【Penが選んだ、今月の音楽】
『ビヨンド・オービット』
『ダンサー・イン・ノーホエア』でグラミー賞の最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネートされ、メディアでも話題となった、ジャズ作曲家の挾間美帆による2年ぶりのアルバムである。かつてジャズの大編成といえば、トランペット、トロンボーン、サックスを4~5本ずつ含むビッグバンドが主流だったが、現在では世界的に編成が多様化。挾間のジャズ室内楽団m_unit(エム・ユニット)はトロンボーン不在、トランペットは1名だけ、サックスはフルートやクラリネットに持ち替える。さらにホルンと弦楽四重奏が加わることでクラシックのオーケストラに近づき、ビッグバンドとはまったく異なるサウンドを生み出した。
彼女がこの独自編成を組んでから10年以上を経て発表された本作は、これまでの集大成と呼ぶにふさわしい内容。伝統的なジャズファンにとっても親しめるイディオムを随所に残しながらも、それを彩る手法がまったく新しかったり、エンタメ性を保ちながら、芸術的な探求も疎かになっていなかったりと、対立軸を融和させてしまうような音楽を実現させていることに驚くばかり。二項対立で分断されがちな時代だからこそ、こうした音楽が新時代を切り拓いていってほしいと切に願う。
最大の聴きどころは、ライブでも終盤に据えられる「エクソプラネット組曲」だ。26分という大作を大音量で集中して聴いてみよう。音の情報量に圧倒される体験からは、まるでSFの世界に登場する最新鋭のスペースシップで宇宙を駆け抜けたような満足感が得られるはずだ。エッシャーの絵から生まれた「A Monk in Ascending and Descending」やアース・ウインド & ファイアーのカバーで有名になった「Can’t Hide Love」も、狂乱的な展開がたまらない。
※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。