ジャケ・ドローは不思議な魅力をもったブランドだ。1738年にスイスのラ・ショー・ド・フォンで創業して以来、285年経ったいまも天才時計師であったピエール-ジャケ・ドローの意志を継ぎ、独創性にあふれた時計を発表し続けている。そんな名門の歴史をたどるとともに、新たなフェーズへと向かうブランドの哲学をひも解いてみよう。
現代に受け継がれる、創業者の意志と美しき意匠
時は18世紀、ヨーロッパでまだ産業革命がおこる夜明け前。現存する時計ブランドの中でも指折りの歴史を有するジャケ・ドローであるが(現存する最古の時計ブランドと言われるブランパンの2年後=1738年に創業)、創業者のピエール-ジャケ・ドローの名を世に押し上げたのは、ただ時計づくりの優秀さだけではなく、時計と同じくゼンマイ仕掛けで動くオートマタ=自動人形の製作であった。
スイスを代表する時計博物館のひとつであるル・ロックルの「シャトー・デ・モン(モン城)」が収蔵する展示品の中でも、ピエール-ジャケ・ドローが手がけた作品はひときわ人気が高く、その創業者の意志を継ぐブランドとしてのジャケ・ドローもまた、ミュージアムピース級の驚異的なオートマタ腕時計の製作を続けている。
一方で、現在多くの時計ファンがジャケ・ドローの代表作としてみなしているのは、飛び抜けてアイコニックなデザインを採る「グラン・セコンド」の作品群だ。縦並びに配置したふたつのインダイヤルで構成する文字盤は、世界共通の吉数である「8」、横に倒せば無限=インフィニティのシンボルを描く。この秀逸な意匠も、創業者が18世紀につくった懐中時計に遡るものだ。
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唯一無二のレガシーブランドが行う「破壊的創造」
こうした偉大な祖をもつ特別なブランドである、ジャケ・ドロー。その名門が発表した新戦略「ビジョン8.0 ディスラプティブ・レガシー」が、時計業界でいま話題になっている。ディスラプティブ・レガシー=受け継がれる遺産の破壊と創造、という言葉で説明されたビジョンは、長い歴史の中で培ってきた独自の芸術性とクラフツマンシップを、これまで以上に顧客の期待に応えるかたちで体現する計画だ。
新戦略「ビジョン8.0 ディスラプティブ・レガシー」の骨子は3つの柱で説明されている。
まず第一は「ブランドがもつ驚愕の精神へのさらなる注力」と呼ばれるものだ。ジャケ・ドローは他とまったく異なる技術と意匠をもっている。前述の「グラン・セコンド」やブランドの祖ゆずりの驚異的なオートマタは、その代表例だ。今後はこれらの特徴的な差別化要素を活かすため、高価格帯商品の製造に集中する。これは自身がもつ時計製造技術を、新たな高みへと引き上げるということだ。場合によっては、時計の納品箱にも本格的なオートマタを搭載する可能性すらあるという。
次に、第二に挙げられたのは、よりパーソナライズされたサービスを提供すること。今後はオーダーメイドや高級感のあるユニークピース、カスタマイズ用のコレクターズアイテム製作を通じて、顧客の多彩な要望にただひとつの正解を提供するという展開も行っていく。多数のカスタマイズオプションを提供することで、美意識や価値観が異なるそれぞれのコレクターは自分の個性を表現するオンリーウォッチを手にできるのだ。
そして第三は、すべての商品にジャケ・ドローならではのスタイルと技術を採用することだ。かつ、3世紀の歴史を貫く伝統的なテーマを保ちながらも、新素材や技術を積極的に採用し、大胆で新しいスタイルコードも採用していく。たとえば「グラン・セコンド スケルトン」は、すでにその予兆を感じさせる品である。
ジャケ・ドローではこうして誕生する品を、ラ・ショー・ド・フォンのアトリエ体験を含めて、顧客とつくり手を直接結びつけるものにしようとしている。遠方でそれがかなわない場合には、自分の時計が生まれていく過程を、インターネットを通じて提供することも予定された。「フィジタル」(=フィジカルとデジタル)の両面で、ジャケ・ドローは顧客に寄りそうのだ。スイスを代表するレガシーブランドが仕掛ける破壊的創造は、驚きをともないつつ、じつに魅力的なのである。
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新戦略「ビジョン8.0 ディスラプティブ・レガシー」を体現するスケルトン・モデル
ジャケ・ドロー ブティック銀座
TEL:03-6254-7288
www.jaquet-droz.com/ja