エルメス製品が誇る最高峰のクオリティを支えているのが熟練の職人たちによる"手仕事"であることは、ファッション好きの方であれば皆知っているだろう。
エルメスの全従業員数は世界で約2万600人、そのうちの4分の1以上、7000人が職人であるという(2023年6月30日時点)。そして、その技術を伝承するため、経験豊富な職人たちの卓越したノウハウを伝える研修が日々行われている。
11月某日、エルメスにてその職人技の片鱗を体験できるワークショップが開催された。
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ミリ単位の誤差が仕上がりを左右する、繊細な作業
エルメスのユーザーやメディア向けに開催をしているというこのワークショップ。今回講師を担当したのは、時計部門のレザー職人であるイザベル・リヴィエールさんだ。フランス・リヨンにあるエルメスの工房に入社して以来35年間、靴や鞄、革小物など、レザー一筋でキャリアを築いてきた熟練者である。
「本日のワークショップを通して、みなさまに楽しいひとときを過ごしていただきたいと思います。難しかったり、困ったりした際には私がおりますので、ぜひ気軽に質問してください」とオープンな雰囲気でスタートした。
参加者が体験したのは、時計の文字盤に見立てた円形のレザーに、ミリ単位の細かなパーツをはめていくという作業。配置を指示する設計図をもとに、1から12までのパーツをピンセットで掴み、指定の場所に置いていく。
各パーツを固定するために、まずパーツの裏に爪楊枝で水のりをたっぷりつけてから指定の場所に載せ、ずれないようにギュっと固定していく。作業としてはシンプルだが、置く場所が少しでもずれるとすべてのパーツがはまらなくなるため、一つひとつ注意深く作業をしていくことが大切だ。
ちなみに実際の職人が作業する際はこうした設計図はなく、パーツのサイズもさらに細かなものとなるそう。
なんとかすべてのパーツを貼り終えたら、最後は両サイドにタッセル付きの紐をつけて完成。そして、紐を掴んで回転させるみると……。
ウサギの姿が浮かびあがってきた。実は円形レザーの裏面にも同じ絵柄が入っており、2つ合わせるとウサギの顔になるという仕掛けだ。これは「ソーマトロープ」と呼ばれる、17世紀のイギリスで考案されたと言われる玩具である。
エルメス年間テーマである「驚きの発見」を感じられるものにしようと、このソーマトープを思いついたという。ウサギの絵柄にした理由は、2023年の干支に因んで。
いまも現役の職人として活躍するイザベル・リヴィエールさんは、実際に工房でも技術指導を行なっているが、「ただ一方的に指導をするわけではない」というところにエルメスの強みがあると話す。
「私がスイスの工房にいたときは、革のブレスレットのつくり方を他の職人から教えてもらいました。一方で私からは別の技術を提供しました。職人同士のノウハウの交換、そうした人間関係を構築していける環境があります。工房はいつも和気藹々としていて、賑やかですよ」
初めての作業とだけあって、各自黙々と集中して作業する時間も多かった今回のワークショップだが、終了後には確かな達成感を感じることができた。エルメスのマニュファクチュールの世界を体感できる、貴重な体験となった。
●エルメスジャポン
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