なにも足さずに満足できる、“常備酒”の条件が揃う黒糖焼酎【プロの自腹酒 vol.14】

  • 文:西田嘉孝
  • 写真:榊 水麗
  • イラスト:阿部伸二
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富田酒造場/龍宮 蔵和水

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鹿児島県・奄美がアメリカの占領下にあった1951年の創業以来、540ℓの大甕(おおがめ)での仕込みなど、伝統的な手法で黒糖焼酎をつくり続ける富田酒造場。豊潤な香味が評判の「龍宮」で知られる蔵元だが、この「龍宮 蔵和水」は「龍宮」を蔵の仕込み水で馴染ませながらアルコール度数を12度まで落とした黒糖焼酎。余韻の最後に黒糖の風味が残る。ストレートやロック、燗などさまざまなスタイルで楽しみたい。1800㎖ ¥2,390/富田酒造場 TEL:0997-52-0043

新宿ゴールデン街にあるレモンサワー専門店「OPEN BOOK」に続き、「飲めて楽しめるレモンサワー工場」をコンセプトとした「OPEN BOOK破」を2023年に新たにオープン。レモンサワーブームの仕掛け人として知られる田中開さんにとって、基本的に酒は店で飲むものだ。「家でひとり飲みはしませんが、しょっちゅう誰かが遊びにくるので、そんな時にはいい酒を飲みたい。そこで“常備酒”として置いておきたいのが焼酎などの蒸留酒。ワインなどの醸造酒は早めに飲み切らないとダメになりますが、蒸留酒なら気にせず置いておけますからね」

そう話す田中さんの“常備酒”が、鹿児島県・奄美大島最小の黒糖焼酎蔵、富田酒造場の「龍宮蔵和水」。昔ながらの全量甕(かめ)仕込みによる焼酎の原酒を、蔵の仕込み水でアルコール度数12度まで和水調整。日本酒やワインと同様の度数で、生のまま味わいたくなる黒糖焼酎だ。

「レモンサワーのベースに使う酒を探しに行った奄美で出合い、その味わいやつくり手の人柄に魅了されました。グラスに注ぐだけでおいしく飲めるので家飲みにうってつけ。冷やせばキリッとした甘さが楽しめますし、常温で飲んでも、かじった黒糖や沖縄の海の磯っぽさ、奄美の森のじめっとしたニュアンスなどがいい塩梅で感じられます。氷があればロックで飲むのもいいですし、しっかりと甘味や旨味があるので甘いものや料理との相性も抜群です」

合わせるおともは、出汁いなりの名店として知られる海木(かいぼく)の「ほのじ」。田中さんが「旨味の爆弾」と称するこの逸品も、缶詰だからストックしておけるのがうれしいところ。

「家飲みだからこそ、手をかけずとことん気楽に。だけど“おいしいこと”は譲れない」

酒のプロのそんなわがままを叶える、酒好きなら常備しておきたい名コンビだ。

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名店の味を閉じ込めた、常備できる“おあげ缶”

基本的に店頭でのみ販売される、海木の「ほのじ」。特製の鰹出汁でじっくり煮て炊き上げた“おあげ缶”だ。優しい出汁の旨味と甘じょっぱさが、黒糖焼酎の味を引き立ててくれる。

田中 開

1991年、ドイツ生まれ・東京育ち。早稲田大学基幹理工学部卒。作家の田中小実昌を祖父にもち、2022年に祖父との思い出を綴ったエッセイ『酔っ払いは二度お会計する』を出版。

OPEN BOOK

住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-6 ゴールデン街五番街

※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。