陶、油彩、水彩、布と糸のコラージュなど、自由にジャンルを横断しながら制作を続けてきた伊藤慶二。88歳を迎え、いまもなお意欲的に制作を続けるアーティストの個展が、小山登美夫ギャラリーで12月16日まで開催されている。近年、桑田卓郎や新里明士、川端健太郎などの作家たちが陶芸をベースにした作品で注目を集めているが、彼らは伊藤が講師を務めていた多治見市陶磁器意匠研究所での教え子であり、気鋭の作家たちに影響を与えた師の作品が集まる展示としても注目したい。
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デッサンをすれば簡単に三次元で想像できる
タイルの生産地としても知られる岐阜県土岐市に生まれた伊藤は、武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)で油画を専攻。卒業後には岐阜県陶磁器試験場デザイン室に籍を置き、洋食器も含めて器のデザインに携わった。クラフト運動の指導者である日根野作三(ひねの・さくぞう)に大きな影響を受け、北欧デザインの要素なども取り入れながらデザインを続けたという。やがて器のみではなく、絵画を描く要領で立体作品をつくろうと、陶製の彫刻である陶彫作品をデザインして陶工に焼いてもらうようになった。しかし、思うような姿が得られなかったために、自ら粘土をこねて焼物制作を行うようになる。
「デッサンをすれば立体になった時の姿が想像できるので、制作は平面でのスケッチから始めます。また僕は油絵や木炭画も描くので、絵と粘土の立体に境目があるわけではないんですよ。いまは、冬は寒いから3階の絵画用のアトリエで絵を描き、暖かくなったら、1階のアトリエで土を捏ねて窯で焼く。つながっているんです」
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人はみなそれぞれが表情をもっている
開催中の個展に展示されているのは、人の顔や姿、動作など、伊藤が継続的に表してきた「人間とはいかなる存在か」というテーマに迫る作品の数々。1点は陶彫作品を型にとって手がけたブロンズ作品であり、30点近くにおよぶ陶彫作品と10点余りの絵画が並ぶ。プリミティブな彫像のようなもの、仏像や能面を思わせるもの、さらには近代具象彫刻の人物像を想起させる作品まで作風は多様であり、それぞれに異なる表情には生気が宿る。長く主題として人を選んできた理由を聞くと、こう即答する。
「それは仲間たちですから。どういうかたちに僕が人を表現したとしても、みんな仲間で、みんなグループというのかな。人はみんながそれぞれ表情をもっています。だからここに20何点か展示しているけど、決してすべて同じではないからね。コピーしてつくるようなことはしません。1点完成したら、また次に新しい表情をつくる。単純ですよ」
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仲間同士なのになぜ争うのか
会場に並ぶ作品とぜひ対峙してほしい。欲や妬みなどによる小さな諍いに始まり、現在も各地で起こっている戦争まで、仲間同士で争うことの虚しさが身に染みて感じられるはずだ。
伊藤慶二の絵と陶彫
開催期間:開催中〜12月16日(土)
開催場所:小山登美夫ギャラリー六本木
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
TEL:03-6434-7225
開廊時間:11時〜19時
休廊日:日、月、祝
入場無料
http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/keiji-ito2023/