【独占取材】松本潤が語る、6人のクリエイターとコラボする初の展覧会『PERSPECTIVE ─時をつなぐ眼差し─』に込めた想いとは?

  • 写真:齋藤誠一 
  • 文:小松香里
  • スタイリング:丸本達彦
  • ヘア&メイク:竹内美徳
  • 衣装協力:POSTELEGANT
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建築家・田根剛は松本との丹念な対話の末に、言葉と声と光のインスタレーションを制作した。

松本潤の初の展覧会 『PERSPECTIVE ─時をつなぐ眼差し─』が、六本木ミュージアムで開催中だ。約一年半もの間、大河ドラマ「どうする家康」の主役として徳川家康を演じたことを通して松本潤が得たビジョンを、操上和美、太田好治、岡田准一、井田幸昌、小浪次郎、田根剛という総勢6名のクリエイターが松本潤自身とともに写真、絵、言葉などさまざまなアプローチで表現した。「PERSPECTIVE」という言葉には「透視図法」「景色」「視点」「見通す能力」といった意味があるが、本展はまさに松本とクリエイターの視点が時空を超えて交錯することで、来場者に新たな景色を見せる体験型の展覧会だ。展覧会が始まる2日前、その日の早朝までインスタレーションの細かな調整を行っていたという松本に、独占インタビューを行った。

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家康を演じた松本潤を通した空間や時間を感じてほしい

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松本 潤●1983年、東京都生まれ。1999年に嵐のメンバーとして「A・RA・SHI」でCDデビュー。嵐のコンサートの演出をはじめ、プロデューサーとしても活躍。俳優としては、2023年に「どうする家康」でNHK大河ドラマ初主演を果たす。他、近年の主な出演作品に、映画「ナラタージュ」(17年)、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士」(16年、2018年)、ドラマ「となりのチカラ」(22年)などがある。

──『PERSPECTIVE』展の開催が2日後に迫っています。完成した展示会場を見て、どんなことを感じましたか?

松本 潤(以下、松本) 来ていただいた方にどんな風に受け取ってもらえるかはわかりませんが、やれることは精いっぱいやったので「楽しんでもらえたらいいな」って思います。「どうする家康」を観てくれた方は、一年半の間、家康を演じた僕を通した空間や時間を感じてもらえるとうれしいです。

──そもそも、「家康を演じた一年半を追った写真集をつくるなら、文章を含めて立体的に見せられる場をつくりたい」という発想から展覧会の話が始まったそうですね。

松本 そうですね。一年半という長い時間、携わる作品だからこそ、ずっと追い続けることでなにか見えてくるものがあるんじゃないかと思いました。40歳という節目のタイミングだったこともあり、一冊の写真集にまとめるという企画を出したら話が通り、「せっかくだったら写真集だけでなく、作品が展示されている空間をつくってエンタメ寄りのものにできたらいいんじゃないか」と思ったんです。

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写真家・太田好治とのコラボレーションパートには、松本が徳川家康を演じた約一年半の間に撮られた膨大な数の写真が展示されている。

──まず展覧会は暗闇の中、壁伝いに歩いて行くところから始まりますが、あの演出にはリファレンスがあるそうですね。

松本 なんだと思いますか?

──直島の「家プロジェクト」の南寺を思い出しました。

松本 まさにそうですね。南寺は安藤忠雄さんが設計した昔ながらの日本家屋のような建物の中に入ったら暗闇が広がっていて、(ジェームズ・)タレルの光の作品が体験できます。僕は友人と4人くらいで行ったんですが、それぞれ感じ方が違ったんですよね。僕はその家に暮らしたかもしれない人々の生活を想像したんですが、ひとりの友人は「自分の父親が浮かんだ」と言っていて。暗闇の空間に入れられて、五感のひとつである視覚が遮断されるだけで感覚が鋭くなり、人それぞれ違うイメージが浮かぶという体験に衝撃を受けました。この六本木のど真ん中にある場所で、まず最初にそういったことをやってみたら、どういう風に感覚が研ぎ澄まされるんだろうと思い、提案しました。最初はスタッフの方に「真っ暗にするのは厳しいです」と言われたんですが(笑)、なんとか実現できました。

──暗闇を抜けた先に、操上和美さんの堂々としたポートレートが飛び込んできます。
 
松本 そうです。写真集の制作時から操上さんの作品は「ポートレート1枚だけにしたい」という気持ちがありました。操上さんも了承してくださり、「一発勝負でやろう」という話になりました。

肖像画は、実物のほうが100倍よかった

──操上さんも含めた松本さんが敬愛する6人のクリエイターの方々と一緒につくられた作品が展示されているわけですが、特に驚きや新鮮さを感じた作品というと?

松本 空間としては、岡田(准一)くんの作品の展示空間は、写真集で写真を見るのと展覧会で写真を見るのとではだいぶ印象が変わると思いました。僕自身、展示空間が完成するなかでどんどん印象が変わっていったんです。作品としての話をすると、井田(幸昌)くんに描いてもらった2枚の絵は、事前に写真では見ていましたが、実物を見たらすごくパンチがあって、油絵の具のてかりや厚みといったテクスチャーが感じられたので、「実物のほうが100倍いいな」と思いました。

──家康を演じた姿が肖像画になるというアプローチはなかなかない経験ですよね。

松本 ないでしょうね。「自画像を描いてほしい」ということとはまた話が違いますしね。井田くんも、「松本潤を描くなら簡単だけれど、家康を演じている松本潤を描くにあたってかなり悩んだ」と言っていました。制作過程で何度か連絡をもらって、コミュニケーションを取るなかで絵の方向性が決まりました。僕自身が家康を演じていた時の気持ちは僕の中にしかありませんが、完成した絵を見ると、「こういうことを考えてたんだろうな」っていう風にいろいろと感じるものがありましたね。

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画家で現代美術家の井田幸昌は、松本との密なコミュニケーションを経て、2枚の肖像画を描いた。

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岡田准一のクリエイターとしての魅力

──先ほどもお名前が出てきましたが、「どうする家康」に織田信長役として出演し、松本さんの先輩でもある岡田准一さんがフォトグラファーとして参加されています。岡田さんのクリエイターとしての魅力をどう捉えていますか?

松本 今回の岡田くんは、信長を演じた俳優でもあるしフォトグラファーでもあります。実際、岡田くんに「信長を意識して写真を撮っていたのかどうか」ということは聞いていませんが、「僕が撮影現場でどういう想いでいるか」とか、「役者に対してどういう言葉をかけるとこういう写真が撮れるか」という、役者だからこそわかることを踏まえた上で写真を撮ってくれたなと思いました。撮影の合間の一瞬のセットチェンジの時に岡田くんの方を見たら、「こっちに来て」って言われて、写真撮影が始まったこともありました。その瞬間のお互いの感覚の落としどころを探った上で、写真に納まっていったやり取りがすごく印象的でしたね。多くを語らなくても、「ここに立って」って言われるだけで、すっと入り込める感覚がありました。

──フォトグラファーとしてのオファーは松本さんからされたんですか?

松本 岡田くんは「V6」のメンバーを撮っていますけど、「事務所の後輩をいつか撮ってみたい」ってスタッフに言っていたらしいんです。最初、信長役を断ったにもかかわらず、「信長と家康の関係性を踏まえると、今回の信長を演じられるのは岡田くんしかいない」という僕の強い希望をお伝えしたことで引き受けてもらえたという経緯があったので、「岡田くんにあまりいろいろなことをお願いするのは悪いな」という気持ちが僕の中にはありました。そこでスタッフが、「以前、後輩を撮ってみたいって言っていたけど、松本くんの家康写真集にカメラマンとして関わるのはどう?」と聞いてくれたら、二つ返事でOKしてくれたんです。しかも、自分の撮影がない日もフォトグラファーとして現場に来てくれました。一緒にお芝居をさせてもらっただけでなく、こういう思い出ができたことがとても嬉しいです。展覧会のためにメッセージも書いてくれて、それも展示してありますが、これまで直接言われたことがないような素敵なことが書かれていたので驚いてしまいました。

受け手と“シェア”すること込みの展覧会

──フィナーレを飾る田根剛さんのインスタレーションにも驚かされました。

松本 よかったです。今朝5時まであの作品の光と音の修正をスタッフと一緒にやっていました。最初は立体の展示物をつくるというところから話が始まって、いろいろなディスカッションをするなかで、田根くんから、僕が家康を一年半かけて演じるなかでどんなことを感じたかということを語っている言葉がいちばん響いた、っていう話をされました。そこで、言葉をインスタレーション化するというアプローチが生まれました。

──クリエイターの方たちとコミュニケーションを取りながら、ご自身を軸にしたアートが生まれていくという体験は率直にいかがでしたか?

松本 嬉し恥ずかしでしたね(笑)。「どうする家康」の現場でずっと写真を撮ってくれた太田くんに対しては、「良いところも悪いところも全部撮ってほしい」と思っていたんですが、太田くんはその思いをしっかり汲んでくれたので、お任せしました。一緒になにかをつくることは楽しいですが、主語が自分なのがこそばゆかった。プライベートでも付き合いがある人たちと仕事をするという、こっ恥ずかしさもありました。ただ一緒に遊んで、作品としては失敗しちゃったっていうことには絶対にできないので、 会期直前はかなり集中して取り組んでいました(笑)。「家康」の撮影中に、少しずつ段階を踏んで進めてはいたんですが、本格的に動くのは撮影が終わった後にしてもらったんです。いざその期間に入ってみたら、「週何回、打合せするんだろう?」というペースでずっとやっていました。これまでもものづくりはやってきましたが、ライブや音楽ではなく、展示空間をつくることはあまり馴染みがなかったので、初めての楽しさも難しさも感じましたね。「展覧会をやるのって、こんなに大変なんだな」って思いました。

──YouTubeでのインタビューで、嵐におけるものづくりについて、「つくるものは“物”だけど、その先にコンサートなどがあり、シェアしている感覚があった」とおっしゃっていました。『PERSPECTIVE』展には「受け手とシェアする」という感覚がどう反映されていると思いますか?

松本 そこが今回のミソだと思います。6人のクリエイターの方たちに参加してもらったことで、複数の視点を通過した作品が展示されています。僕がいて、クリエイターがいて、その先に受け手がいるということ込みの展覧会ですよね。受け手とシェアしている感覚というのは、この展覧会にも反映されていると思います。

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アートは想像力の大もと

──展覧会の公式HPにアップされている太田好治さんとの対談動画で、ゲルハルト・リヒター展に行ったことやアートへの想いが語られていました。特に印象的だった展覧会はありますか?

松本 田根くんの『未来の記憶』展(※1)はすごくよかったですね。あと、寒川裕人くんのユージーン・スタジオの展覧会(※2)もよかったですし、オラファー展(※3)もよかった。タレルも大好きなので、直島の地中美術館や新潟の光の館も印象深いですね。海外の展覧会にも結構行っています。アートを観る目的で旅行先を決めることもあれば、旅行することが決まった後に、その時期にどんな展示が行われているかを調べてアートや建築を観に行くこともあります。

──先ほど南寺のお話もしていただきましたが、アートの力をどう感じてらっしゃいますか?

松本 僕の中では想像力の大もとです。思想までは変わりませんが、エンタメを仕事にしていると、アートに刺激を受けてアイデアが生まれることが結構あります。僕はなにかをつくる際にリファレンスを用意することが多いんですよね。たとえば海外のセットデザイナーと初めてご一緒した際に、「どんなものが好きなんですか?」と質問されて、写真を500枚くらい送ったことがありました。その写真から、「曲線のフォルムが綺麗なものが好き」といった僕の嗜好が見えてくる。あと、オラファーや裕人くんもそうですが、思想を具現化するようなことをやっている人が好きで、そういう方との会話はものづくりをする上ですごく影響を受けます。「こういう視点で捉えるとこういう人の心が動くんじゃないか」とか、「こういう風にしたら見ている人は気持ちいいんだろうな」という風に発想が膨らんでいきます。

──やはり松本さんのものづくりにおいて、受け手の存在は大きいんですね。

松本 そうですね。アートはつくり手側だけで成立するものでもあると思うんですが、僕がつくっているエンタメは受け手との距離が近い。そういうことも含めて“シェア”という言葉を使いました。受け手との距離感がアートとエンタメのいちばんの違いだと僕は捉えています。

──ご自身でアートを購入されることもあるそうですが、お気に入りのアートを手元に置いておく喜びをどう感じてらっしゃいますか?

松本 コレクター癖がある人間なので、好きな作品を自分が持っているということ自体に喜びを感じます。購入した作品を見ながら、「やっぱりいいな!」と思ってお酒を飲むこともあります(笑)。好きな作品を見ているとニヤニヤしちゃいますね。

※1『田根 剛│未来の記憶 Archaeology of the Future − Digging & Building』(2018年)
※2『ユージーン・スタジオ 新しい海』(2021〜2022年)
※3『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』(2020年)

 

年齢を重ねて減ってきた、フィルターがかからない自分への興味

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小浪とのコラボレーションパートには、「小浪の彩度の高い風景写真で空間を包み込む」という松本のアイデアが採用されている。

──先ほども今回の作品制作の過程で「恥ずかしさを感じた」とおっしゃっていました。YouTubeのインタビュー動画でも「プロデューサーとして展覧会に参加できたらもっと楽しいのに」とおっしゃっていましたが、いまの松本さんは、役を演じる役者のお仕事となにかをプロデュースするというお仕事で成り立っている部分が大きいのだと感じました。

松本 そうですね。年々、なにもフィルターがかかっていない自分に対しての興味が減っているんです。おそらく年齢から来る変化だと思っています。20代の頃は、「こういう自分になりたい」とか「これを追求したい」という気持ちが強くあって、いまもそういう気持ちがなくなったわけではないのですが、僕がやっていることは自分ひとりのものづくりではなく、誰かとの共同作業です。人とコミュニケーションを取りながら制作するものは、必ずしも自分の思い通りに進むわけではありません。お互いにとってよい落としどころを見つけて、それが結果よいものになるのが理想だと思うんです。そういったものづくりを重ねていって、自分に対する興味が薄れていきました。でも、今回家康というひとりの人物を一年半演じることで、「こういうことができるようになったんだな」と思うこともありましたし、「こういうことができないんだな」と思うこともありました。自分に対するさまざまな発見が得られましたね。

──その中でいちばん大きな発見というと?

松本 嵐というグループが休止したことによって、 必ずしもアクセルをフルスロットルで回さなくてもよくなったので、これまでとは違う仕事のやり方をしようと思っていたんです。でも、まだまだ思いっきりアクセルを踏んでもついていける身体と精神力が残っていると感じました。リミッター自体がもう壊れていて、リミッターがないというか。そのアクセルをどう使うかは今後わかりませんが、「まだまだ使えるんだな」ということを発見できたのは自分の中ですごく大きかったです。

──では最後に聞かせてください。どんな40代を送りたいですか?

松本 のんびりしたいですね(笑)。なにもわからないまま仕事が始まった10代があって、20代と30代は「こうなりたい」というものになれたかどうかは置いておいて、自分としては「よい20代、30代だったな」と思えます。まだ40代らしい仕事のやり方は見つかっていませんが、40代を終える時に「40代らしい生き方ができた」「悪くなかったな」って思えたらいいなって思います。

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ひとつひとつのグッズからも松本のこだわりがうかがえる。

 

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来場者がさまざまな情報からシャットダウンされた状態になるところから始まる『PERSPECTIVE』展。五感を研ぎ澄ますことで、新たな景色が見えてくる体験型の展覧会だ。

 

『JUN MATSUMOTO EXHIBITION『PERSPECTIVE ─時をつなぐ眼差し─』

開催期間:2023年12月8日(金)〜24年1月21日(日)
開催場所:六本木ミュージアム
東京都港区六本木5-6-20
開催時間:10時〜 21時(19時30分最終入場)
休館:12/31〜24/1/1
入場料:一般¥2,500
※事前予約制
※入場特典付き
https://perspective-exhibition.jp