トヨタやったなあ、と感心したのが、2022年からスタートした新型クラウンシリーズの展開。4つのバリエーションのうち、もっともスポーティな「クラウンスポーツ」をドライブして、作り分けのこだわりにも感心してしまった。
2023年12月にドライブしたのは、10月から受注が始まったクラウンスポーツHEV。とてもいい勢いで受注が伸びているんだそうだ。
ブランドと、作りこみの質感と、デザインと、走りの楽しさをアピールするモデルだけに、好調と聞くと、なるほどと思う。
クラウンスポーツは、SUVというわりに、車高をやや抑えて、ボディの長さを強調したスポーティなルックスが特徴的だ。加えて、大きく張り出したリアフェンダーが眼を惹く。
視覚的に大きなポイントになるリアフェンダーについては、成型にとても苦労しました、とエクステリアを担当したトヨタのデザイナー氏が教えてくれた。
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後席用ドアからリアクォーターにかけて、かなり立体的な造型で、たしかにこれをプレスマシンでぼんっと抜くのは、かなりたいへんな作業だったろうと想像される。
おかげで、とても走りがよさそうな印象で、凝縮感のあるフロントから、ぐるりと側面を回ってリアにいたるまで、クラウンスポーツは躍動感に満ちあふれている印象だ。
大径の21インチタイヤと組み合わされたタイヤの存在感も大きい。タイヤを収めるために、おかげで床面が高くなったほどだ。
もうひとつ、特徴的なのはインテリアデザイン。アイランドアーキテクチャーと名付けられた、ドライバーのいるコクピットと、助手席とを機能的に明確に切り分けたデザインが採用されている。
ドライバー席を機能的にデザインするのは、BMWがセントラルテーマとして始めたものだが、トヨタは、現行プリウスから、新しい解釈によるアイランドアーキテクチャーを展開している。
とりわけ、色の切り分けがおもしろく、たとえば、サンドブラウンと呼ばれる内装色では、ダッシュボードとドア内張りが左右で明確に色分けされているのが顕著にわかるほど。
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走りのほうも、「クラウンでありながらスポーティ」をめざした、とクラウンスポーツの走行性能を担当した技術者は語る。
2.4リッターガソリンエンジンが前輪、モーターが後輪を駆動する、トヨタ車を知っているひとならおなじみの「E-Four」は、ごく低速域からぐーっと太いトルクでクルマを加速させていく。
感心するのは、サスペンションシステムの設定だ。担当者が言うように、ちょっと締め上げているかんじはあるけれど、そこはクラウンシリーズに属する1台。硬い、という印象はない。
カメラからの情報を使い、直進時は操舵力を重めにし、カーブに差しかかると、サポート量を増やしてすっと気持ちよくハンドルが切れることをめざした「PDA(プロアクティブドライビングアシスト)」も、いい働きをしてくれる。
さらに「DRS(ダイナミックリアステアリング)」という後輪操舵システムも搭載される。速度域に応じて、高速では前輪が向くのと同じ方向に(角度は違うが)後輪を向け、走行安定性を狙う。
いっぽう、街中の小さな四つ角や、コインパーキングなど、狭い場所を低速で動くときは、前輪とは逆位相、後輪を反対方向に角度をつけることで、ホイールベースが短くなったのと同様の効果を出し、取り回しをよくしている。
といっても、極端な動きはなく、いたって自然。一時期、ドイツ車のなかには、操縦しづらいと感じるほど、大きな角度で後輪が動くものがあったけれど、いまは世界的にナチュラルな動作へと向かっている。クラウンスポーツも同様。
乗り心地は特筆点で、適度に締め上げられていて、神経を集中していると、高速ではほかのクラウンシリーズよりやや硬めに感じられるものの、路面からの突き上げはなく、快適だ。シートのクッション性も貢献しているだろう。
同時に、段差ごえなどの身のこなしのよさは驚くほど。たとえば、コインパーキングから歩道を横切って路上に出るとき、段差がいくつもあるけれど、揺れもショックをほぼゼロのまま、進んでしまう。
このあと、PHEV(プラグインハイブリッド)モデルも追加されるというクラウンスポーツ。王道のようでいて、「いままで同じ市場に競合になるモデルが存在しなかった」(トヨタのマーケティング担当者)との言が本当なら、金脈を掘り当てたといえる。
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燃費はリッターあたり21.3キロ。価格は「Z」のモノグレードで、590万円だ。