進み、新たな価値を創造するタイの首都・バンコク。本特集では、各分野の最前線で活躍するキーパーソンに話を訊くとともに、訪れるべき旬のスポットを紹介。驚くべきスピードで進化を続けるバンコクには、「いま」しか見られない姿がたくさんある。
『バンコク最新案内』
Pen 2024年2月号 ¥880(税込)
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寺院や市場の間から個性的なハイタワーが顔をのぞくバンコク。チャオプラヤー川沿いには「ザ・サイアム・ホテル」や「カペラ・バンコク」など高級ホテルが集まり、プロムポン駅前には新しいモール「エムスフィア」が完成。郊外には高級コンドミニアムも続々登場するなど、再開発はとどまることを知らない。ビル・ベンスリーやオーレ・シェーレンといった著名建築家の設計も見られるバンコクの街並みを、タイ発の建築&デザイン誌『art4d』の編集者はどう見ているのか。
「バンコクの発展の様子は、他の国と比較しても、少し特殊な例かもしれません。日本ならば東京以外にも大阪や名古屋というように、首都とともに地方都市も着実に開発されるものですが、タイの場合、バンコクだけが別格。第2の都市、チェンマイに高層ビル群はなく、街としての機能にも雲泥の差があります。バンコクは政治経済だけでなく、文化的求心力がある。この事実こそが、再開発の原動力になっています」
さらに、バンコク建築の独創性には、行政的な理由も大きく関係していると続ける。
「この街には、政府や自治体が定める具体的な都市計画がありません。行政がしないなら、自分たちで環境をアレンジしようという気概であふれている。だからこそ、『キングパワー・マハナコーン』のようにギリギリの線を目指す大胆な建築も生まれるのでしょう」
そのクリエイティビティは、独自にカスタマイズされた屋台のデザインにも顕著に表れる。豊かなバリエーションは、多様に進化を遂げる街の縮図のようだ。
予測不可能な状況に随時対応していく適応性の高さや柔軟な姿勢があるとはいえ、モンスーン気候に生きる人々にとっては、年間を通じて高温多湿な環境の中で、快適に過ごす機能も重要だ。
「建物内に中空部をもたせつつ、意識的に日陰をつくったり、通風をよくしたりする建築も最近では多くなりました。これは環境への意識の高まりともいえます」
「ジム・トンプソン・アートセンター」は、その最たる例。今後、この街はどう成長していくのか。彼らは少し悩ましげに答える。
「日本のような整備された都市を目指すのであれば、大きな政治判断と行政による管理が必要です。でもそうすると、この街がもつ多様で寛容な感覚が失われてしまう可能性もあります。タイ人がよく口にする“マイペンライ(あまり考えすぎず、気にしない)”の精神で、バンコクは新旧が混在する“ビューティフルカオス(美しい混沌)”をたたえる街のままでいてほしいですね」
そう考える彼らとともに、バンコク建築の可能性を示す7つの施設を巡ってみた。
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『art4d』
アート・フォー・ディ
左から、エディターのガート、マネージング・ディレクターのキム、そして共同創業者であるプラターン。
https://art4d.com
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キングパワー・マハナコーン
設計:オーレ・シェーレン 竣工:2018年
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変貌する街を象徴する、独創的なハイタワー
地上78階、高さ314mの高層タワーは、三次元ピクセルが崩れたような、独自のシルエットを描き出す。まるで立体バズルゲームをも彷彿とさせるビルのデザインは、変化と成長を続けるバンコクの街並みを象徴するようだ。中央部では、DNAの配列を思わせる螺旋状の凹凸がタワーのまわりを巡り、角度を変えるごとにビル自体が動いているようにすら見える。屋上には、360度のシティビューをかなえるオープンデッキのほか、ガラス床から真下をのぞき込めるアトラクションもあり、観光スポットとして行列ができるほどの人気ぶりだ。
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地場の伝統素材を、現代風にリデザイン
ジム・トンプソン・アートセンター
設計:デザイン・クア 竣工:2021年
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環境に配慮した、モダンな美術施設
高気密な現代建築は空調設備に頼るところが多く、大気汚染や地球温暖化の原因にもなる。高級シルクメーカーを母体とする美術施設は、タイの美しい自然と文化を活かしつつ、いかに過ごしやすく環境負担の少ない空間ができるかを、バンコクの建築事務所、デザイン・クアとともに考えた。結果、コンクリートや鉄骨だけでなく、タイで伝統的に建材として使われてきたレンガや竹を現代的にアレンジして採用。さらに建物中央を中空にして外気を取り入れ、日除けを効果的に配置することで建物全体の7割でエアコンを使わない空間を実現した。
ザ・コモンズ・サラデーン
設計:デパートメント・オブ・アーキテクチャー 竣工:2020年
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赤い三角屋根が連なる、コミュニティスペース
フードコート形式でカジュアルな食事が楽しめる22店舗が入る複合商業施設。近くにあった鉄道の駅舎が赤い波板の切妻屋根だったことを受け、地域の風景に馴染むようにデザインされた、赤い三角屋根が目を引く。また、地域の人々が気軽に立ち寄ることができる場所を目指し、内と外をつなぐ大きなセミオープンのアトリウムを中央に設け、風通しと採光を確保。ステップフロア式に上下階をつないでいる。赤と透明の波板をボーダー状に配することで、外光を建物内部に適切に取り込みながら、ポップで若々しい印象を全体に与える。
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人目を惹きつける、雄大で大胆な構造美
セントラルエンバシー
設計:AL_A 竣工:2017年
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天へと伸びゆく、有機的なフォルム
6層のモールと40階建てのホテルというふたつの構成要素をシームレスにつないだ有機的なフォルム。ファサードのデザインは、タイの寺院の屋根のかたちをモチーフにしたもの。上から見ると無限マーク(∞)のような構成は、屋根から適切に陽光を取り入れるためのもの。外壁に施した30万枚のアルミパネルが建築のダイナミズムを強調するとともに、刻々と変化するバンコクの空と街の様子を映し出し、風景に自然と溶け込む効果を図っている。
アップル・セントラルワールド
設計:フォスター+パートナーズ 竣工:2020年
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片持ち梁で実現した、ガラス張りの市民の広場
セントラルワールド広場南端にあるアップルストアは、直径25mほどの円筒形をした全面ガラス張りの2階建て。大きな木が人々を守るような空間は、中央の円柱から片持ち梁を出すことで、内部に大きな吹き抜けを実現したもの。BTSチットロム駅と直結する2階からアクセス可能で、中央の柱に沿うようにステンレス製の階段が上下階をつないでいる。床から大天井へと伸びるヨーロピアンホワイトオークとのコントラストもいいアクセントに。
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ローズウッド・バンコク
設計:KPF 竣工:2018年
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機能的な切り分けで、タイ式挨拶を表現
プルンチット駅前にある30階建ての5つ星ホテル。迫り出したテラスが連なる中央棟を、斜めに切り出したタワーが挟むそのかたちは、両手を合わせてお辞儀をするタイ式挨拶“ワイ”の姿を建築的に表したものだ。現代的な建築要素を守りつつ、来客に対する歓迎の意を構造で示している。両端の迫り出しは、客室と共用部を機能的に切り分けるとともに、隣接する建物からの視線を遮ることで、プールやレストラン、バーのプライバシーを確保する。
SACギャラリー
設計:A49 竣工:2012年
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作品を守る岩壁の、天地を貫く大胆な亀裂
日本人街として有名なスクムビット地区にある、地上4階建ての現代美術ギャラリー。大切なものを表す「岩の中の卵のように」というタイの言い回しを建築的に表現。建屋中央の亀裂のモチーフが岩石を彷彿とさせながら、その開口から室内に明るい外光を取り込む機能性を付加している。また、この中央部は複数の展示室をつなぐ通路の役割も果たす。来館者が鑑賞の合間に窓の外を眺めつつ、ひと息つくスペースにもなっている。
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