2023年の思い出に残るクリエイションを振り返る【前編】
TRIP#13 YOSHIROTTEN

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    グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

    この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

    YOSHIROTTENの活動が、国内外へとより広がった2023年。YOSHIROTTENのアートプロジェクトをサポートするノリと一緒に、今年の思い出に残るできごとを前半・後半にわけて振り返る。

    まず前半では、春にアートディレクションを手がけたエルメスによるイベント「SPLASH TOKYO」、4月に発表した山下達郎による「SPARKLE」のMV制作に込めた熱い想いを語る。つづく後半では、新作インスタレーションを発表した「Jennie for Calvin Klein」をきっかけに遊びに行った韓国の思い出、秋に軽井沢で開催された野外イベント「EPOCHS」、キュレーションを行ったジョニーウォーカー ブルーラベル​​による一夜限りのイベント「「“Be It” curated by YOSHIROTTEN by GQ HYPE in collaboration with Johnnie Walker Blue Label」」について話す。

    —— 今年だけでもさまざまなプロジェクトが目白押しでしたが、まずは春にはエルメスによる2023年春夏メンズコレクションの世界を体感できるイベント「SPLASH TOKYO」が開催されました。


    YOSHIROTTEN:エルメスが7年ぶりに日本で行うメンズのショーでした。パリで行われた2023 SSのコレクションをベースに、東京バージョンにアレンジされています。ゆったりとした都会的なリゾートで夏を過ごすようなとても気持ちのよいコレクションの印象を受けて、これをどうやったら伝えられるかをひたすら何ヶ月も考えていましたね。ロゴやインビテーションのデザイン、空間デザインや映像演出まで、色々トータル的に関わらせて頂きました。

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    ノリ:まずはファッションショー、そこから食とDJとライブ、フランスから来たダンサーたちのパフォーマス。盛り沢山で、今年の夏の思い出になったなー。食事が美味しくていろいろ食べるのも楽しかったな。僕はこのプロジェクトには関わってなかったので、100%お客さんとして楽しみました。


    YOSHIROTTEN:そう。ショーの会場のすぐ横に、巨大なプールパーティーの会場をつくって。ここではパリから来たアーティストたちのダンスパフォーマンスや日本人だとオリジナルラブの田島さんとOovalの演奏があったり、花火が打ち上がるサプライズもあったり。エルメスはいつでも驚きやファッションの楽しさを与えてくれる素晴らしいブランドだと思う。


    ノリ:サウンドシステムのクオリティが高くって、あの環境で瀧見憲司さんのDJが聴けたのがよかったな。田島さんの「接吻」を聴き終わって、その気持ちのまま帰りたくて会場を出ました(笑)

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     —— 会場ではライブ、パフォーマンス、ショーなど盛りだくさんに行われていました。もともとの建物からどのように変化させていたのでしょうか?


    YOSHIROTTEN:もともと建物はなにもなくて、テントのようなものをつくったんですよね。80〜90年代にフランスでプールをモチーフにしたクラブがあって、そこをリファレンスにしながら形にしていきました。会場にちりばめたカラーパレットは、コレクションの中から選んで。照明もコレクションの柄をモチーフにしていますね。プールなのでシャワー型の照明もつくりました。


    ノリ:ハードもソフトも、隅々までつくり込まれてましたね。細かいところまでアイデアが詰まってて、スケールが大きかった。

    YOSHIROTTEN:自分史上最大級の空間デザイン、アートディレクションでした。

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    —— その後、今年春のビッグニュースとして、山下達郎さんのアルバム『FOR YOU』に収録される代表曲「SPARKLE」の最新MVに関わることに…。どのようなタイミングで話があったのでしょうか?

    山下達郎「SPARKLE」Music Video (2023)


    YOSHIROTTEN:まさにこの連載で、どうやって出来たかを喋ろうと思ってました。最初、YARのディレクターの我妻に連絡が来て「ヨシロー、山下達郎さん好きでしょ?」ってことで。普段、コンペはほぼ受けていないんですけど、「 SPARKLE」のMVが40年の歳月を経てオフィシャルに世に出ること自体、ファンとしてとんでもない大事件だ! と思って。1月末に話がきて、期日まで1週間もなかったんですけど、自宅でレコードに針を落として。2回聴いたときにパアッと企画書のアイデアが思い浮かび応募しました。


    ノリ:このプロジェクトにも僕は関わっていないけど、ちょうど国立競技場の大型車駐車場で開催した「SUN」と同じタイミングでの制作だったの覚えてる。


    YOSHIROTTEN:そうだね。忙しかったけどやりたかったのでがんばりました。映像で2人の男女のダンサーが出演しているんだけど、これも企画書の段階では2つの別々な案だったところを最終的に合わせ技でいきました。キャスティングも考えたんですけど、ディレクターに黒柳勝喜くん、ダンサーのSORAKIくんとMisa Sugiyamaさんを迎えて。SORAKIくんはまだ19歳なのに「SPARKLE」がすごい好きで、本番で即興でダンスを考えてくれた。ちょうど世界チャンピオンになって話題のタイミングで、Misaさんは元シルクドソレイユの水中ダンサーで、あんなパフォーマンスをできる方はなかなかいません。本当に素晴らしい映像になりました。

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    ノリ:たしか、SUNの初日レセプションが撮影と被ってたんですよね。

    YOSHIROTTEN:僕は行けないから我妻に任せたんだけど、その日はMisa Sugiyamaさんが水中で踊るシーンを撮影してた。吉田美奈子さんが書いてる「SPARKLE」の歌詞の冒頭に、「七つの海から」ってフレーズがあるんだけど、歌詞を見てないと「真夏の海」って聞こえるんですが本当は七つの海って言ってて。

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    ノリ:そんなノリで聴いてた気がする。


    YOSHIROTTEN:一切夏のことは歌ってないのに、同時期に「SPARKLE」が夏にビールのCMで起用されていたことも相まって、その印象が強いと思うんだよね。今回は、歌詞から想起させて「七つの海」を七色の海と解釈しながら、Misa Sugiyamaさん演じる女神が一晩で奇跡を起こして七色に彩られた海の物語を考えた。

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    ノリ:俺は達郎さんは真夏のOPPA-LAとかクラブで聴いてハイライトになったり、たまたまライブ行ったくらい。ヨシローくんはしっかりファンですよね(笑)


    YOSHIROTTEN:そうだね。ライブも過去に5回くらい行ってて。最初は2010年の沖縄、その後氣志團万博に、もはや山下達郎さんだけを見に行って。19年の自分の誕生日には、先輩からプレゼントとしてもらったチケットで小樽でのアコースティックライブを聴いて、最近だと去年の大阪のフェスティバルホールに。どのライブもほとんど一曲目が「SPARKLE」だったことも印象深くて。

    やっぱずっと達郎ミュージックがずっと好きだったし、僕の行きつけのバーではいつも伝説のライブ盤「JOY」をかけてくれる最高なマスターがいて、この仕事が決まったときには喜んでくれてとても嬉しかったですねえ。

    だからこの仕事は、全力で自分の描いたイメージを形にすることに取り組みました。けど楽曲のイメージは人それぞれに解釈するものだし、いちファンのいち解釈だと思っていただけたら嬉しいんだけど、とにかく最後の納期まで何度も色へのこだわりと編集を粘りました。

    こんな海に飛び込みたいですね、 

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    アーティストYOSHIROTTENの「TRIP」 

    連載記事一覧

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


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